第5章 選択
5-1 なんか湧いてきた
白衣を着た男性が『やれやれ』という仕草をして私たちに近寄って来ている。
見た目はお世辞にも綺麗とは言えない。手入れをしていないだろうボサボサの髪に髭も伸び放題。白衣もよく見ると汚れがある。焦げたような――何か薬品でもこぼしたような。何とも言えない汚れかた?もしかすると溶けている?とにかく、実験好きな研究者?みたいな感じとでもいうのか。はっきり言って怪しい人が近付いてきている。
ここにいるのは現在私を含めて全員が女子。相手の強さはわからないが。まあ逃げようとは思えば逃げれるだろう。見た目だけで判断するのは危険かもしれないが。でも極端に近寄られることがなければ逃げることはできると思う。
または取り押さえようとすれば武器を持っていなければ勝てそな気もする。と、見た目からは全く強さというのは感じない。むしろひ弱そうな男性だ。態度がそう見せているのかもしれないが。やる気がないというか。どうも危機感?を弱めてくる。
というか、本当に攻撃をしてくる。何かをしてくる様子は今のところないので、やはり適度な距離を保っていれば大丈夫かと思われるが。それより今の私が聞きたいことは――。
「――実験って何?」
である。
突然現れた白衣の男性が先ほど言った言葉。実験だ。私はこの白衣の男性を知らない。もしかすると、杏奈ちゃん、または舞悠ちゃんの知り合い――かと思ったが。
「――誰ですかね?」
「誰よ。明らかに怪しいじゃない。」
舞悠ちゃん。杏奈ちゃん共に私の横でそのようなことをちょうどつぶやいているので知らないみたいだ。
ということで、私たちは全く知らない白衣の男性に絡まれている。
普通なら危ない状況かもしれないが。やはり先ほどからのやる気のない?覇気のない?というのか。へらへらしているというのとはまた違う気がするが。白衣の男性の雰囲気でどうも逃げるという選択肢が選べない。
むしろ。話を聞きたいと思ってしまう自分が居る。
「実験は実験だ。まあ僕はこう見えてもなかなかの天才でね」
白衣の男性の方も無言――ということはなく。むしろめっちゃ話かけてくる。
確実に私たちに何か用がある。というかこれなら勝手にいろいろ話してくるかもしれない。
「――自分で天才言ってるよ」
「杏奈ちゃん。今は静かに」
「いやだって――いきなり現れて天才とか。ちょっとおかしいでしょ」
杏奈ちゃんの意見には同意する。
まるで自分は偉い。とでもいう話方だったからか。
杏奈ちゃんがすぐに反応していたので、私はとりあえず杏奈ちゃんを抑えつつ聞き返しす。下手に怒らせて、せっかく勝手に話してくる雰囲気がなくなってもなので。
「杏奈ちゃん。ちょっと抑えて。えっと。その実験に私たち関係なくないですか?私はあなたの事知りませんけど?」
白衣の男性を見て私はなるべくはっきりと告げた。
すると、白衣の男性は歩くのをやめて、まるで私たちには興味がないのか。明後日の方向を見てつぶやいた。
「僕も君たちは知らなかった」
「――はい?」
いや、自分からやって来ておいて、話かけておいてその態度はなに?だったが。とにかく今は情報を得るために私はそのまま白衣の男性を見続けた。
ちなみに杏奈ちゃんはぶつぶつ文句をつぶやいている。
そして舞悠ちゃんに関しては私たちのやり取りを心配そうに見ている。
すると、白衣の男性はちらっとこちらを見た後。面倒だ。とでも言いたげな雰囲気でまた話し出した。
「でも勝手に巻き込まれてきてね。仕方なくこうして僕がやって来たんだよ」
「勝手に?」
「そうそう、巻き込む予定なんてなかったけど、ちょっと僕の実験がミスってね。あっ、ミスって言っても必要なミスだからね。実験はミスして進んでいくんだから。ミスではないんだが。何も知らない君たちにはミスと言った方がわかりやすいだろう」
「――」
いや、わからないです。というか何を言っているかがわからないです。
返事をしたくても私は何を言ったらいいのかわからず。黙るしかなかった。
ちなみに私の横では、ほぼ睨んでいる杏奈ちゃんと。一歩下がって大人しくしている舞悠ちゃんが居るがこちらも何も言えないというか。何を話したらいいのか。言ったらいいのかわからないのだと思う。
