第25話 一度だけのゲーム仲間
「ゲーム……?」
「そう。僕がよくやってるオンラインゲームなんだけど」
僕の発言に
ゲームに対しての無知の現れなのか、それとも。
「会長って……、ゲームとかするんだね」
どうやら、先輩の意外な一面に対しての反応だったようだ。
「やっぱりそう思うよね……」
「?」
黒木さんはあまり理解していないようだったけど、予想通りの返答に僕はひとり納得する。
「
「うん、私なんかでも……知ってる」
私なんか……か。
「結構黒木さんもハイスペックだと思うんだけどな……」
「……?」
「いや、なんでもない」
黒木さんは自分にどれだけの人気があるのか分かっていないようだ。
天然? 無頓着なだけかもしれないけど。
「とりあえず、そんな先輩がゲームを趣味でやってるって事が知られれば、それを分かってくれる人とそうでない人が出てくると思うんだ」
「あっ……」
ようやく黒木さんも僕の考えを理解したみたいだ。
本人が隠している事なのかは不明だけど、当時の僕からみても先輩は生粋のゲーマーだった。
だからそれが校内に広まれば、先輩に対しての印象が上がるのか下がるのか。その判断は難しい。
「あまり他言はしないでほしいっていうのはそういう事なんだ。僕も口止めされてるわけじゃないけど、知らない所で自分について噂されるのっていい気はしないと思うから」
それはここ最近で、身をもって理解したつもりだ。
話の内容が良くも悪くも……ね。
ひとまず、現状先輩の趣味について知る者はあまりいないという事に変わりはない。
「うん。……そういう事なら、絶対に言わない」
「ありがとう」
「でも、どうして
話しが進むにつれて明かさなくてはいけない事が増えてゆく。
僕は彼女の質問に素直に答える事にした。
「実は、先輩が持ってたゲーム関連のグッズがきっかけなんだ」
「グッズ?」
「キーホルダーだったんだけどね。それを塾の中で拾ってさ。そこに偶然落とし物を探してた先輩と出会って、まさかとは思ったけど落とし主なのか聞いたんだ」
今思えば、あの柊澤先輩に二次元のグッズを持って、これはあなたのですか? なんて聞けた自分すごいと思う。
「そうしたら」
「会長の落とし物だった……。って事?」
「そう。そして、僕もこのゲームやってますよ。って言ったらその日の夜に一緒にゲームで遊ぶ事になったんだよね」
今まで一度も話した事すらなかったのに、あの時の先輩の行動力には驚かされたな。
中学の頃は今以上に人見知りだったけど、僕も相手が相手なだけに断る事はしなかった。
でも、その時は本当に一度遊んだだけで、ゲーム内でのフレンド交換の流れにもならなかったから。一時的なパーティは組んだものの、それ以来は塾で話す事もなく一緒に遊ぶ事もなかった。
僕は元々ゲーム内でのフレンドは多かったし、あちらも他に遊ぶ人がいたのかもしれないと考えて、結局いつも通りのプレイスタイルに戻ったのだった。
「そんな事があったんだね。……よかった」
「よかった?」
「う、ううん。何でもない……よ!」
何やらほっとした様子の黒木さん。
その理由は分からないが、事の経緯については納得してもらえたみたいだ。
「じゃあ、黒木さんはもう怒ってない……よね?」
「……怒る? ……あ、そういう話だったね」
話を聞くのに夢中で、完全に忘れてたなこれ。
「あっ、でもまだ条件が残ってる……よ」
しまった。余計な事を言ってしまったかもしれない。
「そういえば、その条件って一体……」
先程は秘密と誤魔化されてしまったからな。ある程度のものが来る事も覚悟しないと。
といっても、黒木さんが意地悪な事を言うとも到底思えない。どんな条件なんだろうか。
「今度の……休日って、何か予定ある?」
「えっ、特にはないけど」
「それなら、学園祭でやる和カフェの参考に……、街の方に、その、お出掛けしたい……です」
黒木さんは顔を赤くして僕の目を見た。
「要くんと……一緒に」
「はい⁉︎」
え、今なんて? 休日一緒に? それってまるで……。
いやいや、違う違う。自分に良すぎる方に捉えるのは良くないよ。うん。
僕の頭の中には一瞬にして色々な想像が思い浮かんでいた。
「……ご褒美ですか?」
そんな中、思わず僕の口から出た答えは誤解が生まれそうなものだった。
「えっ?」
「ううん! 何でもない! 気にしないで!!」
声に出てた。つい気分が高揚してしまい変な事を口走ってしまう。
調子に乗るなと自身を殴りたい衝動に駆られる。
「……?」
幸い本人の耳には入っていなかったみたいだ。
そんな現状に、心底安心する。
それに、黒木さんからそんな頼まれ事をされれば答えなんて決まっている。
「……いいよ」
「本当に……?」
「もちろん、僕なんかでよければ」
文化祭までの間はバイトもないし、特に予定も入ってはいない。
たとえ予定があったとしても、是が非でも黒木さんとのお出掛けを取るけどね。
「じゃあ、次の休みの日、一緒に出掛けようか」
「……やった!」
黒木さんが喜びの表情を浮かべている。
むしろ嬉しいのは僕の方だ。
文化祭の仕事の一部とはいえ、休みの日に黒木さんと会えるなんて事そうそう無いのだから。
「……要くんと、デート」
最後に黒木さんから呟かれた小さな声。
僕はそれを聞き取れなかった。なんて言ったんだろう?
いやそれよりも、よもや黒木さんからこんな提案を持ち掛けてくれるとは、これも文化祭実行委員を受けたからなんだよね。
本当に引き受けてよかった。最近黒木さんと一緒にいれる事が嬉しいし、楽しい。こんな気持ちは初めてだ。
今までの友達にはこんな事感じなかったのに……。
僕はそんな休日に向けて、華やかな気持ちで帰路に着くのだった。
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