3 聞き取り調査

「ふゎああ」

 盛大なあくびを披露しながら、霊明部部長、明石頼斗あかしらいとは起き上がる。


 時計を見ると午前六時であった。いつも通りの起床時間、生活リズムは健康的である。

 昨日夜遅くまで起きていたが、それでも体は起きる時間には目を覚ますものらしい。


 六月十七日。


 例の後輩との約束の日である。




 ピンポーン。

 やはり幽霊の出そうな家の呼び鈴を鳴らすと、例の後輩、すなわち呼道こどう千利せんりがドアを開けて出てきた。


「……結構朝早いんですね。まだ八時ですよ」


「最近昼は暑いし。それに、早起きは三文の徳って言うでしょ?」


 そんなくだらない会話をしながら、家の中に入っていく。


「じゃーん」

 そういって明石が取り出したのは白い紙袋だ。


「えっと。それは何ですか?」

 寝起きでまだ頭が回っていない少年が質問をする。


「お土産だよ、お土産。前回は急だったから何もなかったけど、今回は準備できる期間があったからね。人様の家に上がるならこれくらいしないと。あとは、霊明部のお客様への挨拶って意味もあるけど」


「あ、ありがとうございます」


 そんなやり取りをしていると、寝起きの後輩の後ろから中年の女性が出てきた。特にパッとした特徴はなく、きっとこの人が母親なのだろう、という雰囲気だった。


「それで、そちらが?」


「はい、僕の母親、呼道こどう弘子ひろこです」


「息子の紹介の通り、呼道弘子です。息子から話は聞いています、よろしくね」

 そう言って呼道母は頭を下げた。


「はい、よろしくお願いします」

 明石も同じく頭を下げる。


 そうして明石は家の中に案内された。



「千利くんから話は聞いていますが、もう一度詳しく説明してもらってもいいでしょうか」

 呼道母にお茶とお菓子を出してもらったところで、明石は質問をした。


「はい。少し前から毎晩毎晩、夜中に男に首を絞められるんです。夢とか、幻覚とかだと思っていたんですけど、そうでもなくって」

 といって、呼道母は首を見せた。

 すると確かに、腕で絞められた跡のようなものが残っている。


「何か、思い当たる節はありますか?」

 珍しく真面目な雰囲気で明石が質問する。

 しかし、呼道母は良く分かっていないようだ。

 明石は続ける。


「いいですか。この世界の霊的現象っていうのは、大抵は勘違いだとか、意識の問題なんです。強くそう思いすぎると思った現象が現れる。どこかの学者が言っていた、認識が対象に従うのではなく、対象が認識に従う、というやつです。それで、私はひとまずの予想として、あなたの誰かへの恐怖や後ろめたさが原因ではないか、と疑っているんです」


「さっきはそんなに詳しく教えてくれませんでしたよね」

 後輩男子が恨めしそうにこちらを見ているが無視する。


「と、いうことで。なにかありませんかね?」


 すると、呼道母はゆっくりと口を開いた。


「これも息子からもう聞いているかもしれないんですが。私の旦那……今は元旦那ですね。彼が、私たちを置いて出て行ったんです。だから、もしかしたら彼への恐怖なのかもしれません」


 明石は、へぇ、と言いながら無表情な後輩男子の方を見る。

 だが彼は何も言わなかった。


「それだけ、ですか?」

 呼道母の目を強く見て、確認する。


「……はい、おそらく」

 気まずかったのか、呼道母は目を逸らしてそう言った。


「分かりました。また来ます」


 そう言って、明石は呼道の家から出た。

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