夜桜散華 12

 満開。

 サクラは木の下で膝を抱えた。

 友人や妹がいろいろと心配をしてくる、ほとんど耳に入らない。

 いつもどこかにある上層部の目も気にならなくなった。


「随分、損をした人生だったわ。私は誰なんだろうね」


 隣に座ったヤマブキに呟く。

 姐が死期を悟った病人のような顔をしている、ヤマブキは話を逸らそうと頭を回した。


「あ、あそこにいる人達って顔似てない?」


 遠くに立っている、時々基地に来る調査官のような男2人。

 そっくりな顔立ち。

 なんとか話題を逸らせた、と安堵する。


「ああ、あれはね。双子っていうの。血が繋がってる兄弟なんだって」

「へえ、何でも知ってるね」

「私も姐に教わった。スイレン姐さん、確か弟がいるはず。たぶん、ヤマブキと同じ年齢の」

「どこにいるの」

「さあ。どこだろうね」


 頭上で咲き誇る桜、時折散る花弁。


「いいよね、桜。毎年毎年美しい。同じ名前の私なんか、毎年毎年ボロボロで、最期は海、鱶のエサよ」


 嫌だなぁ、と笑って息を吸った。

 また無表情になるサクラが怖くて、ヤマブキは話をまた逸らす。


「姐さん、お願いがあるんだけど」

「何?」

「訓練生にさ、気になる子がいるんだ。わたしの妹でなくていいから、散華にしてやってくれないかな。面倒は見るから」


 少し目を開いて柔らかく笑む。

 ヤマブキには妹がいて、それなのに他の子を考えるなんて優しい子だ。


「どんな子なの」

「声帯に少し異常があってね、喋れないんだ。でも、モールスは早くて正確で、普通に話せるの。無線で支障でるからってなれそうにないの」

「元々散華候補だったの、その子は」

「そう。ちょっと前に喋れなくなって。本当に腕がいいの、雑魚にするにはもったいなくて」


 必死に頼む。


「あそこにいる子かな。いつも遠くからヤマブキを見てる」


 1番遠い格納庫のあたりから扉に隠れてこちらを見ている。

 ヤマブキの妹パイロットよりも少し年下のような顔つき。


「あの子は誰の妹パイロットになる予定だったの」

「ナデシコ。わたしの同期。あまり相性がよくなさそう」


 小さく数回頷いて、


「おいで」


 その子を手招いた。

 おどおどと近付く。


「名前は」


 リンドウ。

 リンドウは胸に下げている認識票を見せてきた。


「リンドウ。散華になりたい?」、頷く。

「機体には普通に乗れるね?」、頷く。

「喉は薬餌療法で治りそう?」、頷く。


 試しに手のひらにモールス信号を打たせると、かなり上手い。

 まだ若手のわの字だろうに。




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