夜桜散華 6

 背が高くとも、穏やかな声。


「どうしてここへ。会議にも参加せずに」

「俺はただのキャリーだからな。お偉いさん方を連れてきただけのパイロット」

「責任重大ですね」


 テツは肩を竦める。

 会議室で話し合う人たちの輸送。

 どれだけ重要な任務を負っているのか、それなのにテツはしれっとした顔で立っている。


「何でも操縦できるの」

「まあね。何でも。ファイターにしか乗らないのかい」

「ええ」

「そういう人、俺も知ってるよ。大体のパイロットは何種類かに乗るんだけどね。もう死んじゃったけど」

「戦闘機にしか乗らない人」


 姐が、フジがそうだった。

 それに倣って戦闘機にしか乗っていない。

 立ち話も何だし、とテツが近くの階段に座る。

 サクラはまた翼によじ登り、座る。


「何の会議してるか知ってます?」

「さあ、なんだろうね。俺も知らないんだよ」

「終戦、とか?」

「それはないよ。だってこの戦争は終わらないから」


 ほっも胸を撫で下ろす。

 よかった、戦争は終わらないんだ、生きる道はまだある。

 日が暮れるまでテツと話して、宿泊施設へ向かった人たちを見送る。

 コーヒーが好きだと言ったテツに、喫茶店のコーヒーを勧めた。

 そこのマスターテツという名前だと言うと、少しだけ目を開いた。


「偶然もあるんだな」




 風呂上がりに部屋でヤマブキと話をする。

 昼間の会議は、終戦や停戦でないと伝えた。

 よかった、とヤマブキも胸を撫で下ろしていた。


「ねえ姐さん、あの男誰なの?」

「男?」

「話していたでしょう、ライチの」

「ああ、テツのこと」

「気を付けてよね、油断しないで」

「わかってる。ちゃんとナイフは持ってる」


 2人で話していたのを見られていたのだろう。

 変な話はしていない。

 戦争について、と、ライチ基地についてを話していた。


 向こう、ライチ基地もこちらと変わりない島国。

 毎日出撃しては、こちらと交戦。

 そして飯を食らい、寝る。


「敵といえど、同じなんだなぁ」

「そうなの?」


 ヤマブキは唇を尖らせた。

 消灯時間が近付き、灯りを落とす。

 布団を被る音。


「姐さん」

「何」

「出撃ないと寂しいね」

「そうだね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る