第52話 いよいよ本番
そして、ついに文化祭当日を迎えた。
多くのお客さんで賑わうお昼過ぎ、僕と黒木さんは実行委員の仕事として校内の見回りをしていた。
「和カフェ繁盛しててよかったね」
「うん……。私、実行委員なんて初めてだから自分の頑張った事がこうして形に現れるのって……嬉しい」
「うん」
僕と黒木さんは裏で黙々とパンケーキを作っていたのだけど教室内の雰囲気から繁盛していたのは伝わっていた。
あれだけパンケーキを作らされたんだ。きっと文化祭の出し物としても結構優秀な成績を納めることができるのではないだろうか。
しかし、他のクラスの出し物や出店も面白そうな物が多くあるのは事実。歩いているとつい目を奪われてしまう。
文化祭も後半だが、実行委員という事もありむしろこれからが本番。
見回りや途中経過の報告、終わってからも片付け等の仕事も残っている。最後の実行委員会に出席しなかった僕は余計にだ。
けれど、初めての黒木さんと一緒の文化祭。思いっきり楽しみたい、ところだけど今回は楽しむだけが目的じゃない。
僕の役目は、まだ終わっていない。
「本当は仕事とかなしに楽しみたかったけど、そういうわけにはいかないよね」
「でも実行委員にならなかったら、ここまで楽しめて……なかったかも」
「黒木さんも楽しい?」
「うん……。すっごく!」
その様子から普段よりもテンションが上がっている事がわかる。
僕も見回りの仕事中とはいえ、黒木さんと文化祭を見て回れる事は嬉しかった。
お客さんの中にはカップルで来ている人もいるけれど、傍から見たら僕たちもそう見えるのかな。
「はい、お疲れ様。黒木さん」
「ありがとう……要くん」
見回りを終えてちょっとした休憩時間をもらった僕たちはそのまま二人で過ごす事に。
「お金……」
「いいよいいよ。僕の奢り」
僕は自分の手に持ったジュースを一気に飲む。
クラスの出し物と実行委員の仕事、色々と重なり現時点でも結構疲れを感じている。
だが、それと共に仕事をこなせている達成感も感じていた。
「こっちの方は……、あまり人がいないんだね」
「対象スペース外だからね。いつもは購買がやってて賑わってるけど今日は休みだし。こんなもんなんじゃないかな」
休憩スペースとして使わせてもらうベンチに腰をかけて僕はスマホを操作する。
「どうかしたの?」
「ん、ああ、由花と母さんが文化祭来てるって」
「そうなんだ。挨拶……できたらいいな」
「もしかしたらどこかで会うかもね」
そうして僕は同時に
「ね、要くん」
黒木さんがちらりと僕の方を見て言った。
「そ、その。文化祭が終わっても、休みの日にゲーム……とか。どこかにまた、一緒に二人でお出掛けとか……してくれる?」
「えっ」
身体をもじもじとさせながら言われた言葉に少々驚く。
当然これからも友達としての関係を続けていきたいと、僕は思っている。できる事なら、もっと黒木さんとの時間を過ごしたい。
それは文化祭が始まる前からずっと考えていた事だ。
でも黒木さん本人から先にそれを言われて、つい意識してしまう。
『二人で』、という事は、また僕とデートをしたいとそう思ってくれているのだろうか。
「う、うん……もちろん。黒木さんが良いのなら、僕もそうしたい……」
「…………」
「…………」
沈黙の時間。
黒木さんと友達になったばかりの頃は、当たり前だったこの時間は、今やむず痒くすら感じる。
何か、次の言葉を言わないと。
黒木さんが勇気を出して言ってくれたのだから。
「――要くん。それと……岬」
その時、ある人の呼び声が僕たちの元へと届いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます