4-2 寝ぼけているだけ?

『1番線から電車発車します!ドア付近の方はドアから離れてください』


 気が付けば、地面に転がる俺の頭上からそんなアナウンスが聞こえて来た。

 

「ちょ、一心。何してるの?電車出るよ」


  さらに近くから聞きなれた声も聞こえてくる。


「急にこけてキモイ」


 さらにさらに知った声が――って、おかしいだろ。と、ツッコミながら起きようとすると、もう1人の声も聞こえて来た。


「えっと、大丈夫ですか?」


 聞こえて来た声はの声。特に聞こえて来て問題はないはず。


「杏奈。お前いつまで俺に対しておかしいんだよ――って、あれ?杏奈」

「――何よ」


 すごい冷たい視線があるがそれはちょっと置いておいて。俺は駅のホームで転んでいたのでとりあえず起き上がる。

 そして突っ込むことは忘れなかった俺って――ちょっと待て。と、思い動いた――気がするんだが。特に何もない。むしろ俺の方が一緒に居た3から不思議な。または冷たい視線を受けている。俺の方がこいつらからしたら危険人物に映っている気がしなくもない。っか、今日3人がみんなズボンだったのが残念!って、余計なことを言うと視線すら許してもらえない。目をほじくり出される可能性もあるからこういうハプニングは後日――じゃなくて、俺、ちょっと考えろ。


「いや――あれ?ちょっと待て――なんだ?」

「うん?一心どうしたの?頭打った?」


 俺と高校から同じで、今もちょくちょくともに行動する柊花が心配そうに俺を見てくる。

 俺のことを心配してくれるのは嬉しい。嬉しいが――今はちょっと待ってくれ。なんか出てきそうで全く出る雰囲気がない。

 何言ってるんだろうな俺――。


「いや、なんか。忘れている気がして――」

「柊花。こんなキモイ奴の相手しなくていいよ」

「杏奈ちゃんでもこんな一心でも今結構派手にこけたから。のは救いだけど」

「柊花も相変わらず酷いな。って、いや今俺――なんか助けようとした気がするようなしないような――」

「いやいや、単に私たち――大学行くところ。って、あれ?そういえばテキストとか持ってくるの忘れた」


 俺が必死に何かを思い出そうとしていると柊花の声で女性陣3人がそれぞれの手元を見る。


「あっ、そういえば。私も何も持ってない。もう!キモイのが朝からバタバタするから」

「私もです」

「おかしいだろ。って、なんか俺たち――あー、出てこん」


 女性陣がそれぞれ大学の持ち物を忘れたことを話しているが。俺の脳内では別のことを何かが言っているような気がして、俺は必死に何かを思い出そうとしたが――その時。


『1番線の電車発車しまーす。ドア締まりまーす。締まりますよ!』


 再度駅構内にアナウンスが聞こえて来たため。俺たちはいつもの癖ではないが。とりあえず4人で電車に乗り込んだ。

 俺たちが電車に乗り込むとすぐにドアが閉まる。そして電車がゆっくりと動き出す。

 駅構内には駅員さんの姿――と、?だろうか?一瞬だけだったが。駅の隅に白衣を着ている人の後ろ姿があった気がしたが――電車のスピードが速くなったため。すぐに見えなくなった。

 俺はちょっとだけ引っかかることがあったはずだが。すぐに隣から女性陣の会話が聞こえてきたためか。または別の何か?を見て意識がそれたのか。まあとにかくまずは女性陣の声の方を見ると。それと同時くらいに俺の頭の中の引っかかりは消えていった。


「っか、私たち寝ぼけてた?テキストとか何も持たないで来るって。そして、勢いで電車乗ってるし」

「ホント。まあ誰かに借りたらいいけどね。ノートは売店に売っているし。今日は大講義室ばかりだから」

「あっ、私も何も――」

「あれ?舞悠ちゃんも?」

「はい。今日の講義誰か一緒の人――居たかな?」

「さすがに私たちとは学年違うからね。選択科目とかだと同じもあるけど」

「まあ私は大丈夫です」

 

