第19話 和カフェ!

 

かなめくんは何かやりたい事ないの?」

「うーん、特別やりたい事はないかな。……でも」

「……?」


 もちろん今まで出た案は貴重なものだ。

 僕としても、皆の希望に沿った出し物に決定付けたい。


「おい要、言いたい事があるならちゃんと言うんだ」

高森たかもり先生……」

「お前は実行委員なんだ。みさきも意見を言ったんだし、お前もちゃんと言うべきじゃないのか?」


 教室の隅で僕たちの様子を見ていた先生が足を組み直す。


 任せたぞ、とでも言いたげな顔だ。

 仕方がないと思いながらも、僕はクラス全員に向けて話す。


「ここで決まった出し物については、この後実行委員の集まりで正式に決定します。でも、他のクラスと内容が被った場合はくじ引きで決まるから、第一希望になるかは分かりません」


 特に喫茶店なんかは文化祭の醍醐味と言っていい。

 当然他のクラスでもやりたいという声は多いだろう。


「じゃあここでの話し合いの意味なくない?」

「でも決めないわけにもいかないよ」

「えー、変な出し物になったら嫌だな」


 と、不穏な声が上がる。

 一年生の頃と違って二年生にもなれば後輩に気を遣う事もないし、三年生は受験の時期。

 だから二年生の出し物がこの学校のメインとなる。つまり、高校の文化祭で一番の思い出を作るのならこの時期がベストというわけだ。


「それじゃあ、喫茶店は無理……なのかな」


 黒木くろきさんも残念そうな顔をしている。


「うん。ならね」

「ただの?」


 最初に黒木さんが喫茶店と言った時、僕の中である考えが浮かんだ。

 それもこれも、事前に先生が文化祭の実施についての説明と資料を用意してくれていたおかげだけどね。


「普通の喫茶店をうちのクラス以外にもやるって所があれば、それは内容が同じと判断されるけど。全く別の内容の喫茶店を提案するなら大丈夫だと思う」

「どういう事だよ要?」

「もっと分かりやすく説明してよー」


 僕の言った事に興味を持ったのか、さらに詳しく話すようクラスメイトに頼まれる。


「簡単に言えば、喫茶店は喫茶店でもコンセプトによっては並列して飲食店を出す事は可能みたいなんだ」

「じゃあ、コンセプトさえあれば……」

「うん、希望は通ると思うよ」


 コンセプトの件は黒木さんも知らなかったらしい。

 これは先生から貰ったここ数年の文化祭の出し物表から読み取った僕の意見だけど。現に、数年前の文化祭では二学年全てのクラスが喫茶店を開いたらしい。メイド喫茶や男女入れ替え喫茶、仮装喫茶など入店するだけで楽しめる喫茶店を展開したのだそうだ。


「コンセプトって何だ?」

「コンセントの仲間じゃない?」

「とりあえずそれがあれば問題ないって事だろ」


 おい君たち、本当に高校生か?

 分かりやすい説明を求めるから丁寧に話したつもりだけど、理解していない生徒が数人いるらしい。


「なら真吾しんごはどんなコンセプトの喫茶店がいいと思うんだー?」


 打開策を皆に伝えたところで、新太あらたが手を挙げて言った。


 助け舟のつもりなのかな。奥に座る幼馴染の顔は妙に笑っているけど。

 普段僕がこうして前に出る事がないから楽しんでいるな。よし、後で何かの形で懲らしめてやろう。


「強いていうなら、和カフェとか……かな」

「和カフェ?」


 近くにいる黒木さんが一番に聞いてくる。

 学生だとあまり馴染みない物だから知らないのかもしれないな。


「普通の喫茶店ってコーヒーとかを出すでしょ? 和カフェは抹茶や日本茶をメインに提供する喫茶店ってところかな。和菓子とかもサイドメニューにしたりしてさ」

「古風な喫茶店……?」

「そうそうそんな感じ。文化祭は外からのお客さんも多いし、学生以外の大人たちにも楽しんでもらえそうかなって」

『…………』


 クラスのみんなにも聞こえるように、僕は少し声を大きくして説明をした。

 そして。


「いいじゃん和カフェ!」

「和菓子ならスーパーとかコンビニでも買えるし、予算も心配いらなそう!」

「じゃあさ、ちょっとした制服なんかも作ろうよ。着物っぽいやつ」

「いいねー!」

「それなら手芸部の出番だね」

「頼んだぞ女子〜」

「男子も頑張ってよ!」


 意外にも僕の意見に皆賛同してくれた。

 たぶん他のクラスはメイド喫茶なり執事喫茶と、例年にもあるような見た目を重視した喫茶店を持ちかけてくると思う。

 それなら、メニュー自体に重きを置く和カフェには正直自信があった。


「すごいね要くん」

「えっ、そうかな」

「みんな要くんの意見に賛成してくれてる。ありがとう」

「そんな、僕はただ自分の意見を言っただけだよ」


 それもこれも、先生のおかげ……。


「ぐごー」


 途中から何も言わないと思ったら、パイプ椅子の上で盛大に寝ていた。

 日常的な業務に疲れているのだろうが、教師が居眠りというのは本末転倒な気がする……。


「ぐがー」


 まぁいいか。

 それにしても、女性らしからな大層なイビキだなぁ。

 根は良い人なんだけど、結婚できないのはこういう所が原因なのかもしれない。

 ……本人に言ったら確実に地獄を見せられそうだから心の中でだけ思う事にしよう。


「それじゃあ、うちのクラスの出し物は和カフェでいいですか?」

『賛成ー!』


 全員の意見が一致したところで、うちのクラスの出し物の案が固まった。


 そこからは、クラス内での分担の話し合いへと移行した。

 黒木さんが自作してくれたクジの結果で役割を決めたところで今日の活動は終了する。


 出し物が採用されるかは別にしても、クラス全員で話し合いを設ける時間はそうそう無い。だから今のうちに係を決めておく。実行委員にも仕事を抱える限界があるからな。


 でもまさか、最終的に僕の意見が採用されるとは。言い出しっぺだから責任も重大だな。

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