第16話 周りの評価

 

「よーし、お前ら。今日の六限目はHRホームルームをやるぞー」


 次の日の現代国語の授業で、先生が教卓の上に手を付きながら言った。

 見たところ、教科書や資料を手には持ってはいない。

 その様子から、今日がクラス内で文化祭についての話し合いをする時間にあてられる事を悟った。


「先生〜。何についてやるんですか〜?」

「みんなも知っていると思うが、あと一ヶ月ちょっとで文化祭が始まる。今日はそれに向けての話し合いを進めるぞー」

『文化祭!』


 わあっ! と、クラス中が一気に賑やかなムードへと変わった。


「文化祭何やるんだろ?」

「それを今から決めるんじゃん!」

「俺お化け屋敷がいい!」

「えぇ〜クレープ屋さんにしようよー」


 うちの高校は校則が緩いだけあって、こういった学校行事には張り切る生徒は多い。

 火を扱うような出店から教室を使ってやる喫茶店や先程出たお化け屋敷まで、毎年様々な出し物をするのがこの高校の文化祭だ。

 だからこそ、今もこうして皆口々に楽しみだと言う。


 インドアな僕としては去年まで無縁のような物だったけど、今年は一味も二味も違った。


 ……正直、今年は僕もちょっと楽しみにしている。


「実行委員は誰がやるんですかー?」

「これから決めるんじゃない?」


 文化祭に興味津々な生徒達からそんな声があがる。


 うっ……、もう緊張でお腹が痛い。

 知らない以上仕方のない事だとはいえ、当の本人が近くにいるのにそんな事を口にしないで欲しい。


 おそらく数分後には先生が立つ教壇の上に、僕と黒木さんがいるはずだからだ。


「でも確か、うちの文化祭の実行委員てさ毎年帰宅部が中心だよね?」

「そういえばそうだね」


 不意にそんな会話が耳に入ってくる。


 クラスの真ん中辺りに座っている生徒が発信したことにより、近くの生徒達もそういえばと、その話題に変わっていった。


「じゃあもう実行委員ってだいぶ絞られるんじゃない?」

「だよな。うちのクラスで帰宅部って言ったら……」


 僕がこの流れはまずいと思い、身体を縮こませるのと同時に、クラスの大半が僕の方を向いた。


 ……何でだ。どうしてここ最近僕は何かと注目されてしまうんだ。


「気づいた奴もいると思うが、うちの文化祭は毎年生徒会と帰宅部が中心となって準備を進めていく。だから、私が事前に対象の生徒に独断で打診した結果。実行委員を快くうけてもらえた」


 この空気を待っていたとばかりに、先生は実行委員について話し始める。


 できれば、クラスがざわつき始めた辺りでそうしてもらいたかった。


「二人とも前に来てくれ」


 その言葉を聞いて僕は立ち上がる。


「うわぁ……」

「本当にかなめかよ」


 そんな呟きが聞こえてくる。

 ……うん、この反応は当然予想していた。

 僕も最初はクラスの人たちと同じ事を思ったけど、やると決めた以上はもう引けない。


 クラスの大半が実行委員のうちの一人が僕だということに薄々気づいたようで、僕が前に出る事に驚く人はいない。

 だが、もう一人の実行委員が立ち上がると再び教室内が慌ただしくなる。


「……えっ、何で?」

「おい、もう一人の実行委員ってまさか!」

「嘘っ!」


 僕と同時に立ったもう一人の生徒。

 黒木岬くろきみさきさんは、いつもと変わらぬ黒パーカー姿で教壇に上がる。


「要くん、頑張ろうね」

「うん」


 僕にしか聞こえないくらいの大きさでぽつりと向けられた激励。

 僕はそんな彼女に笑みを返して応え、二人で生徒たちの方へ向き直る。

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