 っか。今気が付いた――ではないが。いや、だが。俺の周りレベルの高い同級生と後輩しかいない。朝から至福の時。そうだ。なんで俺はそんな至福の時間に余計な――うん?何か考えていたか?何も――考えてないな。とりあえず、今柊花も言っていた気がするが。俺も寝ぼけていたんだな。だから足がもつれたのだろう。ってか。そうじゃん。昨日はにみんなで行っ――たっけ?あれ?女子3人と俺だけで――何かして?何したんだっけ?あれ?なんで舞悠の家に行ったんだったか?それも女子ばかりのところに俺1人――まあいつものメンバーだが。そんな事なかなか――まさか俺。大人の階段のぼった?まさかの3人と?いやーなんで忘れてるんだよ!俺。思い出せ!思い出せ!絶対忘れちゃダメな奴だろ。俺昨日何あった?そうだよ。多分これをさっき思い出そうとしていた?あれ?そんな何かを思い出そうとしていたことない?

 まあいい。とにかく俺は昨日の舞悠の家でのことを思い出さないといけない気がする。

 磯部一心。俺よ。何故忘れてるんだぁー!


 ◆


「――ねえ柊花。キモイのがさらにキモイ」

「だね。1人で頭抱えて――やっぱり頭打った?」


 電車に乗ってから少し。私たちの隣で一心が何やらおかしな行動をとっているが――私たちは関わらないように会話を続けていた。

 ちなみに私に話しかけてきているのは同級生で大学に入学してからよく一緒に居る杏奈ちゃん。


「知らない。にしても柊花よく。こんなのと高校から一緒に居るね」

「まあだって私たち3人――うん?」

「うん?どうしたの?柊花」

「うんん。何でも、なんか私もやっぱり寝不足なのかなー?いつも一心と一緒に誰かって、そうじゃん。舞悠ちゃんだ」

「はい?」


 危ない危ない。本当に寝ぼけていたのか私。一瞬舞悠ちゃんを忘れかけた。

 私は杏奈ちゃんともう1人今一緒に居るを見る。

 背が小さくて見えなかった――などと言えば。いつものように怒って来るだろうが今は電車の中なので、そのことは触れず――。


「むっ、ちょっと、神明先輩?なんか失礼な事考えませんでした?」


 って、舞悠ちゃん鋭い。私の頭の中見てきた?って、ここはポーカーフェイスポーカーフェイス。


「何も何も。ちょっと本当に寝ぼけていたのか。舞悠ちゃんの存在忘れてて。私と一心だけじゃなくて、舞悠ちゃんも学年は違えど一緒だからね」

「なるほど。混雑する電車。私の姿が見えず――ですか」

「ちょ、杏奈ちゃん。舞悠ちゃんが怒った。どうしよう」


 特に怖くはないけど、杏奈ちゃんに一応助けを求めておく。まあバレバレで杏奈ちゃんにもあしらわれると思うけど。


「今のは柊花が悪いでしょ。って、そういえば――舞悠ちゃんはこのキモイのと小学校から同じなんだっけ?」


 ほら。


「えっ、あー、まあ学年違いますけどね」


 ちょっと私に対して舞悠ちゃんからお怒りのオーラがあったが。でも、杏奈ちゃんが上手に話を変えてくれた?ってかたまたま?まあたまたまでも、そちらへと話を持って行こう。

 私と一心は高校から同じ。ちなみに杏奈ちゃんは先ほども触れたけど大学からの知り合い。

 まあ一心が無駄に杏奈ちゃんにアピールして――って、いうたまたまの繋がりなんだけど。

 ちなみに杏奈ちゃんのところは多分今も見張りが隠れているかも。変なことを一心がすれば一心の首が折れる。下手すると飛ぶ可能性も――って、感じなんだよね。前に一心が投げ飛ばされてたんだよね。それはそれはいきなり。そして綺麗に伸びていたんだよな。って、それは置いておいて。舞悠ちゃんの話か。

