鬼籍睡蓮 6

 巴戦は、空と海が、どっちだか分からなくなるから怖い。

 藤の戦闘機と後ろを取り合い、スイレンは後ろについた。

 照準を合わせるより早く機銃を。

 燃料タンクに中たればいい、それだけ。

 僅かに方向舵に掠ったようだ、巡航には問題なさそう。

 いよいよ落とそうとしたとき、帰還の無線が入った。

 敵機は散り散りに還っていく。

 スイレンは基地に向けて機首を操り、他と無線を繋いだ。


 帰還して戦闘機から降りるとサクラが駆け寄ってきた。

 翼に被弾していたようで、一足先に帰還していたようだ。


「被弾したって?」

「うん。痛かっただろうなぁ」

「大丈夫、サトウのじいちゃんが直してくれるよ」


 幸いにも腕のいい整備士が揃っている。

 すぐに直るだろう。


「サクラに怪我は」

「ないよ。着陸のときにお尻打ったくらい」


 サクラは青ざめて今にも倒れそうだ。

 相当ショックなのだろう。

 スイレンはサクラの手を取って歩き出す。


「気晴らしに外に行こっか」

「いいの?」

「いいの。始末書はあとあと」


 着替えて上官に報告、外出許可を取って正面玄関でサクラと落ち合う。

 基地の外といっても、何もない。

 小さな雑貨屋、菓子店があるくらいで民家は1つもない。

 2人は行きつけの喫茶店に入った。

 サトウよりも年上なマスターがカウンターで白いコーヒーカップを磨く。


「マスター、いつものコーヒー。サクラは?」

「リンゴジュースがいい」


 マスターは頷いて、壁に無数にある引き出しを1つ、2つと開けて豆を取り出した。

 スイレンとサクラは古い雑誌を手にテーブル席につく。

 テーブルの上に花がひとつ、紫色だ。

 蔓が伸びている。


「クレマチス」


 マスターがコーヒーとリンゴジュースを持ってきて一言だけ言った。


「テッセンのことだよね。ちょっと違うけど」


 サクラはストローを噛んだ。

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