第66話 依頼完了
「ワイバーン10体と巨大ワイバーンの討伐依頼完了しました」
ガゼットが採血球とワイバーンの亡骸、そして依頼書を差し出す。
「了解しました」
ギルド職員が受け取り、精算を始めるのを見ながらレンナの胃は痛くなる。
(この巨大ワイバーンって、なんて説明するんだろ?)
怒鳴りあいの末に減額で落ち着くのか、どうなのか……
不安になるレンナの前で、職員の手が止まった。
「このような依頼は存在しませんが?」
しょっぱなから
(そもそも依頼書ってリリアスくんが持っていたような?)
一体何を差し出したのか不安になる中で、ガゼットは気にした様子もなく聞き返す。
「個別依頼は探したか?」
「個別依頼……ですか? 少々お待ちください」
ギルドが出す依頼にはランク毎に分けて不特定多数に向けてだす普通依頼と、個人やチームに向けてだす個別依頼がある。
普通依頼が完了するまでの流れとして、依頼を選ぶ、依頼のを受理する、依頼を果たす、ギルドで依頼書を提出して清算する、といった順序になっている。
しかしながら、特定の人にしかできない依頼や、そのランク帯で募集しても集まらないような依頼の場合は普通依頼として掲示しつつも裏でギルドが交渉を進めていく。
今回の場合は見積もりが元々低かったことによる後者側の依頼であり、その中で別のチームに頼んでいた依頼をスターレインが善意から聞きつけてやってきたのであった。
「これ……ですかね?」
ガゼットが渡した依頼書と少しばかり情報差がある依頼書を職員が差し出してくる。
「それだな!」
ガゼットが提出した依頼書の正体――未受理依頼であっても、情報が更新された依頼書なら持ち出していいと主張した謎ルールをレンナは思い出すのであった。
「チーム・スターアサルトによる依頼とのことですが?」
「合同チームのスターレインとアサルトのことです。これがアサルトのチームカードです」
レンナは2枚のチームカードを取り出すと、渡し忘れていたガゼットにも渡しながら、ギルド職員に差し出す。
「はい、受理しました。ところで、スターレインの方々は?」
「知らん。まだ来てないのか?」
抜け抜けと、手慣れた様子でガゼットは知らないふりをする。
「それは困りましたね……」
「そうか、だとしても報酬を――」
「彼らへの新たな個別依頼が出ているんですよ」
「そうか、それはそうとして報酬をだな」
「知りませんか?」
「知らん!」
合同チームが上手くいかないなんてことはざらにあり、依頼の完了の報告をばらばらに来るパターンは決して珍しくない。
しかしながら、今回のギルド職員は珍しく食い下がった。
「合同チームですよね? なぜそんなことも知らないのですか?」
「足手纏いだからだよ! あいつらのことなんかについて知るか!」
「……はい?」
『逆じゃなくて?』といった言葉を職員が飲み込む。
ゴールドランクとスタンダードの合同チームがよりにもよって、スタンダードが足手纏いと言って帰ってくる状況は職員に想像ができなかった。
「彼らはゴールドランクですよ?」
「だからどうした? 3人もいるんだぞ!」
「……だから?」
まるで意味の分からない切り返しに職員の顔がひきつる。
根本から違う思想――数とは弱さ。
ガゼットにとって戦闘に参加する仲間の数が多いチームは弱いと考えている。
戦う人数が3人のスターレインに対して、アサルトは自分1人。
足手纏いが増えれば増えるほど弱くなるのは至極当然――なんて考えを前提に持ってこられても理解できないのも至極当然だが。
「わかったら、さっさと報酬をよこせ!」
「そもそも、本当に巨大ワイバーンを倒したんですか?」
「証拠はそろっているだろ」
「これのどこが証拠なんですか!」
職員が亡骸を指さしながら、レンナが危惧していた反論を行う。
ガゼットが何を考えていたのか、気になりつつ、レンナも口を挟む準備をしていたのだが、それよりも早く、別の職員が割って入ってきたのであった。
「すみません。照合結果が出ました――
「まさか――!?」「へぇー」
職員が目を見開き、ガゼットが驚いた声を出す。
この巨大ワイバーンは討伐依頼の受理がなんどか
レンナとしては初の
そして、そんな不審な様子をギルド職員が見咎めた。
「なぜ驚いたんです?」
「だって、ギルドがこの手の検査結果で嘘をつかないのは珍しいじゃん」
これはガゼットの嘘――正確には勘違いである。
それらの知識が両者側に全く無いため、ガゼットが倒した
ちなみに、
ガゼットがあまりにも簡単に倒しすぎたせいで別個体として処理されてしまい、それらの経験からギルドによる照会とは報酬減額を目的としてやっていると思っていた。
もっとも、減額前提でもスタンダード向けの依頼に近い金額程度となり、スタンダード依頼ですら減額される事があるガゼットからすれば、報酬額だけで依頼を選ぶのは必然と言えよう。
「とりあえず、ちゃんと証明されたのは良かったわ」
1番の悩みを解決したレンナはホッとする。
それでも、問題が解決されたわけでは無い。
それどころか、ガゼットに対する不信感を職員は募らせており、報酬の支払いを拒否する。
「スターレインが戻ってくるまで、報酬は渡せません!」
「ふざけるな! あいつらは今日中に帰ってこない! なんたって片道でほぼ1日かけたんだぞ? これ以上待ってられない」
「どんな我儘ですか! ワイバーンを倒してもらっておいて、なんですかその言い草は!」
「倒してもらった? ワイバーンを10体倒したのは俺だし、スターレインが返り討ちにあった巨大ワイバーンを倒したのも俺だ」
「嘘つかないでください!」
「嘘じゃねぇ!」
(いや、まぁダメなのは最初っから知ってたし……)
喧嘩する2人を見ながら、レンナはひっそりとため息をつく。
一切の期待はしていなかったが、予想通りに相手を怒らせて頑な態度を取らせた時点でガゼットの負けと言えよう。
「――あなたがガゼットさんですか?」
「誰?」
「初めまして。私はコトノミリス=ラスティーナと申します。あなたはレンナさんですか?」
「私を知ってる!?」
レンナから見て右側に花を作るように長い髪を結んだ少女が話しかけてくる。
金色の美しい髪に緑色の瞳――どこかのお嬢様だろうか?
「信じなくていいから、証拠があるんだから払えや!」
名指しで声をかけられたのに、ガゼットは振り向くことなく、目の前の職員に向けて叫ぶ。
「もしよければ、どうして怒っていらっしゃるのか教えてもらえないでしょうか?」
顔を合わせすらしない無礼な男に、少女は悠然とした様子で問いかけるが、ガゼットは頑なに職員に向けて怒鳴りつける。
「なんで! 依頼を完璧に果たしたというのに! 報酬の50万イェンが払われないんだ!」
「なんで、あんたは素直に会話できないの……」
職員に向けて吠えているが、ガッチリと噛み合う返答にレンナはだんだんと慣れてきた反面、どうしてこの器用さが騒動にしか身を結ばないのかがわからない。
ちなみに、しれっと上げた要求金額は更新された依頼の金額に基づいている。
だとしても合同チームの都合上、この半分が適正なのだが……
「そうですね。では、その支払いを私が代わりにさせていただきましょう!」
「えぇ!?」
レンナが考えていた奥の手――私が払うから諦めろを、いきなりやってきた別の女性が使ってきたのであった。
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