ついに再会!
まだ少し体は震えていたがここに来た時と比べれば、しっかりとした足取りで
もしかしたら、先程の怪異が足止めしてくれたのかもしれない。できる限り悪いことではなく、良い方に考えるようにしよう。
「櫓の後ろの道だから……ここでいいよね」
明は教えてもらった道で間違いないか確認をする。せっかく教えてもらったのに、道を間違えて帰れなくなったら申し訳ない。帰さないようにする見張りでもいるのかと思っていたが誰もいない。他のお面の人が追ってくる前に、早く帰ろう。でも帰るまでにやり残した事がある。
「
この出口に来るまでに運が良ければ合流できるかも、と思っていた。だが
悩んだ末、明はまずはこの道で帰れそうかを確認することにした。
帰り道が本当に正しいかを確かめてから浩輝を探しても遅くはないはずだ。一見すると道の先には闇が広がっていて、どこに繋がっているか分からない。浩輝が近くを歩いていないかを確認しながら、明は歩き出した。
浩輝は男に教えてもらった道を進んでいた。明を探したいが、まずは安全に帰れる手段を確保しておきたい。それにあれだけ怖がっていたのに、むやみに歩かせたくない。浩輝はポケットからスマホを取り出して画面を確認する。
「ここでも圏外」
もし逃げ道に近い場所なら、スマホが圏内かもしれないと期待したが駄目だった。もっとも、圏内だったところで明も同様に近くにいて圏内になっているとは限らないのだが。浩輝はスマホをズボンのポケットに戻す。そして、先にある木に目をやる。その木の葉が動いたような気がした。
お面の奴らは神社に帰ろうとする人たちを待ち伏せしていたのかもしれない。浩輝は木の方に注意しつつ、後ろに下がりいつでも逃げれるようにした。だが、現れたのは会いたかった人物だった。
「古川さんっ」
ようやく明を見つけて警戒心が薄くなったのか浩輝は思わず相手に聞こえるような大きめの声で叫んでしまった。だがそんなことはお構いなしに、明の方へ駆け寄っていった。
「古川さん、良かった無事で。お面は付けられていないようですね」
明は恐る恐る浩輝の方を見る。最初に名前を呼ばれた時は、お面の人に見つかったと思って走って逃げようと覚悟していた。でも、視界の隅に見知った顔が映りそちらを向いた。
「戸田さん!?」
明も浩輝の方に駆け寄る。
「良かった……。良かった……」
「古川さん泣かないでください。追いかけてられなくてすみませんでした」
再会できた安堵で泣き出した明を浩輝はなだめる。
「いえ、私が勝手に戸田さんを置いて走り出したのが悪いんです。ところで戸田さんはどうしてここに?」
泣いて溢れ出る感情が収まった明は疑問を口にする。自分は会話ができるお面の人に教えてもらってここまで辿り着いたが、浩輝はどうやってここに来たのだろう?
「神社の宮司にここに迷ってきた人を帰す依頼を受けたという人に教えてもらいました。その人は他に急用ができたので別れましたが」
浩輝も自力でここまで来たわけではないようだ。
「その方に帰り道を教えてもらいました。おそらく、この道をまっすぐ進むと神社に戻れるはずです。朝になって帰れなくなる前に行きましょう」
「はい」
「それにあのお面たちに捕まると同じような怪異にされてしまいます。怪異にされると倒されるしなかなさそうですので早く逃げましょう」
明は自分がお面の人から教えてもらった情報と浩輝が出会った人に教えてもらった情報に齟齬がないことに安心した。聞きたいことは色々あるが、まずは神社に戻ることが先だ。2人が帰ろうとした時に、背後から砂利を踏む足音がした。嫌な予感がして明と浩輝は同時に振り向く。1番的中してほしくなかった予想が当たってしまった。
「戸田さんっ、どうしよう」
あと1歩のところだった安心感が崩れたのか明の声が狼狽えている。
「神社まで一気に走りましょう。神社では奴らにお面をつけさせられている人はみかけなかったので、ここを出れば安全かもしれません」
ただの推測でしかないが、明を安心させたかった。
「でもっあのお面の人たち神社にもいましたよ!?」
確かにお面を付けさせられている人はいなかったが、明は神社の中であのお面の人を見ている。今思えばこの広場に来る予兆だったのかもしれない。
「今ならまだ神社や付近の店に人がいるかもしれません。もし、神社に帰れても追ってきたらそこに助けを求めましょう」
浩輝は明の手を取って走り出す。自分でも甘い考えだと思うが逃げた方がいいに決まっている。あの金髪の男のように倒すことができれば良かったのだが、自分にはそんな漫画のようなことはできない。明と浩輝は何も言わずに神社を目指して走った。1本道なのだから、前に向かって走ればたどり着くと信じていた。だが、目の前から同じようなお面をつけた人が歩いてくる。
「そんなっ」
ここまできて挟みうちとはたまったものじゃない。一旦引いて相手を巻いてから再び来るのはどうだろうかとも考えた。そう思い振り返ってみたが、お面集団はやっぱり2人を追いかけてきている。
「戸田さん、どうしましょう」
「横の森に入って一旦逃げましょう」
「見られていると意味なくないですかっ?」
2人とも緊急事態で頭が回らなくなってきている。立ち往生している間にも、お面の集団は距離を縮めてくる。浩輝は明を庇うように後ろにやるが、このままだと2人とも捕まりそうだ。
「!」
自分たちもここでお面の仲間になってしまうのかと2人は目をつぶって身構えていた。だが2人は無事だった。目の前からお面の集団が消えていた。正確にいえばお面だけが地面に散らばっており、人が消えていた。
「あの人たちはどこに行ってしまったんでしょうか?」
明が恐る恐る浩輝に訊ねる。
「俺にもさっぱり……」
浩輝も同様が声に表れている。2人は助かったと思いたいが、この状況がいまいち飲み込めず警戒心を解けないでいた。
(あの人は無事なんだろうか)
自分に逃げ道を教えてくれたお面の人を思い出した。都合が良すぎるとは思うが、あの人はお面が取れて元の人間に戻って欲しい。
「もしかして……あの人が何かしたのでしょうか」
浩輝は地面に散らばったお面を見ながら考えている。
「戸田さん心当たりがあるんですか?」
「ええ、俺に帰り道を教えてくれた人が調べたいことがあると言っていたので。このお面の人を消すことに成功したのではないかって」
内心とても気になるので、あの櫓のところまで戻りたい。でも、せっかく逃げれるチャンスを無駄にしても良いものか? 自分ひとりだけなら問題ないが今は明も一緒にいる。彼女は無事に帰したい。
「戻って調べてみますか?」
浩輝の葛藤を知ってか知らずか明の方から提案してきた。
「まだ、夜明けまで時間はありますし」
浩輝もスマートフォンで時間を確認して、明の方を見る。
「古川さんがいいのでしたらお願いします。ですが先に帰っても」
提案はありがたいが、自分のわがままに付き合わせるのは気が引ける。
「私も気になることがあるので、戸田さんと一緒に行きますっ」
浩輝は表情が和らぐ。ここに来た時に怯えていた明は目の前にはいなかった。
「じゃあ、あの櫓まで行きますか」
この場所からも見える、大きい櫓を指した。暗闇の中の櫓はお祭りでみる賑やかな印象はなかった。
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