3-3 白衣の男

 何が起こっているのか。いまいちわかっていないと言えばわかっていないが。でもなんかおかしいのはわかってるというまあ謎な状態の俺たち。

 現在は駅へとやって来たところだが。特に駅もいつもと変りない。


「で、柊花よ。駅へと来たがどうするよ」


 あたりを回しながら一心が柊花に聞く。

 ちなみに俺と赤崎さんも周りを見ているが――特にこれと言った収穫はないというか。本当に見る限りはいつも通り。

 駅前にはタクシーが2台。運転手らが話していたり。駅へと入っていくおばあちゃん。駅前の小さなお店ではモーニングだろうか?何人かの人がガラス越しに見える。そして時間的には学生らしき姿も多く見ることができる。


「うーん。なんもないね」

「おい」

 

 俺たちと同じくあたりを見ていた柊花がつぶやくと一心が突っ込んでいたが――でも本当に変なところ違和感を感じることはない。

 俺も記憶がなんか2つあるような感じは変わらないが。でも1つを思い出していればもう1つは忘れる――ではないが。ちゃんと記憶の邪魔をしてこないし。記憶を変えるとその前の記憶がなくなることもなく。ちゃんとどちらの記憶を思い出していたのか覚えている。


「絶対ここだと思うんだけどね」


 柊花はここにこだわりがあるというのか。確かに電車に乗っている時に何かあったと考えるのがすっきりするので――。


「なら電車乗ってみるのも――だよな。方向は逆になるけど」

「あっ、それいいね」

「私もその意見賛成」


 俺がつぶやくと女性陣の賛成を得ることができたため。俺たちはそのまま駅の中へ。いつものように切符を買って改札を抜けていく。


「えっと――電車は出たばかりか」


 いつも電車に乗る時なら基本電車の時間を調べてから駅に来るが。今日は何も気にせず思い付きで行動している為。どうやら少し駅で電車を待つ必要がある。

 ここは大都会ではないので。朝だからといってひっきりなしに電車が来るということはない。

 というかこの駅終点である。

 ホームは1番線と2番線。基本ラッシュ時以外は1番線に電車が到着しそのまま折り返していくというのがこの駅の流れ。

 そして今の時間は――まだラッシュの最中にはなるのだが。一番のピークは過ぎているので、まあいつも通り。日中と同じというべきか。1番線に電車が来なければ電車に乗ることはできない。


 電車が来るまでの間俺たちは待合室へと入りベンチに座った。


「で、電車乗ってどうする?」


 ベンチに座った俺がみんなに確認すると――柊花と一心が難しい顔をしていた。


「どうした2人とも?」

「何考えているの?柊花」

「いや、由悠と杏奈ちゃんは気が付かなかった?」

「「うん?」」


 柊花に言われて考える俺と赤崎さん。でも柊花が何を言っているかがわからない――と、思った時。一心が俺と赤崎さんの前に先ほど買った切符を見せてくる。まるでこれが答え――って、そうか。


「「あー、ICカードじゃない(ってことね)」」


 俺と赤崎さんは同時につぶやいた。すると頭の中では先ほどと同じで――電車に乗る際にICカードを使っていた普通の生活の方がよみがえって来た。


「ちょっと由悠と杏奈ちゃんは鈍いね」

「なんか柊花に傷つけられた気がするー」

「いや、でも確かにかもだぞ。俺切符買ってすぐに変な感じがしたら思い出したし」

「キモイのに負けたのはさらに傷つく」

「だから!俺への態度が杏奈おかしんだよ!」

「一心が騒いでいるのは置いておいて――」

「いや、柊花も置いておくなよ。友人である俺が悪口言われているんだぞ?」

「いつ?」

「お前か!」


 にぎやかな待合室――だったが。柊花は一心を放置して話を続けた。


「で、由悠と杏奈ちゃんは気が付くのが遅いってか――もしかしたら、私たちより影響を受けているとかそういう理由もあるんじゃない?」

「影響?」

「どういうことだ?」

「いや、だって、私と一心は特に何も変わりなかったのに。由悠と杏奈ちゃんはなんかおかしなことになってるじゃん」

「あ、なるほどね。私のところは借金抱えて――」

「俺は存在すらない――って、そう考えるとやっぱり俺ヤバいか?」

「やばいね」

「やばい気がするよ」

「俺も由悠は消えるんじゃないかと思っている」

「マジか」


 3人にそれぞれ宣告される俺――って、まだはっきりはわかっていないが。でも確かに少しずつ整理していくと――俺だけおかしいというか。赤崎さんは存在はちゃんとあって――単に家の経済状況?がおかしくなっている。それはそれで大変なことだが。でもちゃんと認識されている。でも俺は親父に認識されていない。まあ幸い一心たち一緒に居るメンバーからは認識されているが……。

