第67話 代わりに払うお嬢様
「今すぐ払えるのか?」
金のことであればガゼットは無視をせずに振り向いて質問する。
「もちろん、と言いたい所ですが、用意する準備がありますので、その間にお話しをしてもらえないでしょうか?」
「断る!」
「いやなんで?」
脊髄で話しているかと疑う速さの即答をしたガゼットに、レンナが思わず突っ込む。
「なぁ、本来ギルドが払うべき金を払ってくれると言ってるんだよな?」
「そう……かな」
しれっと払わせようとしている50万とやらが、もしギルドから支払われても25万では? などと思うが、断る理由がまともかを聞く。
「そして、この人は俺に50万を支払う代わりにお話があるわけだ」
「とりあえずは……」
そこまではまだ言ってないけど、そのように捉えられなくはない。
「50万も払ってまで話したいことがあると見るのが妥当だよな?」
「多分そうでしょうね」
つい数分前まで気が狂っているとしか思えないことを話していたのに、ここの不審さにちゃんと気付けるのは偉いと褒めるべきだろうか?
さすがにレンナとしても少なからず不審には思っており、お話とやらが『今日はいい天気ですね』だとは思わない。
「じゃあ、なんでギルドが払うべき金を代わりの人に払ってもらうだけで、俺が何かしなければならないんだ? 本来払うべきお前らがなんとかしろ!」
ギルド職員に向けて言い捨てるガゼットにレンナは顔を引きつらせる。
ガゼットの言いたいことはわかるが、そもそも払うべきと認識していないギルドからすれば、少女が勝手に払ったところで知ったことではない。
しかしながらガゼットからしてみても、本来支払われるべき報酬に、第三者を通して余計な面倒ごとをプラスされるのは非常に納得がいかないのだろう。
「そうですか? では別途、お金を出しましょう。依頼を受ける受けないはそちらの自由でどうですか?」
「それなら――」「ちょっと待って」
「なんの御用でしょうか?」
乱入するレンナに少女が不審な目を向ける。
いきなり現れた少女の不審さをレンナは正直なところあまり気にしていない。
もし問題があればガゼットの横暴さでまるっと解決できるだろう。
問題は、少女に大した非がない場合であった。
「こいつは50万も貰ってても、本来払うべきものが支払われただけと思ってるから、あなたに感謝をしないわ」
「お前らはしろよ」
ガゼットが職員に余計なことを言う中で、レンナは頭が痛くなりながらも続けていく。
「だからこそ、内容次第では容赦なく断る。そこで文句を言わない覚悟はいい?」
金払いの良さから見ても、美しい見た目からしても、なかなかのお嬢様と見て取れる。
もちろん初めて会ったこの数秒でわがままお嬢様かどうかまでは何もわからんが、ガゼットの操縦はしても、さらに面倒な人間までは抱えられない。
「そうですね。確かにお願いを聞いてもらえると自惚れてましたわ。しかしながら、どうしてもお話を聞いてもらいたいのです。それだけで十分です。よろしいでしょうか?」
「ここで?」
周りを見渡してガゼットが聞く。
「セバス。お金の準備を頼んでいいかしら?」
「かしこまりました」
隣に立っていた執事が白い手袋をした右手を肩近くにまで上げて、うやうやしく頭を下げると、次にお嬢様はガゼット達に提案する。
「では、おすすめの店があるので、そこでよろしいでしょうか?」
「それは奢りか?」
「えぇ、ご自由に食べていただいて構いませんわ」
「よし、行くぞ!」
「あんたねぇ」
先程までの興味なさそうな状態から一変して、ホイホイとついていくのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「まずは自己紹介からですね。私の名前は正確にはコトノミリス=ズィ=ラスティーナと言います。ですが、お気軽にラスティーナとお呼びください」
「……ズィ?」
見た目から想像をしていなかったわけではないが、名前の構成から想像通りの面倒な相手にレンナは会話したことを後悔する。
「とりあえず、メニュー全部で」
「おい」
自己紹介から始めたお嬢様の前で、最優先で注文するガゼットにレンナが突っ込む。
「注文が来る暇つぶしに自己紹介すればいいだろ?」
「相手は貴族ってわかってる?」
「そうなの?」
ガゼットがラスティーナ何向けて首を傾げると、相手はこっくりとうなずく。
「えぇ、隠しているつもりはなかったのですが……」
「で、どんな対応をしろと?」
「特に何も。普通の対応で構いませんわ」
「そうか。で、レンナはなにを注文するの?」
これが普通の対応と言わんばかりに、ガゼットは即座にレンナへと話を振る。
「とりあえず、メニュー全部って本気? 場所わかってる?」
今いる場所は小汚い居酒屋なんかではない。
どこかおしゃれな雰囲気が漂うカフェであり、朝時に上流階級とでもいうべき方々が和やかに談笑をしている。
当然、メニューの値段だって安くなければ、そんなバクバクと食べている人もいない。
「場所? でも、
「もはや、
「あんな風って?」
「少しはよく見て学びなさい!」
颯爽とやってきたスーツ姿の男がスマートに注文を行うと、堂々たる様子でレンナたちの左隣にある席へと座り、新聞を読み始める。
朝のルーティンとでもいう感じが非常にオシャレでかっこいい。
「ふーん」
ガゼットはあからさまにブスッと機嫌を損ねると、先程の注文を完全に持て余していた店員にもう一度声をかけた。
「やはりスコーンで」
「私も同じもの――えっと、ラスティーナ様は?」
「ラスティーナ『さん』でも『ちゃん』でも構いませんわ。それに仲の良いものは『ティーナ』と呼んでくださります」
「そうですか……」
結局どう呼べばいいのかレンナが悩む間に、ラスティーナも注文を続ける。
「そうですね。おすすめのお茶と、同じくスコーンをいただけるかしら?」
先程の全注文を改め、ガゼットが注文したスコーンに全員がならう。
「かしこまりました。ごゆっくりどうぞ」
普通に店ではあり得ないぐらいの深い一礼が行われると、店員が去っていく。
「では、次はそちらの自己紹介お願いしてもいいですか?」
ラスティーナが対面するガゼットに話を振ると、注文が終わったガゼットは素直に話す。
「ガゼット=アルマーク」
もっとも、端的に名前だけを言っただけのガゼットに、右隣に座ったレンナは呆れながらも自身の自己紹介を始める。
「初めまして、私の名前はレンナ=レイ。一応配信者をやっています」
「お2人は恋人なんですか?」
「えっ?」
「仲がよろしそうだったので」
驚くレンナ相手にクスクスとラスティーナが笑うが、ガゼットが無理やり入ってきた。
「それで、何の用事だ」
「あんたねぇ……」
マジで黙らせたい口にレンナが冷たい視線を向け、ラスティーナもどこか悲しそうにする。
ただ、そんな美少女2人の仕草を見ても、ガゼットはガゼットで不機嫌そうな態度を変えない。
「お待たせしました」
「とりあえず、あんたは黙ってなさい! 私のスコーンあげるから」
そういって、とりあえず雰囲気をぶち壊すことしかできない男を黙らせるのであった。
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