6

 その日の夜、奈美夜は自分の部屋に閉じ籠り。鏡の前で一人泣いていた。暗がりに、彼のすすり泣く声が響いた。


「ああ、きっと聖様は私が男の娘だと知ったら軽蔑するわ。だってずっと、私のことを女の子と思い込んでいるからきっと私が本当は男の娘だと知ったら傷つくわね。もっと早く自分が男だと言えば良かった。あの時に…――!」


 奈美夜はスンスン泣くと、自分の性別に酷く落ち込んでいた。


「お父様も、お母様も、私が本当は女の子で生まれてきて欲しかったに違いないわ。私は生まれた時から、女の子のようにして育てられた。この喋り方も、長い髪も、女の子らしくしなくちゃいけない生き方も本当は窮屈で嫌だった。男の子のように振る舞えばお父様やお母様に怒られた。私は一体、どっちなの? 本当のわたくしは…――」


 このまま彼に嘘を隠していたらきっと良くないのは解っている。でも、私にそんな勇気があるのかしら。私が男の子だと知った時どんな顔をするかしら?


「ああ、聖様…――!」


 奈美夜は悲しみの余りに涙を流すと、鏡の前でうつ伏せになって泣き伏せた。そして、わんわんと大声で泣いた。


 翌日、聖矢は学校で一人落ち込んでる奈美夜の姿を見かけた。後ろから何気無く声をかけると、そのまま逃げるように廊下を走って彼の前から突然と消えた。その次の日も学校で声をかけると、奈美夜は何も言わずに彼の目の前から走り去った。急に態度がおかしくなった彼女(?)の態度に聖矢は首を傾げると次会ったら掴まえてやろうと心に誓った。


 雨が降ったその日、学校帰りに奈美夜は暗い顔で傘をさしながら一人で下校した。その時、急に腕を誰かに掴まれた。グイっと腕を掴まれると咄嗟に後ろを振り返った。すると聖矢は奈美夜の顔を見てきた。


「なんで急に俺のこと避けるんだよ!?」


「――ッ! せ、聖様……!?」


「俺、ナミヤちゃんに気に触る事した!? どうしていきなり無視するだ!?」


「聖様……わっ、わたくし…――!」


 奈美夜は彼の視線から目を反らすと、顔を俯かせて悲しげな表情を見せた。すると、いきなり大胆に抱き締めてきた。


「せ、聖様……! だっ、だめですわ、こんなところ人に見られたら…――!」


「構うものか、教えてくれこの気持ちを! どうして俺の心はこんなに痛い!? キミに無視されてると思ったら息も出来ないほど苦しい……! 頼むから、目を反らさないで俺のことをちゃんと見てくれ!!」


 その言葉に涙が溢れると奈美夜は自分が本当は男の子であることを打ち明けた。


「わっ、わたくし……! 聖様に本当のことを言ってなくて――!」


「本当のこと?」



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