第4章 ?世界の俺とあいつら

4-1 彼女じゃないはず

「――何が起こってるんだ?いや、普通にみんな電車に乗った?俺だけ乗り遅れた?」


 駅のホームでに突き飛ばされたような記憶がある俺はあたりを見回す。しかしとくにこれと言ったことはない。そして何故かはわからないが。すーっと。が頭の隅へと消えていく感覚が――あったようなないような。って、ここは駅だ。


 俺の頭の中が整理されている。

 あたりを見回せばよくよく見る光景。

 ここ数年。って、まだ10くらいか。

 大学へと通うようになってから見る最寄り駅の光景だった。


「――俺――あれ?俺は駅で何をしているんだ?」


 急に頭の中が冷静になるとでもいうか。 落ち着いた。

 今の俺は駅に居る。

 時間は朝。周りは次の電車を待つ人が集まりつつある状況。

 ……俺は1


「って、大学行くんだろうが。俺。って、荷物すら持ってないじゃん」


 自分はなんで手ぶらで大学に行こうとしているのか。

 俺は慌てて荷物を取りに戻るため。改札を出る――って、切符切符。どこ行った?切符――と、少し改札の前で切符探しをして、駅員さんに手続きをしてもらい一度改札を出て、駅の時間を確認する。


「やべぇー。次の電車乗らないと講義間に合わないじゃん。もう11月末だからあと講義は数回ってことは確か今まで皆勤だから。出席日数云々は大丈夫だろうが――でもから今日の講義わからなくなるのは痛いな」


 俺は1人ぶつぶつ言いながら小走りで駅を後にする。

 俺の今住んでいる家は駅から走れば数分のところ。このスピードなら次の電車に間に合う。講義のテキストとかは――多分机の上にある。物の位置を思い出しつつ。最短距離で俺は家へと急ぐ。


 そして走り出して少し。

 俺は無事に今自分が住んでいるアパートに到着する。

 ちょっとが俺の1人暮らしを心配しすぎたからか。防犯がしっかりしている部屋。小さなアパートの割に最先端とでもいうべきか。オートロック式だったりする。俺は少し慌てながらを出し。部屋のロックを外す。

 リンリンと鳴るキーホルダーを部屋の玄関のところに置くと俺は室内へと急いで入る。

 俺の室内はが。いつも小綺麗にはしている。というか。親の負担を少しでも減らすためにこちらで必要なものは自分でアルバイトをして集めていっていたので、まだ揃っていないといった方が正解か。

 今の部屋はになっているが――それは気のせいだと思いたい。何故か知らないが。そんな事になってしまっているというか。ここは俺の部屋。俺がいじらなければ何も変わらないはずなのに――気が付いたらこんなことになっていたのだから。記憶がそのようなことを言っている。でもまあ――汚いよりいいだろう。

 などと、余計なことを考えつつ。俺は整理されていた机からテキストとノート筆記用具持つとトートバックに荷物を入れ。再度玄関へ。小さな鈴が付いたかわいいキーホルダーを手に取ると、そのまままた部屋を後にする。

 そしてまた走る走る――時間は多分余裕はあるが。ここで気を抜くとせっかく走ったのに電車に乗り遅れることになる。

 俺は気を抜くことなく。そのまま駅へ。再度切符を購入して――ちょうど駅へと入って来た電車へと飛び乗った。

 それから車内で息を整えている間に電車はいつも通り大学の最寄り駅へと到着。

 多くの他の学生と共に俺は大学の敷地内へと歩いていく。

 いつもより多分1本遅い電車なので、このまま歩いていくと部屋に着くころに予鈴が鳴るはずだ。

 そんなことを考えつつ俺は今日の初めの講義が行われる部屋へとやって来た。

 講義室の中はそこそこ人が集まっている。とか俺が思いつつ数歩講義室内へと足を踏み入れた後予鈴が鳴ったため。俺はあたりを見回して空いていた場所。前の方の席となったが空いていた場所へと向かい。席へと座る。


「ふー。ギリギリか」


 席へと座るとほぼ同時に先生が教壇に立ち講義を始めた。

 この講義は通年の講義なので、すでに4月からかれこれ8か月?程受けているので、講義の流れというのはわかっている。


「――うん?」


 わかっているのだが――どうしたのだろうか俺。

 いや、今先生が話している内容が全くわからない馬鹿になりました。

 とかではなく。



 気のせいかもしれない。

 でも何故か先生が話している内容をどこかで聞いたことがある気がした。現に先生が話している内容の先を頭の中で考えると――そうだ。この先。テキストにミスがあるとか言うんじゃ――と、俺が頭の中で思った瞬間。


「――あー、これ間違ってるな」


 教壇に立っていた男性先生なのだが。順調に話していたが急にテキストとにらめっこを始めた。

 周りの生徒が少しざわざわするとそのあとすぐに先生がテキストにミスがあったことを説明した。


「……」


 なんで俺――未来が分かった?