 舞悠ちゃんは私たち3人より1学年下。そして一心と同じ地域出身でどうやら小中高大と一心とはたまたま同じらしく。それはまるで舞悠ちゃんが一学年下ということもあった。一心を追っかけ。のように見えるけど。それは違うらしい。

 舞悠ちゃんは特に一心と昔から仲良くしていたとかではなく。たまたまご近所さんみたいな感じで、そこまで関りはなかった。もちろん今もこうして一緒に行動をしているけど2人は付き合ってもない。とかとか前に言っていた。そして一心の方も珍しく『舞悠とはなんもない』などと。前に言っていたと思う。

 普通に舞悠ちゃんもかわいい子なのに――何故か一心の守備範囲?ではないらしい。って、なんか舞悠ちゃんだけ特別?ではないけど。なんかね。女の子とみてないというと、舞悠ちゃんに失礼だけど。でもなんか一心の接し方は男子――って、そんなことないか。気のせいだよね。なんか私の記憶はやっぱり寝ぼけていて、ちょっとおかしいのかな?

 私たちはここ最近ずっとこの4なんだから。


 ◆


 先輩方3人との通学。これは毎日ではないけれど。ちょくちょく――あること。たまたま下宿先がみんな近い――って、程じゃないけど、それでも徒歩では行けるところだから近いか。って、あれ?なんか今一瞬だけこの感じが、初めてのような感覚があるのは――気のせいだよね?そういえば昨日は何故か私の部屋に先輩方が来て――あれ?なんで私の部屋に?


 ……どうしよう。覚えてない?えっ?なんで、昨日の事なのに――私何か先輩たちにされた?いやいや、そんな事してくる人たちではないし。いや、1人わからない……でもみんなで居たはずだからそんなことは――。

 って、これは――私疲れてる?昨日は――あれ?何か――1って、それこそ気のせいだよね。昨日は行って、あっ、そういえばそこで何か――って、あれ?私なんで昨日の記憶がこんなに抜けて――えっ。認知症?まさか。やばい私?それとも――かなりお疲れ?


「あれ?舞悠ちゃん?どうしたの?」


 すると、私の表情に気が付いたのか神明先輩が声をかけてきた。かなり難しい?表情。いや、どんな表情をしていたかは自分ではわからないけど。今頭の中がぐちゃぐちゃになっておかしな表情をしていたと思うから。神明先輩が心配そうな表情で見てきている。


「あっいえ、なんか朝なのに疲れたなーって、あはは」


 なので、とりあえず何もないアピールをする私。しかし頭の中はもやもやだ。


「あー、なるほどね。今日はなんかすっきりしない感じなんだよね。私も」


 すると先ほどから神明先輩もなんか引っかかっているのか。それとも先輩もお疲れなのか。私と似たようなことを再度つぶやいていたので、私は悩むより聞いてみることにした。


「えっと――その昨日の夜って私の家で何しましたっけ?」

「えっ?昨日の夜?昨日って――舞悠ちゃんの家に――あれ?行ったよね?」


 神明先輩ならすぐに昨日のことを笑いながら『舞悠ちゃん大丈夫?もう忘れたの?』とかとか言いながら話してくれるかと思ったが。


 違った。


 私と同じように神明先輩も考え込んでしまった。やっぱり――何か私たち忘れてる?それもかなり大事なことを忘れているような――?


「柊花に舞悠ちゃんどうしたの?何か課題でも忘れてた?みたいな顔だけど」

「いや、杏奈ちゃん。昨日って舞悠ちゃんの家行ったよね?」

「ええ」


 神明先輩の質問に赤崎先輩はサラッと答えた。

 ちなみに私はまだ赤崎先輩とは知り合って間もないので、あまり自分から話していくのは――だったりする。別に話しにくいとかじゃないんだけどね。やっぱり先輩相手をいきなりは――なんだよ。


