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「奈美夜様も好きであのような格好をしているのではありません。彼には昔、幼い頃にご病気で亡くなられた3つ年上の姉が居ました。彼の両親は幼い頃に一人娘の奈美子様を亡くし、それからの間、次の子供にも恵まれず。そして、ようやく再び子供を授かり生まれて来たのが奈美夜様です。ご両親は亡くした我が子を生まれてきた奈美夜様に重ね、女の子として大事に育て愛したのです。無論、彼も最初は女の子として生きることを嫌がっていました。男の子みたいに振る舞えば、両親に叱られて泣いていた時もありました。私はそんな幼い頃から、彼の側に使えて見ていたので彼の辛さはわかるのです――」


「廿浦さん……」


「私が言いたいのは全てお伝えました。本当に彼を心から愛してるのであれば会いに行って、自分の気持ちハッキリと伝えて下さい。貴方自身が後悔しない為にも――」


 彼は最後にそう言って話すと、そのまま窓を開けて出て行こうとした。


「待てよ、俺が彼に会いたくないと言ったら…――?」


「そうですねぇ。その時は貴方が奈美夜様に対して、不埒な妄想の中でチョメチョメしようとしていた事を実行する迄です。それこそピーしてピーします。良いですか?」


「くっ…――!!」


 彼は意味深な事を最後告げると、風のように去って行った。一人取り残された聖矢は自分の気持ちに答えを導くと気持ちは愛する者へと向かった。


――一歩、その頃。聖矢に嫌われたと思った奈美夜は鏡の前でハサミを片手に、自分の長い黒髪を悲しみの余りに切ろうとした。するとそこに母親と父親が部屋に入ってきた。


「奈美夜ちゃん新しい着物を造りましょ! とっても素敵な生地が手に入ったのよ! きっと気に…!?」


 その瞬間、母親が目にしたのは、彼の手にはハサミが握られていた。


『こっ、こらっ!! バカな真似はよすんだ! 私達を困らせて楽しいのかっ!?』


 慌てる両親を前に奈美夜はハサミを持って立ち上がると、自分の髪を切ろうとした。


「こっちに来ないでよ! 私はアナタ達のお人形じゃない! 私は…! いえ、僕は男の子だ! もう女の子として姉様の生き写しとして生きるのは懲り懲りだ…――!」


 そう言って両親の目の前で長い黒髪をハサミでバサリと切り落とすと、床に長い髪の毛がハラハラと舞い散った。そして、両親の目の前から走り去って部屋を飛び出した。母親は自分の息子が長い髪を切ったことに衝撃を受けて床に倒れ込んだ。父親は咄嗟に後を追いかけた。屋敷は一気に騒然となった。逃げ惑う奈美夜を屋敷にいた使用人達が慌てて追いかけて取り押さえようとした。


「コラッ! 待ちなさい!!」


 父親は息子が屋敷から逃げまいと、力ずくで取り押さえた。


「僕はこの家を出て行くんだ! 離して! 僕は女の子として生きるのは、もうウンザリなんだ! それにもう、彼に嘘をつきたくない! 僕は、僕でありたい――!」


「なっ、奈美夜…――!?」


 その言葉に驚くと僅かに掴んだ手の力が緩まった。咄嗟に振りほどくと再び前だけをみて廊下走り屋敷から飛び出して門へと走った。そして、その手前で派手にコケて地面に倒れた。

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