第53話 山脈の向こう側

 候補地はエリカに丸投げしたので、その日の話し合いは終了したので、それぞれが部屋に戻ろうとすると、エリカが声を掛けてきたので私の部屋で話をする事にした。


「少し長い話になりそうだから、ルカには断って夜番を変わってもらったよ」


 今日はルカの夜番だったけど、エリカの話が長くなりそうなので夜番を変えたらしい。


「そうなんだね。それで話って候補地の事?」

「あぁ、ハルカはこの地に根付いてファミリアを発展させるつもりなのかい?」


 エリカから出た言葉は意外なものだった。

 エルピス山脈の麓に家を建て、荒地を開拓しながら少しずつ農地も大きくしてるんだから、それ以外に何があるんだろうと思った。


「そのつもりだよ。エリカは何を言いたいの?」

「インビエルノ王国から追われてるのに、その国で集落を発展させるのは危険じゃないかい?」

「えっと、エリカは候補地を見つけた後は、ここから離れ移住しようと言いたいの?」

「リスクを考えればそれがベストな選択だと思ってね。あの場で話す前にハルカに聞くべきだと思ったんだよ」


 確かに私達は追われる身だから、国内に留まるのは危険かも知れない。それでも調査団の追求を凌いだら安全だと思ってた。エリカはそれだけでは安全だと思ってないって事だよね。


 そんな事を考えていると、エリカは続けて想いを伝える。


「あたいは今のこのスタイルが気に入ってるんだよ。だから、みんなが安心して暮らせる環境を整えたいと思ってるんだ」

「でも、この場所では駄目なんでしょ?レアルコンプレト王国にそんな場所はあるの?」

「無いわけじゃないけど、それだと国の管理下に置かれるんだよ。あたい達は自由に生きていきたいだろう?」


 私はスライムだ。今は進化してスライム吸血鬼ヴァンピールになって人型なんだけど、それでも人族ではない。それは眷属となったアニエラ達も同じ事で、出来る事なら国に属さず何にも縛られずに暮らしていきたいと思ってる。


「でも、今の私達にはそんな場所は無いんだよね?」

「あぁ、それでだ、ハルカはエルピス山脈の向こう側から来たんだろ?」

「うん、あっ!」


 エリカの言わんとする事が判った。エルピス山脈の向こう側には人が居なかった。山脈を越えて物品を搬送する事が出来ないので、私が初めて遭遇した冒険者ガイルのように、極稀に探索する者が来る程度だ。あの場所なら安心して暮らせるかも知れないと思った。


「エルピス山脈を越えて、条件の合う土地を見つけたらそこへファミリアを移すって事だね!」

「その通りだよ。ハルカなら記憶にある場所に転移出来るなら、向こうで土地を探しに行くのも簡単だろ?」

「うん!私はアニーやパーネと土地を探すよ。エリカはレアルコンプレト王国で、取引の候補地を探してね」

「任せな!この事は明日に話す事にして、あたい達はお楽しみを始めようか」

「そうだね、今日は凄く気分が良いから思い切り楽しもうね!」

「じゃあ、おっ始めようか!」


 エリカとの話し合いで不安な部分が解消された事で、心置きなくエリカとの夜を楽しんだ。


 そして、翌朝にこれからのファミリアの進む先が決まったので、それに向けた準備をする事になったのだった。

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