長距離ツーリング──高速道路にて
国道をしばらく走行し、高速道路へと向かう。ここから晴菜々さまの住み慣れた地元を離れ、まだ見ぬ世界を走り抜けてゆくのだ。私にはETCが取り付けられているので、後ろの車両を待たせているという圧迫感を持つことも無く料金所をスムーズに通過することができる。
「おぉ、やっぱ高速は
晴菜々さまの言うとおり高速道路という世界は高速に風が通り抜ける一般道とは違う高い高架を走りゆく未知の環境下だ。今は問題は無いが山間部ともなると横風も強く、操作が不安定になりやすい。それに四つ足の車両群がビュンビュンと速度を上げて通り過ぎてゆく危険な地帯ともなる。主の身を晒してしまう我々バイクという車両は安全速度の意識を主にしていただいて走行してもらう他ない。
「バイすけぇ、無理せず安全に行こうなぁ。楽しいツーリングは始まったばかりだかんねぇ」
さすがは我が主である。晴菜々さまは高速道路のマナーをしっかりと守り走行を心がけてくださる。服装こそ観光しやすいようジーンズであるがライダースジャケットの内側にはプロテクターが付けられており、私のタイヤ空気圧もバッチリとチェック済みであるしばらくは共に高速道路の世界を楽しむ事としよう。
「バイすけ~、ちょいとサービスエリアに寄っちゃうようん」
高速道路の風を楽しんで約一時間、晴菜々さまが休憩を取られるようだ。バイクでの高速道路での走行は強い走行風を体全体で受けるため体力消耗がより激しい、無理なくこまめな休憩を取る事が重要であり長距離ツーリングを楽しむ基本でもあるだろう。さすがは我が主、わかっていらっしゃる。
「ちょっと待っててなー、バイすけ~」
サービスエリアの二輪駐車場に私を停めると晴菜々さまはフルフェイスヘルメットを外し私のボディをポンポンと触ってから歩いて行ってしまった。わかっている、食事スペースに我々バイクがご一緒することはできない。寂しくはあるがしばらくはひとり待つとしよう。
「ほいほいおまたせなぁバイすけよ~」
と思ったらそれほど時間も経たずに晴菜々さまは戻っていらっしゃった。はて、これっぽちな休憩でお身体は回復なされたのだろうかと心配してしまう。
「えへへ~、美味しそうな大福みたいなアンパンが売ってたから買っちゃたよう。コーヒーは自販機の缶だけどなぁ。食堂で腹ごなしもいいけど、こうやって愛車の側で食べられる手軽なパンもいいもんだよねぇ。さぁて、一緒にまったり休憩しような」
どうやらまだご休憩は終わらないようだとホッとしつつ、私の側で食事休憩をしてくださる事に嬉しさがわき起こる。晴菜々さまはそんな私の感激に気づく事は無いだろう。アンパンを咥えたまま缶コーヒーのプルトップを開けるその横顔はどこまでも眩しく元気な少女のようだ。
「ん~、このアンパンもっちもちで美味いよバイすけ。さすがは大福みたいな薄皮生地ちゃん、コシアンも甘すぎずな美味ぃ~。コーヒーにも合うけどシッブイお茶もいい組み合わせだったろうなぁ。バイすけが食べたハイオクガソリンとどっちが美味しいんだろうね、アハハ」
私はそのアンパンとコーヒーとやらを食せぬので分かりませぬが、
「お~、こっからでも小さく山が見えるねぇバイすけ。有名な観光地目的もいいけど田舎の山を上までかっ飛ばして登ってくのもいいかもねぇ。もちろん、バイクで登れる所までだけどな。ングング、うん」
私は晴菜々さまが見つめる方向とは真逆に停車しているので山は確認できませぬが、晴菜々さまがワクワクとした表情でアンパンを食しておられるのを確認するに、目的は決まったも同然でしょうか?
「はむ、ングむぐ、んッ。ようし、休憩終わりっと、空き缶とゴミ捨ててくるから待っててなぁ、出発するぞうッ」
私は晴菜々さまがいなければどこにも行けないし行く気もありませんので、どうかごゆるりと。
「よしようし、右よし左よし前よし、よしッ出発進行だバイすけ~ッ」
ライダースグローブをグッグッとはめてフルフェイスヘルメットを被ると、晴菜々さまは安全確認をしっかりと行ってからサービスエリアを後にするのだ。
さて、我々が向かう目的地はどこになるのでしょうかな?
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