すると白衣の男性はまるで私たちの返事などは不要とでもいうのか。そのまま話し出した。
「僕の実験は大きな実験でね。まあでもその詳細は話せない。というか君たちには関係ないことだし。そもそもこれは簡単に話して良いことじゃないからね。これがもし他にバレるとそれはそれは面倒――いや、僕が危なくなるからね。僕は僕のために実験をしている。なのに他に関わられては面倒だ。なのに――ちょっと試したらたまたま君たちが巻き込まれるという――はぁ……僕の大切な実験の時間を返してほしいよ。でもまあそのまま放置するのはいろいろまずいし。気が付かれてもだからね。とりあえず。何も聞かずにそのまま僕の言う通りしてくれないかな?というか。勝手にするんだけど」
「ちょっと何勝手に言ってるわけ?ってか言う通りにしろ?嫌よ。ホントさっきから適当なことばかり話して。何様のつもり?ってか、舞悠ちゃん警察警察。駅に不審者いるって」
すると我慢の限界が来たのか。杏奈ちゃんが口を開いた。
杏奈ちゃんが何か言いたいのはわかる。だって、実験実験言っているけど、結局この白衣の男性が何者かが全くわからないのに、なんか最後は言う通りにしてくれ――だからね。訳が分からないというか。とか私が思っていると、杏奈ちゃんは後ろで様子を見ていだけとなっていた舞悠ちゃんに声をかける。そういえば私は話せる気がする――とかで、警察に通報ということが思い浮かんでいなかった。普通なら明らかに怪しい人に絡まれてるんだし。意外と杏奈ちゃんがイライラ?している様子だけどしっかりしている。などと思っていると。
「ふふっ。無駄なことを」
再度面倒。とでも言いたげな表情をこちらに見せつつ白衣の男性がつぶやいた――って、無駄なこと?
と、私が思った時。後ろから困惑した様子の舞悠ちゃんの声が聞こえた来た。
「あっ――えっ?なんで――圏外?」
「なんで駅で?って、ここ外よ?そんな事ないでしょ」
舞悠ちゃんの声で杏奈ちゃんが舞悠ちゃんが操作していたスマホを覗いているが――ちらっと見た後。私の方を見て『ホントの圏外なんだけど』と、言ってきた。
本当は私も自分のスマホで確認しても良かったが。私につぶやいた後杏奈ちゃんも自分のを見て『私のも――』と、いう声が聞こえたので、私は自分のスマホの確認はすることなく。白衣の男性の方を見ると。いつのまにか白衣の男性は駅の柱にもたれかかりつつ。こちらを見ていた。
というか。私たちがスマホを見ている間待っていて?くれたらしい。
――いや、なんで?であるが。
すると、私が見たからか。白衣の男性はまた明後日の方向を見つつ。話し出した。
「はぁ、わかった?今の君たちはちょっと特殊な状況なんだよ。でも君たちに詳細は明かせない。まだ不完全なことばかりで、無駄な情報を与えたらまたごちゃごちゃになるかもしれないからね。だから大人しくしていてくれ。何。ちょっとまぶしいだけさ。そしたらすべてが元通り。何にも気にすることはなくなる」
「――元通り?」
「ちょちょ、ちょっとあんた。勝手にいろいろ話してるけど何よ。実験やら元通りって。別に私たち何も変わった事ないわよ。ねえ?柊花。舞悠ちゃん」
「うん」
「は、はい」
元通りってどういうこと?今が何かおかしい?でも何もおかしいことは――まあ確かに駅が静かすぎるってことはあるけど。そういうことはなくもないことでは?などと私が白衣の男性の話を聞きながら考えていると、杏奈ちゃんが私たちの方を見つつ聞いてきたので、私と舞悠ちゃんが返事をする。
「まあ、一般人ならそういう反応なんだろうな。まあこれもデータだ。ってことで、君たち3人その場からちょっと動かないでくれるか?」
私たちのことを馬鹿にしている――などと思った時。白衣の男性が胸ポケットに手を入れた。
「ちょ、変な者出したら叫ぶわよ」
ここにきて初めての緊張感。まさかこの日本でいきなり拳銃――とか出す人はいないだろうが。先ほどの危機感なし。ではなく。急に何かしようとしてきたため。私が反応――より早く。杏奈ちゃんが白衣の男性の方を睨みつつ叫んだ。
