第43話 ドライブティーチャー

 

 無事に黒木さんとの和カフェの調査を目的としたデートを終えて一週間。

 文化祭当日まで、あと五日となった。


 僕たちのクラスは本格的に文化祭の準備に取り掛かっている最中だ。


 当日の動きやスケジュールに合わせて和カフェのシフトはすでに確定。

 まさかシフト制のバイトの経験がここに活きてくるとは僕も思わなかった。おかげでクラスみんなの希望通りのシフトを組む事ができ、僕も満足している。


 今現在はメニュー表や店内の装飾作りが大詰めと言ったところで、残すは実際の商品として提供するパンケーキと店の制服だけだ。


 僕と黒木さんのデート時に得た情報や新たに出た案をクラス全体に提案した所、快い返事を貰うことができたのである。

 カップル割引も採用して、現在はパンケーキを絶賛試作中だ。


 大きなものでいえば、あとは和カフェの衣装くらいである。

 そんな女子が着るための制服はというと。


「ほら、かなめ。これでも飲め」

「あっ、ありがとうございます」


 コンビニから戻ってきた高森先生は車で待っていた僕にペットボトルのお茶を差し出す。

 そんな先生の袖からはタバコの匂いがした。


「先生。タバコ吸うんですね」

「ん? ああ、バレたか。もちろん、休憩の時だけだぞ」

「分かってますよ」


 男勝りな先生には似合いそうだと内心思ったが、それは言わないでおこう。


「あともう少しで着くからな」

「はい。ていうか先生、お金」

「生徒からお金を貰えるものか。それは私からの奢りだ。有り難く受けとれ」

「……それなら。頂きます」


 現在僕と高森先生の二人は、制服を提供してくれる先生の知り合いがいるというお店へと向かっている。


 車にエンジンをかけて走り出したところで、僕は改めて高森先生に御礼言う事にする。


「先生も忙しいのに、車まで出してもらってありがとうございます」

「別に構わないさ。本当ならあたし一人でも良かったんだが」

「そういうわけにはいかないですよ。使うのは僕たちなんですから」

「……お前、女性者の服に興味あったのか」

「いや違いますよ。僕が着るわけないじゃないですか」


 何を勘違いしているのか。僕たちとは言ったが僕が女性者の和装を着るために自分で取りに行くわけではない。

 当然、クラスの代表として実行委員の僕が先生に同伴しているのだかの事である。


 高森先生だって、それを分かっているはずなのに……。意地悪な人だ。


「それより、黒木さんは大丈夫でしょうか」


 文化祭に向けての準備の最中に、実行委員が二人して居なくなるわけにもいかない。

 そのため、黒木さんが自分が学校に残ると言って実行委員としてクラスをまとめてくれている。

 未だに他の生徒達とコミュニケーションは相変わらずなので少し心配だったりする。


みさきなら大丈夫だろ。三谷もいるしな」

「そう、ですね」

「なんだ? やきもちか?」

「違いますよ! からかわないでください!」


 急に何を言い出すんだ。


 今現在、僕がクラスを離れる代わりに、幼馴染の新太が代理として黒木さんのサポートをしてくれているはずだ。

 新太への対応も黒木さんは相変わらずだったけど、それぐらいの事で新太は仕事を投げ出すような奴ではない事は僕が一番理解している。


「普通にちょっと心配になっただけですよ」

「三谷と岬が仲良くなるんじゃないかって?」

「違います。なんでそういう話に持って行きたがるんですか」

「ははは、ついな」


 高森先生は明らかに面白がって言っている。

 車内でなにも会話しないというのも味気はないが、だからってこの話の内容はいささか問題があると思う。


 まあでも、先生の言うとおりか。心配するのはここまでにしよう。


「けど、僕が残って黒木さんが行っても良かったかと思うんですけど……」


 唯一気になったのは、黒木さんがこれから向かう和服屋さんに行きたがらなかった事。

 やはり人見知りだから、お店の人に会うのを避けたのだろうか。


「まあ、岬にも色々あるんだろう。……気持ちの整理とかな」

「?」


 先生が何か思い悩むような顔を見せる。

 僕は、先生が何を意図してそういったのか理解ができなかった。


 しかし、高森先生はすぐに話題を切り替える。


「それより、大方準備の方も順調だし。お前たちに実行委員を任せて正解だったな」

「黒木さんが頑張ってくれましたから」

「相変わらず謙虚だな要は。お前だってよくやってくれているだろ」

「そう……ですかね」

「岬は人前ではあまり話さないからな。お前がその分、クラスでの集まりの時は前に出て話してくれるからこそ。こうして上手く事が進んでいるんじゃないか」

「それなら、良かったです」


 車を運転しながら僕を褒めてくれる高森先生に頭を撫でられ、子供の頃親に褒められた事を思い出す。

 童心に帰ったそんな感じがした。

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