第56話 双頭黒焔竜

「バスターロード」

「えっ?」


 レンナが初めて聞く掛け声。

 驚いているとガゼットのバスターソードが緑色に輝き、片方が根本から開く。


「なに……あれ?」「さぁ?」


 ミレイスターが不思議そうな様子で聞いてくるが、レンナとしてもわからない。

 普通にしてもそれなりに長いバスターソードの刀身が二股に割れるとは思わなかった。


 正確には柄の部分から半分程が外れ、そのまま開くと一本の超ロング剣――ガゼットの身長すらゆうに超える剣へと変わる。


「「弱そう」」


 無情にして辛辣な意見をレンナとミレイスターの2人がこぼす。


 Guwoooo


 ガゼットのバスターソード(ロングモード?)を見た双頭黒焔竜ダブルダーク・ドラゴニックはなにを思ったか知らないが、バサバサと羽を動かすと、空を飛んで距離をとった。


 そのせいで、いくら長くなろうと届かない――同じ処理をもう2回ぐらいすれば届きそうなのが、1回目の時点で、もはや振った瞬間に壊れそうに見えてしまう。


「いくぞ」


 長くなった剣をガゼットが構えると同時に、双頭黒焔竜ダブルダーク・ドラゴニックの体も真っ黒に染まり切って力が溜まる。


 Guoooooo


「はぁああああ!」


 咆哮と共に黒い炎を吐き出し、ガゼットも合わせて剣を振るうと、案の定というべきか、まさかというべきか、刀身がバラバラに壊れてしまった。


「「えええええええええ!」」


 戦う前に引き起こされた大事故に2人が叫んでいると、ガゼットに黒炎が襲いかかる。

 さすがに当たるヘマはせず、ジャンプして躱すガゼットだが、なぜか代わりに双頭黒焔竜ダブルダーク・ドラゴニックが地面へと落ちてきた。


「いったい……何が」


 苦しそうにもがく双頭黒焔竜ダブルダーク・ドラゴニックが距離を取ろうと逃げ始めると、ガゼットが叫ぶ。


「逃すか!」


 手に持って振るうのはただの柄――だが、その先にはまばらに浮いている剣があり、それらの数々が双頭黒焔竜ダブルダーク・ドラゴニックに向かって襲いかかっていた。


「あれって?」


 ――魔法?

 ――超能力?

 ――手品?


 コメント欄による集合知ですら目の前の不思議現象がわからない。


 Guooooo


 口を開いて黒炎を放とうとする双頭黒焔竜ダブルダーク・ドラゴニックだが、ガゼットが振るう散らばった剣により、炎を吐く前に口が閉じられてしまう。


「ん? なにが――ぐはっ」


 目を覚ましたランドが起きようとするも、あまりの痛みに体をくの字に曲げる。


「なんだあれは? もうちょっと明るくできないか?」

「ん……まぁ……」


 あまり注目を集めるのはどうかと思って暗くしていたミレイスターは光を集めて明るくしていく。


「どういう状況だ?」


 先ほどよりも明るくなったことで状況は少しわかった。


 ガゼットが持っている柄から糸のようなものが出ており、その途中途中にばらけた剣がついている。


「こいつって――」


 ランドの記憶と同じ結論に至った視聴者のコメントが書き込まれていく。


 ――もしかすると、天龍剣じゃね?


 天を覆う龍――目の前にいる竜とは違い、細長い体の龍と呼ばれる存在。

 そんな龍を操るかの如くガゼットは腕を動かす。


 Guwaaaoooooo


 ガゼットが操る天龍剣によって、一方的な戦いを強いられている双頭黒焔竜ダブルダーク・ドラゴニックが羽を広げて風の刃を放つ。

 だが、大量の刃はバスターチャージで吸われるまもなく、ひらひらと舞う刀身の破片が壊し尽くし、それどころか逆襲とばかりに羽に風穴を開けていく。


 Gyaaaaaaaaaoooooon


 フラフラとしながらも、なんとかガゼットに視線を向けて、2頭同時に口を開いて黒炎を放とうとする。

 しかしながら、ガゼットはその2つの頭に天龍剣をぐるぐると巻き付きると、そのまま大地に叩き落とす。

 2つの頭があり、本来できるはずの2倍の攻撃も、1つに括られると1倍どころか0倍になり下がる。


 Guruwowowowowoooooo


 それでもまだ諦めないらしく、足を地面に食い込ませてしっかり掴むと、助走と羽ばたきの2つを力に変えて突進をかます。


「バスターオン」


 バラバラに散らばった剣が1つに――見慣れたバスターソードの姿に変わると赤く光る。


 Guoooooo


「おらよ!」


 ガゼットに向かって突っ込む双頭黒焔竜ダブルダーク・ドラゴニックに対してガゼットがバスターソードを振るう。


「えっ!?」「マジか!?」「まさか!?」


 挟み込むように顔面を近づけてきた双頭黒焔竜ダブルダーク・ドラゴニックに対してガゼットは前に進むと、生えてきた頭の首に向けて振っていた。


 リリアスが散々弱らせた後にようやく通った剣であったのに、まだまだ余裕のある状況のまま、ガゼットは首を切り落としてのける。


「あの剣はなんなんだ?」


 ランドが思わずつぶやき、ミレイスターもコクリとうなずく。


「そうか……」


 レンナはこれまでの戦いを思い出す。


 バスターロード――これはバスターソードを天龍剣へと変える。


(あのゴーレムを壊した方法ってこれかな?)


 遠い距離だろうと攻撃が届き、何よりガゼットが得意とする鞭捌きが存分に出ている。


 バスターチャージ――相手の魔法攻撃を吸収する技。

 範囲こそ狭いが、その防御性能は強力な魔法であろうと封じて見せる。


 そして、バスターオンは斬撃を飛ばす。

 しかしながら、これ自体はおまけによって起きている現象であり、本質は何でもぶった斬る技。


「他にもあるのかしら?」


 ガゼットの底はしれない。

 持っているバスターソードにしてもそうだが、それを操る天龍剣とやらにしても、とんでもない実力である。

 いったいこれほどの実力は、いつ手に入れたのだろうか?

『生まれた時から』

 レンナはふと浮かんだ疑問に対して、ガゼットの声が聞こえた気がした。

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