 そのあとも講義の中で俺はちょくちょく先生の先を考えた。そしてそれは多少言葉は違えど、何故か感じで頭の中で答える。先を読むことができた。

 結局不思議な感覚に囚われてからの俺はそのあとの講義がほとんど入って来なかった。

 でも――講義内容は何故かなんとなくだが全部覚えている。思い出せることができたのだった。


「じゃ、今日はここまで。質問がある学生は前まで来るように」


 俺どうした?などと思っている間に周りの生徒は片付けをしていく。

 俺も少し固まっていたが。周りの生徒が部屋を出て行く頃には何とか行動を再開したが。不思議な感覚が今回は頭から離れなかった。

 すると。その時だった。


「あっ、なんだ。いるじゃん」


 急に俺の隣に人影――女性の声が聞こえた。と思い顔をあげると。俺の隣には少し長めの綺麗な黒髪の女性が立っていた。

 もちろん誰かは。うん?

 今頭の中がちょっとおかしい――と、思った俺だったが。その違和感は講義の時の違和感と違いすぐに消え。特に考えることなく声を出せた。


「えっ――あー、山崎やまざきさん」

「――えっ?」


 俺の隣へとやって来たのは、大学に入学してからいくつか講義が同じで自然と仲良くなった山崎やよい。そういえばこの講義も同じだった。なんで忘れていたのだろう?などと俺が思っていると。山崎さんの方は何故か固まっていた。


「――えっと?どうした?」


 俺何か変な事言ったか?などと思いつつ山崎さんに声をかけると――。


「えっ、いや、どうしたの?急にって――えっと、私何か――した?その今日もいつもの席来なかったし……」


 急に山崎さんがおろおろというべきか。不安そうな表情になり。声がどんどん小さく――と、その時だった。


 


 俺の頭の中でその言葉が回る――そして、すーっと。とある言葉が入って来た。そして俺は急に思い出した――というべきか。何を俺は他人みたいな呼び方をしているのだ。と、自分の頭の中で自分を殴った。


「あっ、悪い。俺――ちょっと今日寝不足で。完全にまだ寝ぼけてた。悪い。朝もバタバタしてて電車いつものに乗れなくて――席も予鈴とともに来たから」


 山崎やよい。それは俺の彼女――ではないが。友達以上と言うべきか。大学に入ってすぐ協力関係というべきか。ともに1人で居ることが多く。たまたま席が隣になった講義で少し話して――そのあともちょくちょく話しているうちに仲良くなっただ。

 なんで俺はやよっちのことを忘れていたのか。

 何してるんだよ。あとで昼でも奢ろう。とりあえず謝罪だ。明らかにやよっちが落ち込んでいる。


「あっ、そうだったんだ。その――大丈夫?」

「ああ、やよっちが声かけてくれたら目が覚めた」

「ホント?って、私の声で目覚めるって今の講義起きてた?」

「――微妙」

「ふふっ。あとでノート見せるね」

「ありがとうございます。やよっち様!」

「様はやめてよー」

「いやいや、マジで、なんでやよっちの事忘れてたのか――マジでごめん」

「いやいや、ってか、もしかしてよしっち。昨日――その私が絡まれてたあとで――やっぱりあれから大変だったの?」

「――絡まれて――」


 やよっちの話が分からない――と、言いたかったが。その時またスーッと記憶がよみがえって来た。


 そうだ。昨日の俺大学にいつも通り来たらいつも待っていてくれるやよっちが、あまり知らない男子生徒に絡まれてて、助けたら。そのあとめっちゃその男子生徒に絡まれたんだっけ。バイト先まで来たような――あっそうだ。そこでバイト先のおじいちゃんおばあちゃんがブチ切れしてくれて――助かったんだっけ?

 なんで俺あんな大変だった事わすれてたんだろう……。


「よしっち?本当に大丈夫?」

「ああ、いや、あまりに大変だったな――と」

「えっ、やっぱり?ごめん。私の事助けてくれたら。よしっちが恨まれた?」

「いや、なんというか。でも――そういえば今日は――」

「えっと。私は見てない。でも誰だったんだろうね?目立ちそうな人。先輩?だと思うけど――今日は来てない?ってか、急に2日くらい前から見かけるようになったというか――」

「なんだっけな?名前を聞いたような聞いてないような――って、そんな事より。よよっちに失礼な態度取っちまったから謝罪ってことで――ランチ奢らせていただきます」

「あっ、ホント?じゃあ、よしっちも次夕方の講義だよね?」

「えっ――あ、あーそうか。今日は朝と夕方の日か」

「よしっち。本当に疲れてる?無理して――」

「いやいや、大丈夫。で?」

「あっ、その時間あるからちょっと大学から歩いた国道沿いにカフェ出来たんだって。って、これこの前話したような――?あれ?話してないかな?なんか――と話したような――あれ?よしっちには話してないよね」

「記憶には――ないかな。って、やよっちも大丈夫かよ」

「よしっちがおかしいから私にもうつったね。って、行かない?暇だし」

「だな。4時間以上あるからな。行くか。どっち?」

「大学の裏門からの方が近いみたい」

「よし。なら行くか」


 やよっちに声をかけられた俺はそのあとささっと荷物をまとめて、やよっちとともに講義室を出たのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る