タイムリミット!

「本当に!?」

ずっと沈んでいたあかりの表情が明るくなった。こんなところ早く帰りたい。

「どうやって帰ればいいんですか?」

単刀直入に訊く。ようやくここから出られるかもしれない。

「神社に繋がる道が一箇所だけあるの。そこをずっと歩き続ければ元の世界に帰れるわ」

ちゃんと帰り道があったのだ。でも、自分たちがやってきたと思われる道は見当たらなかった。同じ道からは帰れないと思っていたのに。

「あの、その道ってどこにあるんですか? 最初ここに来た時も引き返そうとしたんですけれど、来た道が見当たらなくて」

帰り道が分かっていれば、こんな場所にとどまらないですぐに帰っている。

(でも、よく考えたら一箇所だけあるのも都合が良すぎない? わざわざ帰ってくださいと言っているような感じがする)

「あの大きい炎が見える?」

明の心配をよそに、お面の人が遠くに見える一際大きい炎を指差す。

「はい」

周囲には小さい炎を見えるが、指差している炎は一際大きいので間違えようがない。その炎のおかげで夜道でも道を歩けるくらいだ。

「大きい炎のちょうど裏側に神社に戻れる道があるの。ここからだとちょっと遠いけど頑張って」

明は素直には喜べなかった。あの炎はお面を付けさせられた人がいた場所なのだ。見つかる危険性も高い。そんな明の躊躇いを見かねてかお面が言う。

「怖いのは分かるけれど、あそこしか逃げ道がないの。それに時間もないかもしれないし」

「時間?」

確かに早くしないと、他のお面の人に捕まってしまうがそんなに気にすることだろうか。

「今日は神社のお祭の何日目だった?」

「えっと、3日目です。最終日です」

お面の人が頭を抱える。

「それなら早くしないといけないね。お祭りが終了すると、神社に戻れなくなるから」

神社に戻れない? もしお祭り終了までに戻れなかったら、ずっとここにいなければいけないの? 明は頭の中で今言われたことを反芻している。

「あっ正確に言えばお祭り終了の翌日の朝を迎えるまでね。神社にいたの大体何時頃だったか分かる?」

「う~ん、正確な時間は覚えていないですけれど、19時くらいだった気がします」

最後に神社でスマホを見たのが、それくらいだったはずだ。提灯の写真を撮影していて良かった。写真を撮っていなかったら時間なんて確認していなかった。

「19時くらいにこの神社に来たならまだ十分間に合うと思う。さっ早く行って」

お面の人は明を急かそうとする。

「はいっ。でもあなたは行かないんですか? それに話せるのならそのお面も取れないんですか?」

ずっと謎だった。なんで帰り方を知っているのに自分で帰ろうとしないんだろう。話せるのにお面を外そうとしないんだろう。

「私はもう無理なの」

今までの話で薄々分かっていた事が当たってしまったのかもしれない。

「このお面をつけられると、もう取れないんだ」

表情は見えないが、悲しげな様子が伝わってきた。

「そんな」

捕まってしまうと二度と戻れない。その現実を明は突きつけられた。

「その状態で神社に行って外してもらうとかも出来ないんですか?」

神社で似たようなお面を付けた人がいたからお祭り期間なら帰れるんじゃないか。そこで事情を話せばいい。

「この状態で神社まで行けないかもためしてみたの。でも、あいつの意に反した行動を取るのは無理だったみたいで帰れなかった」

同化している以上は、自分と同じ行動を取れということなのかもしれない。

「だから、あなたは捕まらないうちに早く逃げて。今までにも同じように帰り道を教えてちゃんと帰れた人もいるから安心して」

「……はい」

「それともし待ち伏せされていそうだったら、時間に余裕がありそうだったらむやみに動かずに隠れながら様子を見て。焦って動くと命取りになるから。でも、時間がないなら一か八かで逃げ道を全力で走って。神社に出てしまえばもうお面は付けられないと思うから」

きっと何人もの人を見送ってきたのだろう。明は複雑な気持ちだった。目の前の人を助けられないもどかしさと自分だけが助かっていいのかという思いが絡み合っている。

「あの……最後にお願いがあるのですがいいですか?」

「何かしら?」

無理かもしれないけれど、一応は言っておきたい。

「もし長身で眼鏡の人に会ったら、同じように帰り道を教えてあげてください。私のせいでその人とはぐれてしまったので」

浩輝こうきを置いて自分だけ帰るわけには行かない。自分でも帰り道を探すついでに、浩輝がいないか注意する。でも、同じ場所に向かって合流できるならそれがよい。お面の人は無言で頷いた。

「よろしくお願いします!」

明はお願いしたあとに、炎の方へ歩いていった。お面の人は出会ったよりも前向きになった明の背中を見送っていた

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