敬愛

教師ティーチグレイシア!」


 ある日のある何処かにある学級王国と呼ばれる学舎の廊下で、大きな声で教師を呼び止める少女の声がした。


「その声であなたってわかったよ。リアーナ」


 リアーナ、と呼ばれる少女は教師からの言葉にわかりやすく目を輝かせる。

 グレイシアと呼ばれる教師は、リアーナからの呼びかけに嫌な顔を全く出さずに応じる。リアーナは当たり前の様に進行方向を回れ右をして、グレイシアの横に並び、再び歩き出す。


「こんにちは。教師ティーチ、今日の魔法史の授業も楽しみです!宿題もきちんとやってきました!」


「よかったよかった。チェックするのが楽しみにしてるね」


「えぇ〜!それはそれでなんだか緊張してしまいます」


 グレイシアからの言葉に、リアーナは背筋が伸びるかの気分になる。


「あ、ところでリアーナ」


 突然グレイシアがリアーナに声をかける。

 リアーナは、「なんでしょう?」とグレイシアを見る。内心、前回のテストの点数が少しだけいつもより低かった事もあり、怒られるのではないかと若干に冷や汗をかく。


「この間の長期休みの一時帰省、大丈夫だった?お母様、暴れた?」


「えぇまぁ。多少色々ありましたけど、大丈夫です!今は基本的に毎日学校の寮に居ますからねぇ」


 グレイシアからの言葉にリアーナは、(なんて優しい人なんだろう)とうっとりしている。

 リアーナの家庭は少し変わっていて、中々バイオレンスな家庭で育ってきたのだが、どういう訳か両親の悪い影響は受けず、非常に能天気な少女に成長したのだった。

 ある時のいつか、リアーナが悩みに翻弄されていた頃、偶然教室で憧れの教師ティーチグレイシアに悩みを打ち明け、そこからは時々様々な事を相談していたのだ。

 いつもリアーナの事を気にかけてくれるグレイシアに、リアーナはすっかり懐いてしまった。もはやファンなのかと言えるくらいには。


教師ティーチグレイシア!大好きですー!優しくて親切で本当に素敵な方です!」


「そんなに褒めてくれてありがとう。中々言われる機会ないから」


「……ところでリアーナ。後5分で次の授業始まるけど、なんの授業?」


「魔法実技です」


「……教室、真逆だよー?」


「あっ」


 リアーナは顔を真っ青にし、自分の手には授業の用意も持っていないことに気がついた。


「……い、急いで授業に向かいます!ではまた!」


 回れ右をして廊下を駆けていくリアーナ。

 そして、目的地に向かうグレイシア。


教師ティーチグレイシア!!今日も大好きでーす!」


 周りからは、またリアーナかという声が。

 そんな彼女を見送ったグレイシアは、くすりと笑って再び歩き出した。


 (今日もあの子は元気だなぁ)

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何時かの何処かの誰かのI 灰業みずり @Hainali

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