第6話 呼び出しを喰らう
朝のHRの後からクラスメイト達(主に男子から)に色々と質問された僕。
「僕、何かしたのかな」
結局大きな噂にまで発展してしまった僕と
それもそのはずだ。僕から得られる情報なんて皆無に等しいのだから。僕自身知らない事だらけで、当の黒木さんも殆ど人とは話さない。
こんな条件が揃っていれば出てくる情報なんてたかが知れている。
出てこないだけであって、黒木さんには何か意図があるのかもしれないけど。僕にもそれはさっぱりだ。
まさかこんな事になってしまうとは、昨夜までは考えもしなかった……。
まぁ、それはいいか。いや良くはないのだけど。
それよりも今は帰りのHRの後に担任の
今日は金曜日でアルバイトも休み。そんな日の放課後にやるべき事といえば、帰ってオンラインゲームと生前から決まっている。
帰宅してそこから夕食とお風呂の時間以外はずっと部屋に籠もるつもりで今日という日を乗り切ったんだ。
僕はそんな楽しい時間を削られるのが嫌だった。
今日はソロでアイテム探索に費やそうと思っていたのに……。
◇◇◇◇
「どうしたんだ
職員室に入ると、僕の姿に気付いた高森先生が声をかけてきた。
先生の席は廊下側で入り口からも近い。
机の上にはいくつかの資料が並べられているようだ。僕よりも先に職員室に向かっていたから何やら準備をしていたのだろう。
そしてなぜか椅子の背もたれにはスカジャンが。
秋に近づいて来たから上着として使っているのかもしれない。夜になると少し肌寒いからかな?
「別に、何でもないですよ」
「そんな不服そうな顔をして何を言うんだ。どうせ帰ってゲームをやる時間が減るから怒っているんだろう?」
「うぐ……」
僕の真意を的確に衝かれる。
そんな高森先生は女性なのに男勝りな口調をしているのが特徴的だ。椅子に掛かってるスカジャンを始めとした装いも相まって、よく元ヤンだの何だのと勘違いされる事が多い。
だが、生徒達をよく見ている優しい先生だと僕は思う。
たとえどんな噂が立とうとそれに変わりはないのだから。
生徒に寄り添う良い先生だからこそ、生徒達からの信頼も厚く普通の先生よりも距離は近く感じる。
「それより、用ってなんですか?」
「そう焦るな。もう一人来るから少し待っていろ」
「もう一人?」
おかしいな。先生がさっき教室で呼び出したのは僕だけの筈だったけど。
「なぁ要。先生と少し話しをしよう」
「僕は早く帰りたいんですけど」
「まぁ待て。私はお前にお礼が言いたいんだ」
「お礼?」
僕には先生からお礼を言われるような事をした記憶がない。
それなのに、わざわざそんな事を言うという事は何か理由があるのだろう。
「ああ。お前、昨日の夜うちの生徒を助けたそうだな」
「!」
先生から聞かされた内容は、今朝教室で騒がれた事に関わるものだった。
「な、なんでその事を知っているんですか!」
僕は戸惑いを隠せないまま先生に聞く。
昨日の事を知るのは、あの場にいた僕と黒木さんくらいだ。
もしかして、その現場を近隣の人にでも見られていたのだろうか。
夜だったとはいえ、制服を着ていたしその可能性も否めない。
「んー? ちょっと小耳に挟んでな」
どうしよう。すごく気になるなそれ。
この先生。生徒の様子を見抜くだけでなく、そんな情報までも手にしてしまうのか。
「要。一つ聞きたいんだが」
「な、何ですか?」
先生の僕を見る目が少し細められる。
「お前、あんな夜遅くにバイトをしているのか?」
ぎくり。
思わずそんな擬音を口にしたくなる。
先生の瞳はそんな僕をジッと見つめる。
「……普段は違いますよ。昨日は特別です。いつもは学校が休みの日がメインなので、昨日のような時間帯まで働く事はありません」
「平日のシフトは?」
「入りません……。とは言い切れませんが、昨日は本当に偶然で……。すみません」
僕は包み隠さずに正直に答えた。
この先生には嘘をついてもすぐにバレる。そんな気がしてならない。
それに。気づかれしまった以上、咎められる覚悟をしなくてはならないのが普通だ。
「はぁー。なら、まぁ今回ばかりは目を瞑ってやる」
「えっ」
意外にも先生は僕に追求してくる事はなかった。
「言っただろう。お礼を言いたいとな。本来なら見過ごすわけにはいかないが、幸い今回の件について知っている教師は今のところ私だけだ。だから、この事は黙っておいてやる」
「それは……。ありがとうございます」
理由は分からないが、先生は今回の事について他言する事はない事を約束してくれる。
生徒指導に関わる事なのに。どうして黙っていてくれるのかは疑問だけどラッキーと捉えさせてもらおう。
「ああ。だからもう少し待て。いいな?」
「……はい」
そう言われてしまうと、返す言葉は肯定以外にない。
もし他の先生に知られれば面倒な事になるのは明白。穏便に事を収めてくれると言うのなら、ここは従わざるを得ない。
「でも、先生はどこで今回の事を知ったんですか?」
「あー、それはな」
「……失礼します」
すると、僕が入ってきた扉と同じ扉が再び開き微かな声が聞こえてくる。
あれ? この声って……。
「えっ……」
声の主の方へと振り返ると意外な人物がそこには立っていた。
「黒木さん⁉︎」
僕の次に現れた人物は同じクラスの女子生徒。無口なボーイッシュガール黒木岬さんだった。
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