役割泥棒

@mohoumono

黒板消し泥棒

僕は、周りから揶揄われるくらいに背が低い。

それが嫌で嫌でしょうがなかった。

例えば、可愛いとか犬みたいとか飼ってみたいとか。そう言われるのがあまり好きじゃない。多分、僕の理想像が反町隆史とか阿部寛のような渋くてかっこいい人達と言うのも関係しているような気がするけれど。でもそれは、嫌で仕方ないと言うわけじゃなかった。冗談の域で笑って済ませられる事だった。だけど、冗談で笑えなくなるそんな出来事が起こった。僕の学校では、日直が休み時間に黒板に書かれた文字を消すというルールがある。僕は、いつも通りに教卓の下にある台を出して、出来るだけ黒板の文字を消そうと意気込んだ。黒板消しを取ろうとした瞬間、クラスで一番背が高い人が、黒板消しを取り文字を消し始めた。そして、満足そうに、「いつも大変だったよね、ごめんね気づけなくて。」そう和かに笑った。僕は、「うん、ありがとう。でも、自分でも出来るからさそんなしなくてもいいから。」ここで言葉をもう少し強くしたら何か変わったのだろうか。

そして、「いや、いいよ。そんなに気を使わなくても、これくらいすぐ終わることだからさ。」彼は、また和かに笑った。少なくともそうじゃないんだとは、言えないような雰囲気が僕と彼の間で生まれていた。それから、僕が日直の当番である時は、誰かが黒板の文字を代わりに消す、そんな風潮がクラスに広がっていった。大きな黒板を綺麗にしていくそんな感覚が僕は好きだったのに、そんな快感を奪われ、可哀想とか、しんどかったよねとか、気づかなくてごめんねとか、そういう風な言葉を何度も聞かせられた。その途端、背が低い事を惨めに思うようになった。ありがとうもスイッチのようなものに成り下がった。

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