第44話 従姉妹
「ははっ、でもこの前の話し合いの時は驚いたぞ」
僕の頭から手を離した先生が笑った。
しかし、今日に至るまでの間クラス内でのミーティングは何度かあったからいつの事を言っているのか分からなかった。
「なにがですか?」
「お前たち二人が和カフェの参考の為に調査してきたって話しをした時だよ。あれを聴いた時の他の生徒のポカーンとした顔は笑えたな」
「ああ、その事ですか」
ケラケラと先生は笑い。僕はそんな事もあったなと、その時の事を思い出す。
「あれはつい口を滑らしたというか」
何も考えずに二人きりで出かけた事を口にしてしまったせいで、男女共に質問の嵐をぶつけられたのだ。
我ながら。あっ、やってしまったと思った。
さらには皆に口を揃えてそれはデートだと言われ。改めて黒木さんとのあの時間はデートだったのだと実感させられた。
家でも母さんと由花にとことん聞かれたというのに、あの時は注意が足りなかったな。
「それでお前らはどこまで進んでいるんだ」
「……どこまでとは?」
「
悪戯な笑みを浮かべる先生は僕に執拗に黒木さんとの関係を聞いてくる。
できる事なら運転に集中してほしいものだ。
「進んでるって言ったらお前と岬がどこまで仲を深めているかって事に決まっているだろ」
「深めるもなにも僕たちは友達です」
そんな聞き方をされれば、さすがの僕でも何の事を言っているのかなど察しはつく。
だが、友達以上の関係ではない事も確かなのである。
「チューくらいはしたのか?」
「ぶっ! げほっ、げほっ」
僕は落ち着こうとして飲んだお茶にむせる。
「話し聞いてました⁉︎」
「その反応、本当にしたのか?」
「してませんから!」
間接的なやつのちょっとしたアクシデントで起こったが、先生が思うような唇同士では一切これっぽっちも行ってはいない。
「話しが飛躍しすぎですよ。そもそも付き合ってるとかではないので」
「でもデートはしたんだな?」
「それは……、否定はしませんけど」
「ほらな! やる事やっているじゃないか」
「その言い方は語弊がありますよ」
どうして女性というのはすぐに恋愛の話に持っていきたがるのかは分からないが、高森先生の考えに至っては度を超えている気がする。
「そっかー、あのちっちゃくて可愛かった
僕の横で先生は昔を思い出すような口調で話す。
正直、黒木さんの可愛さには僕も同意せざるを得ない。
この前のデートでも、そんな彼女の可愛い一面を沢山知ってしまったからな。
「先生たちは従姉妹同士なんですよね。黒木さんから聞きましたけど、一緒に出掛けたりもするって」
「なんだ、またやきもちか?」
「違いますよ!」
断じてそんなつもりで聞いたわけではなかったのに。そう言われると意識してしまうではないか。
「そうだな。正直岬はあたしにとって妹みたいなものだからな。それぐらいには仲が良いと思うぞ」
「昔の黒木さんって、どんな感じの子だったんですか」
「可愛かったぞー。あたしの後ろをずっとついて来てな。しかも甘えて来るのが可愛いのなんの」
「まるで親バカですね」
姉妹、というよりまるで母親のような目線で先生はその時のことを語る。それはまさに、彼女の事を見守っている事が窺えた。
「まあ、岬が中学に上がってからは頻繁に会う事はなくなったがな。だから、今こうして同じ高校の教師と生徒の関係であいつの成長を見られるのは嬉しいよ」
「本当に仲が良いんですね」
「もちろん他の生徒と贔屓するつもりはないがな」
その辺りは心配する事はないだろう。
いくら身内だからって、私情で一生徒の成績をどうこうできる訳でもないからな。それに、高森先生がそんな事をするとも到底思えない。
「そういえば、
「ええ、三つ下の妹が一人」
「そうか。妹とは仲良いのか? 要に似て大人しいのか?」
意外にも、高森先生はうちの家族構成を知っていたようだ。
「いえ、僕とは真逆ですね。元気でハツラツとした妹ですよ」
いつも笑顔で元気な由花は、影のような僕とは違い正反対な性格だ。
「そうか、岬も昔は――」
「黒木さんがどうかしたんですか?」
「……いや、なんでもない。忘れてくれ」
「?」
今、なにか言いかけてたよな。気のせいか?
「と、そうだ要。これから店に着いたら和服を借りるわけだが。お前にはそれを運ぶのを手伝ってもらうからな」
「はい、もちろんです」
「あと、そんなに長居はしない予定でいてくれ。借りたらすぐに学校へ戻るぞ」
「それは構いませんけど、なにか急いでるんですか?」
「そういうわけじゃないが……」
珍しいな。先生が物事をはっきり言わないところなんて初めて見た。
それから、僕と高森先生は目的の和服を取り扱うお店へと到着する。
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