第85話 スラム街にて

 居住地域と思われる場所を目指してさらにスラム街の奥へと進んで行くと、強い風が吹けば吹き飛ぶようなボロ家が並ぶ場所に出た。その様変わりした風景を見ていると、並列思考セレブロが私達に話しかけてきた。


『クラリスの話ではこの辺りが、グローニャのスラム街でも最下層の者が暮らす地域みたいだよ』

「最下層……、スラム街の娼婦や親を失った子供や、生きる気力を失った者が暮らす場所」


 トーレス町のスラム街で、必死に生き抜いていたメドサンが小さな声で呟くのが聞こえた。昔の記憶を思い出したのか、少し辛そうな表情をしていたので声をかける。


「大丈夫?辛いなら……」

「問題ありません。ファミリアに役立つ人材と、未来のある子供を探しましょう」


 私が声をかけると最後まで伝える前に、メドサンは私に顔を向けて返事をする。その目には迷いはなく強い意志を感じたのだった。


「うん、私とエリカは鑑定をしていくから、アニー達は子供達を探して声をかけてくれる?」

「かしこまりました。ファミリアへ迎える子供の数はどうされますか?」


 私が指示をすると、トラパーネがファミリアへ迎える子供の数を聞いてきた。スラム街にどれだけの数の子供が居るのか判らないけど、あまり多くを迎えても対応しきれない。10人くらいが妥当だと思ったので、そのことを伝える。


「初めてだから様子見を含めて10人かな?」

「「かしこまりました」」

「じゃあ、メドサンは私と一緒に、アニー達は個別に探してね。問題が起こったら〚以心伝心〛で伝えてね」

「「OK!」」

「かしこまりました」


 そこから別々にスラム街を進んで行くけど、求めるスキルを所持した者と出会うことはなかった。有能なスキルを持つ者なら、スラム街で落ちぶれた生活をする可能性は低いもんね。そんなことを思っていると、並列思考セレブロがある提案をしてきた。


『人材を探すのに正規ならリクルト商会だけど、裏世界では人身売買で、欲しい人材を流通させてるのは知ってるよね?』

『うん』

『そこへ行ってみるのはどうかな?クズなら救う必要はないけど、救う価値のある者が居るかも知れないよ』


 並列思考セレブロの提案は、身売りされる者の中に有能な人材が居て、その全てがクズではない可能性があるというもの。貧しい家庭で親に売られた者や、ミスをした責任で売られる者がいるかも知れないということだね。


『そうだね。そういう場所があるなら覗くのも悪くないね。ファミリアに戻ったら詳しく話したいから、アネロとクラリスに聞いてみてくれる?』

『OK、伝えておくよ』


 結局、求めるスキルを持つ者は見つからず、10人の子供を連れてファミリアへ戻ったのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る