残影山吹 5
「そうだが」
「うちの基地の整備員、元戦闘機乗りがいる」
「は」
昔戦闘機乗りだったサトウの情報が残っている。
かなりの撃墜数を誇る化け物パイロットと書かれていた。
老いた今、薄汚れたツナギを着て格納庫にいる。
「確かにおかしい。みんな死ぬはずなのに」
「何か上層部と取り合ったとか」
「それはないだろう。パイロットをただの道具としか見ていないのに。まともに取り合ってもらえるのか」
「そうよね」
「残酷なんだよ、上層部。死んでも次々補填する、銃弾と同じ扱いだ」
「私たちってどこから補填、連れて来られるの」
「海の向こうの国だろう」
海の向こうの国。
復唱して黙る。
海の向こうの国、それは時々聞く存在であり、謎に包まれた場所。
そこから空子が来るなんて。
「考えてみろ。ライト島とトムル島の人達の数を。女が子供を産めない環境で、どうして子供たちがこんこんと湧き水みたくいるのはおかしいだろう」
頷く。
子供を産む環境がないし、そんな暇はない。
子供を生す事なんて考えたこともなかった。
男と寄り添うことすら頭にない。
「じゃないと辻褄が合わないことだらけだ」
ふうと息を吐く。
またしばらく沈黙。
「もう寝よう。疲れた。朝に救助が来るからそれまで」
「そうだな」
身体を横たえて瞼を閉じる。
夜明け、救助が来た。
敵機から出てきたヤマブキを、救助隊員がかなり慌てた顔で迎える。
説明をするとほっとした顔に。
コバルトの救助隊も来た。
いざこざが始まるかと思ったが、緊急事態だったからと割り切る。
今度は空で、そんな嫌な約束をして別れた。
帰還して地面に足を付けた。
土はいい。
滑走路脇の芝生に寝転んだ。
「ヤマブキ姐さん、お帰りなさい」
基本無口な非公式の妹パイロットが隣に腰を下ろす。
「リンドウただいま。ごめんね心配かけて。何かあった?」
「ううん。ただヤマブキ姐さん、不思議な匂いがするの」
「さっきまで敵機に乗っていたからかな。不時着して死にそうで。避難してたの」
経緯を話すとリンドウは納得したようだ。
そうだ、と小さな紙袋を渡す。
「これあげる。金平糖っていうの。砂糖菓子」
不思議そうな顔をして1つつまんだ。
「甘い、ですね」
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