 などと俺が考えていると。別の声が待合室内に聞こえて来た。


「――あれ?先輩方――?」


 その声は昨日聞いた声だった。声の方を見ると栗色のやわらかそうな髪がふわっと揺れたところだった。


「あっ、舞悠ちゃん」


 一番に反応したのは柊花。


「おお、かわい子ちゃんって――柊花の知り合い?うん?なんで由悠にも視線が――って、由悠も知り合いか!」


 その次に反応したのは、確か昨日俺のバイト先のことは知らないはずの一心――って、松山さんが怯えているので止めようか。


「一心。うるせえ」

「なんだよ由悠」

「お前が近寄ると警察呼ばれそうだったからな」

「なんでだよ。って、このかわいい子誰だよ」

「はいはい一心由悠の言うように警察呼ばれる前にだまったら?」

「だからなんでみんな俺に冷たいんだよ!」


 と、ちょっと一心が荒れたが――そのあとちゃんと自己紹介。

 赤崎さんにも紹介しないとだからな。

 っか、そういえば松山さん見て思い出したが――俺の母親の旧姓って松山だったな。と、俺がどうでもいいことを思った時。

 駅構内にアナウンスが流れて、太陽の光が反射でもしたのか一瞬だけまぶしい――と、思い。外を見たとき。ちょうどその方向から電車がホームへと入って来た。


「よし。ってか、舞悠ちゃんだったか。どこ行くんだ?」

「えっと――大学です」


 すると、一心が舞悠に聞く――って、まあそうだわな。普通の回答が来たというか。俺たちも本来は大学へと向かうべきなのだが。意味もなく電車に乗ろうとしているのだ。俺たちの方がおかしいと言えばおかしいだろう。


「ならちょっと俺たちと出かけるって言うの――ぎゅえっ」


 すると、一心がさらに話を続けたところで、柊花のチョップが一心の頭に――多分めり込んだ。


「一心。他の人巻き込まない」

「なんでだよ。っか、いてぇー頭割れるわ」

「一度割れたらいいのに」

「死ぬわ!」


 いつも通りにぎやか――にぎやかなのは良いことかもだが――なんか俺たちが騒いでいるからか。駅構内人が居ないというか――あれ?この時間で俺たちしか電車の利用客が居ないということはあるのだろうか?

 普通なら松山さんみたいに通勤通学の人が居てもおかしくない――またはどこかに行く人が居てもおかしくない気がするのだが――と、俺が思っている間にみんなが電車が来たことで、待合室を後にし出したので、俺も続いて外に出る。するとちょうど電車が俺たちの目の前に止まり――ちょうど正面に来たドアのところにはを着た男性が立って――。


「――えっ、ちょ!この人!」


 すると、白衣の男性を見るや否や赤崎さんが白衣の男性を指さし叫んだ。

 って、そうだ。白衣って、昨日の夜見た。いろいろあってちょっと忘れていたが。赤崎さんは誘拐されかけていて――その際にちらっと見えたのは確か白衣。と、思っている間に、何故か笑みを見せる白衣の男性。

 年齢は―50から60くらいだろう。身なりはぼさっとした感じで髭も伸びている。見るからに怪しい。と思った時だった。


「イレギュラーがちょうど揃っているとは助かった」


 白衣の男性は意味が分からないことを言い出し――そして白衣のポケットから何か小さな――カメラ?と、俺が思った際。一心は何か凶器でも出した。と、思ったのだろう。


「何する気だ!」


 即行動できるのは一心の良いところ――と、俺思う前に。一心が1歩、2歩と、白衣の男性と赤崎さんの前に駆け出す――だったのだが。


「うわっお」


 どうやらいきなりのことで足がもつれたらしく。何故か俺の方にバランスを崩して突っ込んできた。なんでだよ!と、言いたかったが。俺もいきなりの一心のたっくりに。


「――ぐえっ」


 変な声をあげつつ。ホームに倒れこむしかなか――。


 バシュッ。


 すると、俺の頭上でかなりまぶしい光が――と、思った瞬間。


 ざわざわ――。 

 

 急にあたりが騒がしくなる。

 それはまるでいつも通りの朝の駅校内が戻って来たかのように――。


『まもなく1番線から電車発車します!』


 駅員さんの声も響く。すると、俺の隣に影が現れた。


「おい、大丈夫か。兄ちゃん」

「――えっ」


 地面に手をついていた俺が顔をあげると――そこには何故この時期に真っ黒ー。日焼けって、それは人それぞれか。とにかく。よく日焼けした男の人が俺に手を差し出していた。


「立てるか。悪いな。ぶつかったかもしれん」

「あっ、いや。大丈夫です」


 何が起こったかわからなかった俺だが。男の人の手に感謝。でも自分で立てるので大丈夫と動作でアピールしつつ立ち上がる。


「急いでてな。怪我無いか?」

「大丈夫です。たまたま俺も躓いて」

「そうか。まあ兄ちゃんも気いつけてな」

「あっ、はい」


 何が起こっているのかわからないが。とりあえず男の人には何もケガもないことをアピールすると。片手をあげつつ男の人は改札の方へと小走りで向かって行った。


『ドア締まりまーす!』


 すると、プシューと、いう音と共に駅に止まっていた電車のドアが閉まり。電車がゆっくりとホームを離れて行く。

 俺は取り残された人のように――って。みんなは?と、思い周りを見たのだが――。


 ――一心も柊花も、赤崎さんもそして松山さんすら。俺の周りにはいなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る