「どうぞ好きなだけ叫んでも良いですよ?誰もいませんからね。あなたの警備?か知らないですが。子守している人も居ませんから」
「なっ。どういうことよ」
が。白衣の男性は特に驚くことなく。手を動かし続ける。
というか。白衣の男性が言ったが。確かに変だ。こういう謎な状況とでもいうのか。杏奈ちゃんに危機が――の可能性もあるのに誰も来ない。少し前一心の時は本当にどこに居たの?レベルですぐに飛びこんできたのに、今は――誰か来る気配がない。
というか――それもだけど、この世界?何それ?どういうこと?と、私がいろいろ思っている間に、そのまま胸ポケットから――インスタントカメラ?らしきものを取り出した。
というか、インスタントカメラだと思う。すごく久しぶりに見た気もする。今もあるんだ。などと私が思っていると――。
「何する気よ。写真なんていらないわよ?」
杏奈ちゃんが再度1人白衣の男性に向かって吠えた。
が。やはり白衣の男性は特に何も動じることなく。また杏奈ちゃんの警備?をしている人らが先ほどのように出てくる様子もない。
すると、さらに白衣のポケットから何かの部品?を取り出し。インスタントカメラに取り付けた。
あれは――ライト?インスタントカメラの上部にフラッシュ?いや、でも確かインスタントカメラにもフラッシュ機能はあった気がするが――別の何か?とにかく別付け?のライトを取り付けると再度こちらを見た。
「写真は僕もいらないね。とにかく。君たちはその場から動かないでくれると僕はすることが少なくて助かるんだよ――って、あれ?そういえば君たちってもう1人いなかったかい?」
「「「もう1人?」」」
私たちの方にカメラを向けようと――したところで、ふと白衣の男性がその手を止めて私たちに確認してきた。
というか。ホントこの白衣の男性。私たちの何を知っているのか――と、思った時だった。
タッタッタッ。と、どこからか足音誰かが走って来る音が聞こえて来た。
「なんだ!?どういうことだ。何故第三者が――」
すると、音が聞こえると同時くらいに初めて、白衣の男性が慌てた。というか。落ち着いた様子?を崩した。
そして白衣の男性が足音の方を見た時。
以外――と、言うとかわいそうかもだけど。よく知った顔が見えた。そして珍しく――というと、これもかわいそうかもだけど、とにかく必死な表情で一心がこちらへと走って来る姿が見えた。
そういえばさっき大学内でかなり痛そうにしてた気がするけど――大丈夫だったのか?まあ走っているし大丈夫――と、思っているうちに一心が駅に駆け込んでくる。
が――それと同時に私はほんの一瞬だけ違和感を覚えた。
『あれ?こういう時って一心が飛んで来るイメージより――別の誰かが居たような?』
と、何故そんなことを思ったのかはわからないが。
ふと。一瞬だけ誰か他に居た気が――。
「柊花!由悠だ!由悠が居ないんだよ!」
「――えっ?」
すると、一心が私に向かって叫んできた。
由悠って――誰?と、言おうとした瞬間。
「しまった。こいつもだったか。巻き込まれた人間はこの空間に勝手に入ることができるのか――あー、ホント面倒なことに」
白衣の男性が何かつぶやいていたがそれよりだ。
私の頭の中に急に――由悠の記憶が蘇って来た。
「柊花?どうしたの?」
「大丈夫ですか?」
特に頭が割れそう――とか言うことや。眩暈がするということもないが。
なんで私は由悠のことを忘れていた?と、気が付くと。ショックというべきか。少し俯いたからか。杏奈ちゃんと――誰かの声が聞こえ――うん?杏奈ちゃんと誰?と、私が混乱しつつも顔をあげると、ちょうど一心が白衣の男性はスルーして私たちのところまで来たところだった。
「あー、面倒だ。とりあえずお前たち戻すぞ」
バシュッ。
「ぬわっ。なんだ」
「きゃあっ」
「まぶしい――」
「――」
一心を確認――と同時に白衣の男性の声がまた聞こえたと思ったら、私たちの周りが一瞬だけ目が開けられないくらいまぶしくなったのだった。
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