第23話 ヤキモチ?

 

黒木くろきさん、柊澤ひいらぎさわ先輩……。生徒会長と何かあったの?」

「えっ」


 生徒会長と別れ、学校を出てからというもの。

 黒木さんは一度も話す事なく僕の隣を歩いている。

 普段無口な彼女なら想像はできる事だろうけど、最近登下校を一緒にするようになった僕からすればいつもと違く感じてしまっていた。

 今朝も一緒に登校する時は、今日の実行委員会の事とか色々と話をしたのをはっきりと覚えている。


 だから、先程の一件で何か思う事があるのか。それが気になって仕方がない。

 二人は初対面のようだが、どうやらさっきの雰囲気からして僕が知らない何かがあるらしい。


「柊澤先輩に対する態度が、普段の黒木さんとは違かったから」

「…………」

「ん⁉︎」


 何も言わない黒木さんを横目でチラッと様子を見る。

 するとそこには頬を小さく膨らませた彼女の表情があった。


「く、黒木さん? もしかして怒ってる?」

「……別に」

「いや怒ってるよね!」


 つい声に出して叫んでしまった。


「……怒って、ないよ」


 彼女の声が徐々に小さくなっていく。

 理由はわからないが、どうやら僕は無意識のうちに彼女を怒らせてしまったらしい。


「怒ってはない……と思う」


 黒木さんは視線を逸らしてもう一度言われる。

 本人はそう言ってるけど、明らかに黒木さんは不満げな顔をしていた。

 どうしたら許してもらえるのだろう。そもそも黒木さんは何に怒っているんだ。


かなめくんは、会長と知り合いなの?」

「へ?」


 突然聞かれた事につい間の抜けた声を出してしまう。


「だって、要くんはともかく。会長も要くんの事を知ってそうだったから」


 そういえばさっき、僕のことをフルネームで呼んでいたような。


「だから面識があるのかなって。二人の様子を見て、ちょっとだけムカついた」

「え、それって……」

「だから、会長との関係を教えてほしい、な。そうしたら、許す」

「やっぱり怒ってるんだね」


 でもこれって、やきもち?

 いやまさか、それは行き過ぎた考えだろう。

 黒木さんは友達である僕と、柊澤先輩が話しているのを間近で見て面白くないと思ったに違いない。

 とりあえず、そういった理由で良かった。すぐに何でもかんでも謝罪から入ってしまうのは僕の悪い癖だと、担任の高森たかもり先生にも言われた事がある。


 それに友達と過ごしていたのに、普段関わりのない誰かがその空間に突然入って、その人物が話の中心となったら誰もいい気はしないと思う。


 特に黒木さんは、友達という事にとても執着しているようだからな。


 ……あれ? でもそれだと、どうして黒木さんは自分から友達を作ろうとはしないんだろう。

 本人は友達はいないって言ってたけど、黒木さんくらい人気な人ならすぐにできるはずだ。でも、普段は無口であまり自分からは人と関わろうとはしない。

 これって、矛盾しているような気がする。


「……要くん?」

「えっ、うわぁ!」


 名前を呼ばれて我へと帰る。

 気がつけば、黒木さんは僕の目の前で顔を覗き込むようにして至近距離にまで近づいていたのである。


「どうしたの……?」

「な、何でもないよ……」


 おかしい。つい先程まで僕がそう問い掛けていたのにな。

 色々と考えているうちに僕の方が周りが見えなくなってしまうなんて。


「えっと、柊澤先輩と知り合いなのかって話だよね?」


 話しを戻すと黒木さんはコクリと頷く。


 まぁ気になるよな。正直僕も名前を覚えられているとは思わなかった。

 ただ、生徒会長とはいえ多くの生徒が在籍するこの学校で一人一人の名前をフルネームで覚えるのなんて不可能だ。

 日頃から柊澤先輩とも会う機会はそう無いし、学校で彼女と話した事など皆無に等しい。


 だが、そんな彼女と僕にはちょっとした接点があった。

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