第24話 小さな接点

 

「実はさ、高校実験を控えて通っていた塾があったんだけど、柊澤ひいらぎさわ先輩もそこの生徒だったんだ」

「えっ……。そうなの?」

「うん、たぶん先輩は今でも通ってるんだと思う。僕は高校受かってすぐに辞めちゃったんだけどね」


 僕は親の薦めで中学三年生に上がって受験までの間、塾に通わせてもらっていた。今現在、志望していた高校に通えているのはその時のおかげなのだ。

 そして、その塾には我が校の生徒会長でもある柊澤先輩も在籍していた。


「やっぱり綺麗な人だから塾内でも有名でさ。当時は僕が中三であっちは高一だったから教室は違かったんだけど、僕も名前ぐらいは知っていたんだ」

「……ふーん。確かに綺麗な人、だよね。会長って」

「う、うん」


 何だろう、黒木くろきさんから何かしらの圧力を感じる。


「だ、だけどその時はまさか志望校の先輩だなんて思わなくて。基本塾には私服で来る人がほとんどだったから……」

「じゃあどうして……」

「えっ」

「会長はかなめくんの事……知ってるの? 同じ塾って、だけなのに」

「あぁ、それは多分一度だけ遊んだ事があるからだと思う」

「えっ……、そ、それって」


 黒木さんが頬を赤らめながら言う。


「デ……、デート?」

「いや違うよ! 断じてそういうんじゃなくて!」


 突然黒木さんがそんな事を言うから驚いてしまう。

 黒木さん、そう言うことにあまり関心が無さそうだと思っていたけれど考えを改めないといけないな。


「でも遊んだって……」

「あ、あーいや、そんな大それたことじゃないんだけど」


 そういえば、柊澤先輩がいないところで人に話して良いことなのかな。


「やっぱり何か会長と……あるの?」


 黒木さんが考え込む僕に詰め寄る。

 今日の黒木さんは何かとグイグイ来るな……。


「あの、黒木さん。今から言う事はあまり他言してほしくないんだけどいいかな?」

「……! それってやっぱり、デートしたって……事?」

「違うよ! ただ、ちょっとだけ柊澤先輩のプライベートに関わる事かもしれないから」

「そう、なんだ……」


 それから黒木さんは少し安心した素振りを見せる。


「……分かった。その代わり、こっちも条件出しても……いい? それなら誰にも言わないし要くんの事も許す」

「じょ、条件って?」

「……まだ秘密」

「えぇ……」


 どうやら僕に決定権はないらしい。

 いつの間にか許してもらうには、先輩との関係を話す事に加えて条件が付けられる事にもなっているが。

 でもまぁ、これ以上黒木さんの機嫌を損ねるのも僕にとっては望まぬ事。なら、ここは従うほかないだろう。


「了解」

「じゃあ、契約成立だね」


 そうして彼女は僕に小指を差し出す。


「……これは?」

「指切り」

「あ、なるほど」


 わざわざそんな事をするなんて黒木さんの意外な一面だな。幼いというか可愛らしいというか。

 リアルの美少女とこんなシチュエーション、もはやご褒美のようなものだ。


 僕はそっと黒木さんの小指に自分の小指を絡ませる。

 うわ、黒木さんの指細いな。それに肌が柔らかい。……って、気持ち悪いな僕。


 そういえば前にもこんなことあったな。黒木さんと友達になった日も握手を交わしたっけ。

 彼女は、こういった事を形表現するのが好きなのかもしれないな。


 僕はゆっくりと小指を離してから、黒木さんに向けて話しを進める。


「じゃあさっそく、先輩と遊んだって事についてだけど……」

「うん」


 黒木さんも覚悟を決めたように小さく頷く。


「塾に通っていた頃に、一度だけ先輩とをして遊んだ事があるんだ」

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