夜桜散華 4

 翌日、散華を1人同席させてほしい、とライチ基地からの要望を受けた。

 サクラを指名され、正装を着る。


「上官、どうして私なんです。他にも散華の隊員はいるのに」

「ここはエースと相場が決まっている。君はただ壁際に立っていればいい」


 サクラは了解して会議室へ足を踏み入れる。

 円卓に座るチフル基地の上層部と、ライチ基地の上層部の人々。


「その子が、スカイ・チャイルドのバルキリーかな」


 ライチ基地の人が言う。

 聞かない単語に内心首を傾げるが、きっと向こうの基地の空子の散華という意味だろう。

 こちらの基地の人たちは何の抵抗もなく喋る。


「随分、背が低いように見えるが、子供かね」

「まさか。少し背の低い大人さ。平均的ではないが」

「その背丈でエースを。ご苦労様なことだ」


 表情を変えないように頬に力を込め、サクラは会議が一段落するまで壁際に立つ。

 会話の中に時折聞き慣れた名前が上がる。

 スイレンやモクレン。

 姐やその友人の名前が上がるたび、どうしてその名が出てくるのか聞きたくて仕方ない。


 会議室から開放され、自室でいつもの作業服に着替える。

 桜色のラインが入った作業服は、飛行服の次によく着ている。

 出撃もないとなると特にすることもない。

 サクラは自分の機体を見に行こうと格納庫へ足を向ける。

 格納庫への道中、シミュレータの狭い筐体の中にヤマブキを見た。


 格納庫は飛行機が整列していて静かだ。

 いつもはいるサトウも他の格納庫にいるらしく、遠くに作業音。

 サクラは自分の戦闘機の翼によじ登り、寝転んだ。

 耳を澄ませると、こぽっと燃料タンクの中で泡が弾ける音がする。

 聞き慣れた子守唄のような音は、物心ついたときから聞いている。

 幼子のころから、いずれは戦闘機に乗って敵機を落としに行くんだと教わった。

 周りもそう教育された。

 訓練生を終え、散華候補になり姐について散華になった。

 普通のパイロットから特別に選ばれる女人だけの少数精鋭部隊、散華になったあの日。

 複雑でどう心の内を表したらいいか分からない。


 散華の意味は、壮烈な戦死の意味。

 この基地の意味は、少し違う。

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