8

――奈美夜はその日から学校を急に休み。部屋に閉じ籠り、泣き伏せる毎日を過ごした。突然の告白を聞かされた日から彼の心も同じくさ迷っていた。彼女と思っていた人が、実は男の子であることに聖矢は衝撃を隠せないでいた。


 深いため息をつくと天井を見上げてボンヤリと考え込んだ。瞳に浮かんで来るのは隣で可憐に笑っていた愛する人の笑顔だった。思い出すと、それがやけに眩しく感じた。そして、次々に二人で過ごした日々が急に蘇った。それは色鮮やかなに鮮明に思い出す度に、胸の奥がぎゅっと締めつけられて苦しくなった。恋がこれ程までに愚かで苦しいものとは知らずに。ただ深いため息ばかりついた。不意にベッドの脇にあった指が入った箱を手に取った。彼は、奈美夜にプロポーズして結婚するつもりだった。だがしかし、彼の口から衝撃的な事実を聞かされたあと、その気持ちすらも解らなくなっていた。


「俺は一体、どうすれば…――!」


 そんな時、いきなり部屋の扉を激しく叩く音が聞こえた。体をびくつかせると急にあたふたと辺りを見渡した。そして、次の瞬間に部屋の扉を派手にぶち破って入ってきた男がいた。廿浦は大きなハンマーを片手にドアをぶち破ると、そのままズカズカと土足で部屋に入ってきた。


「おっと失礼、玄関のチャイムを鳴らしても誰もいないみたいなので勝手に入らせてもらいましたよ」


「なっ、なんだキミは…――!?」


「自分は奈美夜様のボディガードであり、影の忍びのような存在です。おっと飲み物はいりませんよ。こう見えて安物の飲み物は、自分の口には合いませんのでお構い無く。まあ、王室御用達の紅茶なら、頂いても構いませんが。」


「だからキミは一体、誰なんだーっ!?」


「廿浦と申します。奈美夜様を傷つけた貴方げどうを葬りに来ました」


「なっ、なっ、何だって……!?」


「はははっ。何て今のは冗談ですよ。もし本気ならとっくに息の根を止めてます」


 そう言って話す彼の目は笑っていなかった。突然のおかしか訪問客に聖矢は頭を抱えた。


「まったく扉を壊すなんてキミはどうかしているぞ!?」


「フン、お黙りなさい小心者が! たかが、奈美夜様が男と知って怖じ気ついた負け犬が!」


「だっ、誰が負け犬だと…――!?」


 カッとなって掴みかかると、廿浦は隠し持っていたスタンガンで彼を一瞬、床の上で気絶させた。


「さて、改めて仕切り直しといきましょうか。用件は1つです。彼と寄りを戻して頂きたい」


「そっ、それが人に頼む態度か……!?」


「もう一発喰らってみますか?」


 廿浦はスタンガンを片手にチラつかせると、タバコを咥えて目の前でウンコ座りをした。


「率直に言いますと奈美夜様は貴方との恋が終わったことにお嘆きになられております。それ程までに貴方をお慕いしているのでしょう。私には解ります。長年、彼のお側でお使いしてましたから――」


「……俺にどうしろと?」


「貴方が本当に彼の事を愛しているのであれば、その腕で抱き締めてあげて下さい。彼は今も貴方を心からお慕いしています。私が彼を慰めることが出来るならとっくにしていますが、それは無理だと解っているのでこうして貴方を呼びに来ました」


「貴方は…――」


 廿浦はタバコを一服吹かすと、切ない顔で語った。


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