夜桜散華 3
えー、とヤマブキのブーイングが聞こえる。
「基礎叩き込んでからね」
「でも」
新しい技を姐から教えてもらうとき、姐はすぐに教えてくれなかった。
いつ姐がいなくなるか分からないから、できるだけ早く教えて欲しいと懇願したことを覚えている。
でも姐たちは首を横に振るばかり。
あの時君はブーイングを飛ばしたが、今となってはまだ早すぎたということが分かる。
未熟すぎていた。
「じゃあ、どこかに技を書いておくわ。もう少ししたらシミュレータで訓練してね」
どこか、それは手帳だろう。
手帳の後ろのほうに自由欄があるからそこに、と自分の手帳を探して机の引き出しを開ける。
自分の手帳の下に、スイレンの手帳。
スイレンが散って数年、まだ開けていない。
「姐さんはまだ死なないよね?」
「死ぬつもりはないよ。まだね」
数日して、毎日のようにある出撃命令がないことに疑念を抱いたサクラは上官に問う。
「ライチ基地の人が来るんだよ。会議だ」
「ライチ基地の人?…まさか、」
「さあな。内容は知らされていない。ただ、1週間は休戦らしいぞ」
情報が何1つ伝わっていないようだ。
サクラはヤマブキに休戦の旨を伝え、ヤマブキは首を傾げた。
「敵国がどうして。何の会議なのかな」
「停戦か、終戦か。どっちにしろ困るね」
少し顔を顰める。
空子と呼ばれる自分たちは、空以外に生きる道はない。
きっとこの基地の外では生きられないだろう、外に出たらどしたらいい。
「それはないと思う。あったら困る」
レンゲが隣に来て同じような顔をした。
大方上官に聞かされたのだろう。
「空子は空以外で生きる道はないって、昔から上官や教官が言ってた。用済みになったらどうなるかな」
「怖いね。嫌な言葉」
戦争よ、どうか終わらないで。
私の生きる道を閉ざさないで。
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