鬼籍睡蓮 5
方向を変え、目に付いたのは藤の花が描かれた戦闘機。
藤の戦闘機のパイロット、いい動きをしているが、そんなことはどうでもいい、こいつも落としておこう。
逃げる藤の戦闘機を追って、機銃を撃つ。
綺麗に流している、弾は中らない。
上手いなこのパイロットは。
狙いを定めてもう1度撃つと、藤の戦闘機との間に割って入ってきた菖蒲の戦闘機。
まるで藤の戦闘機を守るように。
何か様子がおかしいと気付くまで一瞬、スイレンは悟った。
方向舵や昇降舵がうまく機能していない。
―――そうか、分かった。
辛かろう、今楽にしてやるよ。
スイレンは菖蒲の戦闘機を追う、照準を合わせて撃てば、呆気なく散った。
姐もこうだったのだろうか、こんなに呆気なく。
水面で、ぐしゃりと潰れた。
濃霧立ち込める基地、ベッドの中で目覚めては数日前の交戦を思い出す。
いつも通り温かい手、きっと名前も知らない菖蒲の戦闘機のパイロットは、海の底で冷たいだろう。
もう海の生物のエサか。
立ち上がって着替えて鏡を見れば、荒んだ顔の女がそこにいる。
―――菖蒲の戦闘機を落とした今、きっと今度はわたし。
年季よりも先に鬼籍に入るだろう。
午後には、サクラに引っ張られて睡蓮の花を見に行く。
もう咲いている。
サクラは膝を抱えて睡蓮を愛しげにみつめる。
しばらくして、
「スイレン姐さん、空は好き?」
「どうだろう。嫌いではないよ」
「わたしはね…ちょっと怖いなぁって」
「そうね。―――少し怖いね」
蒸し暑い外気、空は晴れて積乱雲が遠くに見える。
夕方ごろにサクラと出撃した。
限界高度を巡航して、警戒を強める。
かなり下方に敵機の翼が光った。
短く周りに指示を出し、増槽を落として急降下。
敵機の直上から機銃を撃ち、撃墜。
海面すれすれで機首を持ち上げ右へ。
後ろの敵機を視界の端に捉え、上昇。
右、左、右――ではなく左のまま更に上昇。
ふわっと翻り追ってくる敵機をもう一度確認。
花が描かれている、それも藤。
敵討ちにきたか。
計器に目をやる、油圧油温、平衡全て既定値内。
落とすか。
操縦桿を握り直してスイレンは息を吸う。
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