思わぬ遭遇!
4
少し走って頭が冷えて冷静になれた
今すぐスマホで連絡を取って謝りたいが、ここは圏外だ。1人で逃げ出してはそれこそ戸田さんに申し訳ない。なんとしても探し出さないと。行き違いになるかもしれないけど、もう一度あの広場の近くまで戻ってみるのはどうだろうか。
「そんなに堂々と歩いていると、みつかっちゃうよ」
「そうですよねっ。あの怪しいお面集団に捕まらないようにしないと。気を付けます」
突然知らない声に話しかけられて、思わず返事をしてしまった。迷い込んだ人は思っていたよりも多いのかもしれない。
もしかしたら、一緒に神社に戻れないか考えてくれるかも。そう思い振り向いた。
「ひゃあ」
明の表情が強張った。早く逃げたいが、足が思うように動かない。お面を付けられた男女の光景がフラッシュバックしてくる。
明の目の前には例のお面の人がいた。助かったと思ったのに、結局は逃げられないのか。
「怖がらせちゃってごめんなさいね。またこの空間に来ちゃった人がいたからあいつに捕まる前に逃がそうと思って」
明の同様に構うことなくお面の人が話始めた。話すことができたんだ。いやそんなことを考えている場合ではない。早く逃げないと。気力を振り絞って後退りしようとする。
「そう急がないで。私はまだこのお面に取り込まれていないから。むやみに動くと同化した奴らに捕まっちゃうわよ」
(???)
明は警戒していたが、お面の人が適度な距離を開けて必要以上に怖がらせないようにしてくれているのでは、と思い話してみることにした。
「やっぱり信用できないよね。何もしないから」
怖がらせないようにしているのか、明に必要以上に近付いてこない。
悪い人じゃないかもしれない。明も今までの発言や見たことで訊きたいことがある。
「会話できたんですね。さっき謎の儀式らしきことをしている時は皆さん静かで話せないものかと」
緊張と恐怖で知ってもあまり意味のないことを訊いてしまった。神社への戻り方とか戸田さんを見かけなかったかとか先に訊いた方がいい情報はたくさんあるだろう。咄嗟にいい判断ができなくて悔しい。きっと戸田さんだったら、的確に情報を得る質問をしたのだろう。
「う~ん、多分だけど私は元々霊感があったから」
表情はお面のせいで分からないが、悩んでいるようだ。
「霊感? 関係あるんですか?」
霊感は霊を見たり気付ことができる体質ではなかったのか。謎のお面に対抗できる能力なのか? でも、霊感とお面をつけられても会話ができるのが何の関係があるのだろう?
「風邪に例えると免疫力っていうのかな? 普段から霊に慣れていたからあいつに同化しなかったって考えている。」
いまいち話についていけない。これは自分に理解力が足りないせいだと思いたくない。
「あいつって誰ですか? それに同化って?」
明は疑問を口に出す。
「その質問には答えるけれど、ここだと捕まりそうだから別の場所に移動しようか」
明の背後で木の葉が揺れていた。
○
「ここなら見つからないかな」
会話ができるお面の人は少し歩いて、木陰に隠れた。
「まず、私が言っているあいつの正体ね。これは大昔に死んだ武士だよ」
「死んだ武士? 幽霊のことですか?」
死んだ人間がこの世にいるとしたらそれは幽霊だから当たり前のことを訊いたと思うが、突然死んだ武士と言われても現実味がない。そもそも幽霊って存在していたのかというそれ以前の疑問もある。
「そうだよ」
「え、ええー」
幽霊なんて信じていなかったので明は語彙力のないリアクションをする。ホラー作家なら思うところもあるのかもしれないが、あいにく明はそのジャンルの話は執筆したことがない。なので上手く返せない。
「その死んだ武士が何か関係あるんですか?」
ただ帰りたいだけだったのに、妙な展開になってきた。
「その武士がこの広場にやってきた人を襲っているんだ」
幽霊に狙われているなんて、信じたくない。ただお祭りに来ただけなのに……。それにお祭りのサイトには弔いって書いてあった気がする。鎮魂できてないよ。
「いきなりそう言われても信じられないよね。私もここに来てしまった時はそうだった」
明は一呼吸おいてなんとか冷静に会話しようとする。
「まだ頭の整理ができないんですけれど、なんで死んだ武士が神社で私たちを襲うんですか?」
明は混乱していた。武士の幽霊がなんで無関係の明や浩輝を狙うのか全く想像がつかない。神社で恨まれるようなことでもしたのだろうか。
「私もお面をつけられて知ったのだけれど、敵に討たれた恨みや無念だけが残ってしまったみたい。それが晴らされないままずっと彷徨っているの。力を付けて恨みを晴らしたいという思考だけで動いていると思っている」
恨みが消えず幽霊になって彷徨う怪談話は明も知っているが、まさか自分が巻き込まれるとは思ってもいなかった。
「でも、なんで無関係な私たちを狙うんですか。この神社の関係者でも敵だった武士の子孫でもないのに」
何もしていないのに理不尽である。
「それはさっきも言ったように自分が強くなる養分にするためだと思うよ。毎年のようにここ迷ってやって来る人がいるし、関係していそうな人もいなかったし。こればっかりは運が悪かったとしか」
あまりにも理不尽だ。運が悪かったで済ませたくはない。
「もちろん私だって、何の関係もないわよ。でも、逃げ遅れて捕まっちゃった」
「逃げ遅れた?」
自分と話しているお面の人も元々は自分たちと同じように、この広場に迷い込んで来てしまったのかもしれない。
「そう、あとちょっとで帰り道を抜けきれるところだったんだけどね。取り囲まれちゃって逃げられなくてこの有り様よ。私は今でも自分の意識があるんだけれど、一緒にいた友人はすぐにあいつらと同化しちゃった。今は誰がその友人なのか分からないんだ」
やっぱり、このお面も元は人間だったのだ。そして、さっきから疑問に思っていたことを明は口にする。
「その……同化って何ですか?」
お面の話に出てくるこの単語が引っかかっていた。
「ああ、お面をつけられると……その人の人格が消えちゃうの」
「えっ!?」
思ってもみない答えが返ってきた。人格が消えるとは?
「個が消えてあいつ―武士と同じ一つの人間になるのが近い、かな。他のお面を見かけたかは分からないけれど、あの人たち皆しゃべらなかったでしょ」
そういえばそうだったかもしれない。目の前の恐怖であまり思い出せないが、言われてみれば確かにという気もする。
明が思っていた以上に危険な場所にきてしまったのかもしれない。浩輝もあいつらの仲間にされていないか心配だ。
「でもなんであの人たち話せないのに、その……武士(?)の目的知っているんですか?」
話せない以上、教えてもらえないのではないか?
「う~ん、同化したからかあいつの考えていることが完全にではないけれど頭に流れてくるんだよね。こっちとしてはあいつの考えなんてどうでもいいけど、自分と同じように行動させたいんだろうね」
「はあ」
同化というものがいまいち理解しきれていないが、あの武士と同じ存在だから考えも同じにされてしまうのだろうか。明が難しい顔をして考えていると、悲観的になっていると解釈したのかお面の人が励ましてくれた。
「あっ、ちゃんと神社に戻れる方法があるから心配しないで」
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