第53話 黒焔飛竜の討伐

 ――すげー

 ――強そう!

 ――金色に光ってる!


 天鱗の聖金衣ブーステッド・スペリオールによって金色へと輝くリリアスが黒焔飛竜ダーク・ドラゴニックに立ち向かう。

 非常に絵になっている図によって、なにも関係ないレンナの元へお金が注がれていく。


(それなりに危険な場所に来ているはずなんだけどね)


 なにもしていない居心地の悪さと、ガゼットによって守られる安穏とした状況。

 そして、これまでにミレイスターの見せた怒りを思い出し、1人勝手に肩身が狭くなる。

 ちなみに、ガゼットはかなり暇そうにしており、ボケーっとよそ見までする始末であった。


 だったらせめて協力してやれよと思わなくもないが、それでも余計な地雷を踏み抜く方が見殺しの100倍怖い。


「なんつーか、あれだな」


 戦っているリリアスをみたガゼットがボソリと呟く。


「ん? なになに?」


 金色に光る意味は不明だが、これまでより圧倒的にハイパフォーマンスで黒焔飛竜ダーク・ドラゴニックを切り裂いている。

 それらの傷はすぐに回復してしまうが、受けた傷の治癒には時間が取られるらしく、うまく攻撃には転じられていない。


「あっ!?」


 もっとも近場で戦う危険がそこにはあり、振り払った腕によって、遠くに吹き飛ばされてしまう。

 それでも、リリアスは諦めることなくすぐに立ち上がり、全く攻撃の手を緩めない。

 思わず目頭が熱くなる光景なのだが、それをみたガゼットがどのように思ったのかは気になる。


「さっき言ってた、あれだなってなに?」


 レンナの質問にガゼットは少しばかり悩んだ様子を見せると口を開く。


「なんで最初っから、あの技使わなかったんだろうなって」

「それはそうね。発動条件があるのかな?」

「あれは何度か剣に定期的に力を込めることで体内とのパスを繋ぐことで使えるようになるみたいだな」

「……はい?」


 待って、さっきのやりとりはなに?

 『なんで最初から使わなかったんだろうな』ってまさしくあなたの説明する定期的にうんたらくんたらですよね?

 それともただの推測?

 馬鹿の思い込みなのか、天才的な洞察力なのか、全くわからない。


「つまりさ、結局あいつは周りに合わせて、技を使ってるんだろうなって」

「そ、そう……」


 ガゼットの中で全てが繋がっていても、隣で聞いているレンナからすれば、まったくつながらなかった。


 とりあえず、ガゼットはもうちょっと周りに合わせて生きてもいいと思う。


「だからさ。あの2人が離脱したから、あの技が使えたんだろ」


 つまりも、だからも、意味不明なのだが余計な口を挟もうとしたレンナはガゼットの顔を見てなにも言えなくなる。

 一体どう言う感情が渦巻いているのか不明な表情。

 愉悦ゆえつにも、苛立ちにも、哀れみにも、軽蔑や憎しみにも見える様子にレンナは思わず呼吸を止めてしまう。


「きっと、あの二人が――なんだろうな」

「ガゼッ……ト」


 特に深い考えもなく言ってそうな言葉。

 だからこそ、純粋に、本気でそのように思っていることがわかる――わかってしまう。

 仲間という存在に対しての揺るぎない解釈にレンナの心がざわつく。

 そうして、金色に輝きながら戦うリリアスへと目を向けた。


 足枷あしかせが外れた男の本気を――


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「はぁぁぁぁあああ」


 グサァ!


 いくら切り裂いても、黒焔飛竜ダーク・ドラゴニックは瘴気を吹き出して、すぐに回復する。

 しかしながら、無敵ではなさそうであった。


 真っ黒な体は徐々に緑色になっていき、だんだんと巨大ワイバーンといった姿に近づいている。

 もっとも、無敵でないのはリリアス側も同じ。

 すでに気合と根性でらい付いている状態であった。


(腹、減ったなぁ……)


