長距離ツーリング──目的地は?


「おぅ~、だいぶ人も車も少なくなってきたねぇバイすけ。その内ワタシ達しかいなくなるんじゃない」


二回ほどサービスエリアでの休憩を挟み高速道路を降り、晴菜々さまは多くの車両が向かうだろう有名観光地とは真逆の方向にハンドルを切ってゆく。本来は我々も有名観光地を目的地としていたはずだが、最初のサービスエリアで遠く見つめていた山に好奇心が動かされたのだろう。車両も信号機もほとんど無くなってきた道路をビュンビュンと風を受けて走ってゆく。もちろん、安全速度を守っての事である。カーブ地帯は特に緩めて走行する。


「おお、左に山、右には蜜柑色オレンジなガードレールとでっかい川。涼しそ──と、まえまえ、見て運転しないと危ないよあたしッ」


素敵な景色を楽しみながらも前方をしっかりと見て晴菜々さまは運転する。しかし、ここまで観光地から離れた場所に来てしまうとは、我が主はいったいどこに向かおうというのでしょうか。


「さて、だいぶ走っちゃったけど、どこに行ってみようかなっと」


どうやら、晴菜々さま自身も決めておられなかったらしい。


我々はもうしばらく走った後に道路脇の民家でプランターの並べ替えをしているおばあさまを発見し、晴菜々さまは持ち前の陽な気質で話しかけに行くのだった。





「はい、あ~、分かりました。ありがとうございますッ。はあい、へぇ~、県境けんざかいにあるお店が美味しいんですか。オススメは、お~蕎麦そばぁ。それもありがとうございます。行ってみますッ」


幾分か話が盛り上がってるのを聞いていると楽しげなお顔で晴菜々さまが戻ってきた。


「こっから先にね、バイクに乗りながらでもだいぶ上に行けるお山があるみたいだよ。今回はゆっくり山道ツーリングで決まりだね。帰りは県境のお店でお蕎麦食べちゃおっかなぁ。うんうん、楽しみだねぇ」


どうやら目的地は決まったようである。山道ツーリングという事は長い時間、晴菜々さまとご一緒できるという事だ。これは私も山道を頑張って登らねば。お店ではお留守番をしなければならないが、そこは我慢いたしましょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る