「何したっけ?」

「えっ。そりゃ――……」


 私がちょっと余計なことを考えていると。先輩方の会話が進んでいた。

 が――まさかの赤崎先輩も同じ反応だった。赤崎先輩も難しそうな表情になった。

そして考え込んでしまう私たち3人。昨日の夜。私の家に居たことはみんな覚えているのに、何をしたのか覚えてない。

 あれ?本当に私たちどうしちゃったの?と、私が思っていると――。


「――昨日キモイのもいたわよね?」


 赤崎さんがボソッとつぶやいた。


「居た」

「他は?」

「えっ?居なかったと思う」

「……ついにこいつ」


 赤崎さんのつぶやきに神明先輩がすぐに反応。そして話の流れからまさか。と、私も思いつつも。2人の先輩が見た方向を私も見る。そこには磯部一心先輩。なんかわからないけど、私の行くところ行くところの学校に居る人。

 はっきり言っておくけど、私は自分で選んで。そもそも磯部先輩とはほとんど関りがない。いや、近所ということもあり。話さないということはないけど。でも進学などの話は一切したことも聞いたこともなかったのに――何故かいつもいる。って、それは関係ないと思うからちょっと置いておいて――。


「いや、杏奈ちゃんいきなり決めつけるのも」

「でもさっきからなんかさらにキモイし。よし。今ここでじゃ。だから柊花。今日講義何時終わり?15時半かな?」

「舞悠ちゃんは?」

「えっ?」

「何時終わり?」

「あっ、えっと――今日は――14時――だったかな?」


 先輩2人が何やら話し出して、急に私に講義が終わる時間を聞いてきたので、私は慌てて返事をした。

 赤崎先輩が何かをしようとはしているのはわかったけど――何?と、いろいろ心配になったが。そこで電車は大学の最寄り駅へと到着したので私たちは電車から降りることとなり。他の学生と共に電車を後に。そのあと大学までの道中は先輩2人の話を聞きつつ。大学内到着後は講義室が違うため分かれることになった。

 あれ?先輩2人?あっ、そういえば磯部先輩の姿がなくなった気がしたけど――いいかな?いいよね。先輩2人も全く気にしていなかった?気が付いていなかったみたいだし。

 

 それから私は1人で売店に寄ってから、飲み物とノートを買ってから、講義室に向かい。指定席などはないが。にぎやかな講義室内を歩きいつも座るあたりの座席に座った。


「ふー」


 ちょっと今日は朝からバタバタ。テキストを忘れてきたが。この講義はレジュメが配られるので多分大丈夫などと思いつつ周りを見る。


「……?」


 すると、また変な感じが頭の中でした。


「――私って講義待っている時。誰かと話していたような――」


 それは勝手な過去の思い出かもしれない。またはやはり寝ぼけていて、夢?でも見ているのか。でもこの時私は一瞬だけ。いつも講義を受ける時は隣に誰かいた気がしたが――そのあとすぐに先生が入ってきたため。余計な考えは遮断した。

 って、筆記用具もないんだった!?

 私は先生が教壇で準備をしている間に慌てて、カバンの中をあさる。

 確かボールペンはカバンに呼びが――などと思っていると、奇跡的にボールペン発見。良かった――だったのだが。


「――あれ?」


 ボールペンを探した際。私はまたとある違和感を覚えた。

 カバンの中には財布やスマホ。その他小物が――だったのだが。カバンの内ポケットにあった無機質な鍵。いや、これは私の家の鍵なのだが。それを見た瞬間。


  があったような気がする。


 そんな不思議な感覚が一瞬だけ。ほんの一瞬だけあったが。考える前に先生が講義を始めたため私は慌てて前を見るのだった。


 そのあと私はキーホルダーのことは完全に忘れてしまった。


 ◆


 周りが静かになった電車の中。

 俺はまだ昨日の夜のことを思い出そうと必死だった。


「昨日何があった?確実に3人と居たのは覚えている。そして一夜を明かしている――なのになんで何も覚えてないんだよ!」


 磯部一心。

 電車の中で何やら考え続け。電車から降りることを忘れたため。本日の午前の講義すべて欠席するのだった。

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