夜桜散華 2

 格納庫から出ると空は清々しく晴れている。


「サクラ姐さん、戦闘機はどうだった?」

「だいぶ軽くなってるよ、いい感じ。最初乗ったとき、重くて宙返りもできなかったから。サトウのじいちゃんの腕は凄いよ」

「テスト飛行に木の葉落しするなんて、姐さんくらいでしょう」


 妹パイロットは格納庫を見た。

 格納庫の中でサトウが動いている。


「どうして花を描くのかな。わたしは山吹だけど」

「ずっと昔からの仕来りだからって聞いたよ。私の姐さんもそうだった」

「フジ姐さんのこと?」

「スイレン姐さんも」


 サクラは2人の姐を思い出す。

 散華候補になったときから面倒を見てくれたスイレンと、スイレンの死後、他の基地から異動してきたフジ。

 どちらが凄腕かと問われたら、フジのほうだった。

 散華なりたての自分が泣き喚くような技を持ち合わせ、叩き込まれた。

 数年してまた異動して行ったっきり、音信不通だ。

 トムル島には3つの基地があるから、どこかにいるのだろう。


「ヤマブキの絵は綺麗ね。青い空に燈色がよく映えて」

「サトウさんが綺麗に描くから、安心して乗れるの。サトウさん、今まで何人の花描いたのかな」

「さあ…スイレン姐さんの姐さんの姐さんの代からって噂もあるの。何歳なのかな」


 サトウがくしゃみをする。

 サクラは、妹パイロットのヤマブキと笑いあった。



 緊急発進もなく、部屋に戻る。

 2段ベッドの上でヤマブキは教本を開いた。

 サクラは下のほうでゴロゴロする。


「姐さん、きりもみ旋回できる?」

「できるよー、やらないけど」


 散華になって2年のヤマブキは、まだ未熟と言われ、必死に勉強をしている。

 最低限の飛行術は教育期間に学ぶが、後の技は姐に学べと言われる。

 姐は妹と面倒を見て、育成していく。

 サクラの姐のスイレンは基礎をしっかり教えてくれて、フジは恐ろしい技を鬼の如く叩き込んできた。

 シミュレータでは毎日墜落、実戦で使えるようになるまでかなり時間がかかった。

 だが、習得してみると姐の有り難さがよく分かった。

 今、チフル基地でエースをはれるのも姐のお陰だ。


「姐さん教えてよ」

「もう少し飛んだらね」


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