怪しいお面の集団!
○
目の前に自分たちと同じようなお祭りに来た人たちがいるから大丈夫、と自分に言い聞かせながら歩いているとどこからか音楽が聞こえてきた。
「祭囃子が聞こえませんか?」
少し間があってから
「ええ、聞こえます」
浩輝にも聞こえているようだ。幻聴ではないらしい。もしかしたら、神事をしているのかもしれない。邪魔をするのは罰当たりな気もするが、こちらは迷子になっているのだから仕方がない。出入り口を訊ねるために、明は祭囃子がする方向に駆け出した。浩輝も一緒に小走りする。
たどり着いた場所には櫓ある大きな広場だった。その中央には大きな炎があり、周囲を取り囲むように小さな火が置かれていた。最初は出入り口までの道を訊ねることができるかも、ここ鳥居の近くかもと期待していた明の希望は打ち砕かれた。その櫓の近くにいる人は全員例のお面を付けていた。
○
明は目の前の景色を受け止められず、ぼうっと立っていた。何故、怪しいお面がこんなにいるのだろうか? 普通の人はいないのか?
「古川さん、ここで少し様子をみましょう。」
浩輝が小声で注意してくる。はっとして浩輝の助言に従ってその場で立ち止まることにする。もしかしたら自分が調べきれなかっただけで、夜になるとお面に関係する行事が開かれているのではないかと自分に都合の良い理由を付けてスマートフォンで検索しようと鞄から取り出す。
「けん……がい……?」
画面には圏外の2文字が表示されている。灯籠の写真を撮影した時はちゃんと電波が通じていた。同じ敷地内なのにいきなり圏外になるだろうか? 人の多さで通信が不安定になることはあるが、それだと先程の人混みで圏外にならなかったのはおかしい。
明は一層不安になり、浩輝にスマートフォンを見せる。いきなりスマートフォンを目の前に突きつけられて浩輝は困惑する。
「まだ検索画面ですが?」
「スマホが圏外なんですっ」
画面を覗き込んだ浩輝は明のスマートフォンを認してから、自分のスマートフォンを鞄から取り出して確認をする。
「自分のスマホも圏外です」
「ええっ……」
自分たちは神社の中で迷子になったのではなかったのか。これではまるで異次元に来たみたいだ。小説で神隠しに合ってしまい、スマートフォンも圏外の世界に閉じ込められた話を読んだことがある。まさか、自分の身にも降りかかるとかじゃないだろうか。
「戸田さんこれ神隠しとかじゃないですよね?」
明は自分の中の不安を外に出すように訊ねる。
「ええ、そんなのは小説や漫画だけの出来事です」
浩輝が断言する。幽霊の次は神隠しかなんて小言は言わなかった。浩輝は現実的な考えをしているとおもわれる。明だってオカルトを完全に信じているわけではないが、つい妄想をしてしまう。
「そうですよね……。じゃあ、スマホが通じる場所に移動しませんか。ほら、ネットで調べたら帰り道とか分かるかもしれないし」
明は早くこの場から離れたい一心で浩輝を促す。だが、浩輝は1点を凝視していた。
「何かありましたか?」
「あちらを見てください。それと、できる限り小声で話してあの集団に気付かれないようにしましょう」
低いトーンで見つめていた方向を指しながら明に注意する。
「?」
明は浩輝の言いたいことがよく分かっていないが、指した方向を見る。広場の周囲は火が燃えており夜でも周囲がよく見えた。
櫓の近くに若い男女がお面の集団に囲まれていた。2人ともうろたえているのが遠目でも分かる。もし、あのお面集団が神社の関係者で参拝客立入禁止の場所に入ってきた人を注意
するだけなら、あんなに大勢で2人を囲んだりしない。
「あれもお祭りの催し物なんでしょうか? でもあの2人は飛び入り参加したわけでもなさそう……。間違って入ってきたにしてもあの詰め寄り方は変だし」
「遠目からではよく分かりませんが、そのようですね」
明は胸騒ぎがしながらも、目を離せずその場を動けない。
「!」
その時、お面の集団の1人が素早く男の方にあの特徴のないお面をつけた。男はお面を取り外したくてもできないのか、顔を掻きむしっている。女の方は恐怖で動けないのか、怯えた表情で立ち尽くしている。男はしばらくすると静止した。女は駆け寄りたくてもできないのか、手を伸ばそうとするだけだ。次は女の方とばかりに別のお面の人が近付いてきた。
「こないでぇ!」
女性の叫び声も虚しく、彼女もまたお面を付けられた。自分の近くにいるお面の人を振り払おうとしているのか、腕を振り回したいたがしばらくすると動かなくなった。
「あのお面は一体……?」
浩輝は自分の目の前で起きたことを信じられないといった様子で観察していた。しばらくすると、お面を付けられた男女が立ち上がった。
「無事なのか?」
相手に見つからないようにしつつ遠目で見ているので分かりにくいがよく考えたらお面を付けられただけで、倒れるなんてはずがない。だから、あれは祭りの儀式のようなものなのかもしれないと浩輝は自分に言い聞かせた。だが、その予想は覆された。
彼らは無言で他のお面の集団に混じっていった。同じような足取りで動いており、服装以外で見分けることは難しかった。まるでお面の人達と同じ人物になってしまったようだ。
「古川さん、早く戻りましょう。あのお面の集団には近付いてはいけない」
一連の流れで身の危険を感じた浩輝は明を連れて神社に引き返そうとした。自分はたしかにお祭りには疎いが、こんな神社の行事は聞いたことがなかった。いや、自分が知らないだけかもしれないが、それでも参拝客を無理やり参加させるお祭りはおかしいだろう。自分たちはここにいてはいけない。あのお面達に見つかってしまったら、同じようにお面を付けられる。あれを付けられると、自分が消えそうな気がする。そうなる前にここから逃げなければ。
「もうやだっ」
明は叫びだして、駆け出していった。目の前の出来事を現実として受け止めきれなかった。
「古川さんっ待って」
浩輝は明を追いかけようとするが、お面集団がこちらに気付いていないか振り返った時に見失ってしまった。明の叫び声で場所がばれなか心配したが、幸い気付かれてはいなかった。大声を出して探すのは避けたい。
「一体どこへ……」
歩いてきた時間を考えると、そう遠くまで行っていないはず。あのお面の集団よりも先に明と合流しなければ。今の明の状態だと見つかってしまったら逃げ切れないかもしれない。浩輝はお面の集団見つからないことを祈りつつ、駆け出していった。
それを1人の男が厄介な事になりそうだという表情で見ていた。
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