 ミレイスターにしろ、ランドにしろ、そしてリリアスにしろ――今のしかかる疲労は戦っている敵だけが原因ではない。

 寝る準備の中には当然晩ごはんも含まれており、だからこそ、寝るのを後回しにした結果、ついうっかり晩御飯まで後回しにしてしまっていた。


 万全な状態なら難なく倒せる相手というのはさすがに嘘である。

 しかしながら、今の苦戦の責任の一部は……


「ふっ、疲労にやられたか」


 よからぬ考えを振り払い、剣を構えて向き合う。


「はぁぁ!」


 襲いくる黒焔飛竜ダーク・ドラゴニックの左手に剣を振るうと、これまでと違いサクッと切り飛ばせる。


「これは!?」


 攻撃を続けたのが功を奏した瞬間――そして、そんな喜びの瞬間にこそ、油断をしてはならない。


「グボェ」


 黒焔飛竜ダーク・ドラゴニックの右手がリリアスを薙ぎ払い、意識が飛ばした勇者候補に向けて、岩による追撃が行われる。


 Gugaaaaaa


 無防備な体を押しつぶすはずであった投擲がミレイスターの結界に防がれることで、黒焔飛竜ダーク・ドラゴニックは苛立ち混じりに吠えると突撃を始めた。


「んっ?」


 リリアスは一瞬飛んだ意識が戻ると同時に、パリンと弾け飛ぶ結界の音が耳に入る。

 その次には、目の前に迫り来る黒焔飛竜ダーク・ドラゴニックの姿があった。


「させるかボケェが!」


 こちらに向かって一直線に進む黒焔飛竜ダーク・ドラゴニックの横から、ランドが斧を振ってぶちかます。


 Guwoooooo


「リリアス――準備できたぜ!」

「2人とも守ってくれてありがとう」


 そういって、リリアスは立ち上がるとミレイスターの元にいく。


「ごめんね。無茶ばっかりさせて」

「それでも僕はいつも助けてもらうばかりだよ」


 そうして、2人は互いの手を取りあうと、指を絡め合う。


「頑張……って……」


 ミレイスターが薄く微笑むと意識が落ちていく。

 魔法による力の譲渡――ランドとミレイスターの力がすべてリリアスに委ねられる。


「ミレイちゃん、大丈夫か?」

「力を渡した反動で倒れただけみたいだね。2人とも、お疲れ様」


 金色に光る体に走る白いライン――白鱗の天金衣フルブースト・エンドロール


 Guooowooooo


 黒焔飛竜ダーク・ドラゴニックが全力を振り絞って放つ攻撃――一発の黒炎が飛んでくる。


「はぁぁぁああああ」


 気合いだけで展開される結界が黒炎を掻き消す。


「そんなちんけな技は効かないよ」


 Guoooorororo


 ドスンドスンと大地に立つ黒焔飛竜ダーク・ドラゴニックだが、立っている場所は斜面であり、すでに、耐える力がなくなってきているのか、線を引きながら真ん中へと滑り落ちていく。

 そして――


 Guwaooooooooo


 全開にして広げる黒い羽をバサバサと揺らし、足を前に出すと、斜面を登って助走をつける。


 ビュゥゥゥウウン


 1回目の羽ばたきで体が浮き上がり、2回目の羽ばたきで前に進み、3回目の羽ばたきで突き進む。


「受けて立つ!」


 体内の息を吐き出すほどの全力の雄叫びをあげてリリアスも突き進むと、大地を蹴り上げて空を飛ぶ。


 ガギィィィイイン


 強靭な鱗と全力の籠もった剣。

 勝ったのは――剣であった。


 突撃してきた顔を半分にカチ割り、胸元近くまで真っ二つに引き裂くと、かけた力の衝撃によって、一回転して吹き飛んでいく。


「はぁ、はぁ、はぁ……疲れた~」


 金色に纏う光が消えていき、リリアスは剣を杖のようにしてなんとか立つ。


「あー、悲しいぃ。私のドラちゃんが倒されちゃった」

「えっ?」


 亡骸に抱きつきながら、シクシクとわざとらしい泣き声を上げる少女がいつの間にかそこにいた。


「だ、誰だ君は?」


 少女の友達であるワイバーンを間違って殺してしまった不幸な事件――そんな勘違いをするほど、リリアス=ハーレイはお人好しではない。


「人に名前を聞く時は、自分から名乗るんですよ~」


 どこか馬鹿にした甲高い声で少女が言う。

 長いローブを被り、顔が見えないが、チーム・スターアサルトの中で一番小さいレンナよりも更に一回り小さい少女にリリアスは警戒する。


「そうか、君がこの依頼の黒幕だな?」


 ワイバーンを10体倒すのは大変だし、巨大なワイバーンを倒すのは確かに難しい。

 だが、それだけでは条件がシルバーランクに引き上がったりはしないだろう。

 それに黒焔飛竜ダーク・ドラゴニックのような生物にワイバーンが変身するのは極めて不自然であり、誰かが裏で糸を引いている可能性は大いにあった。

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