第52話 第二ラウンド・黒焔飛竜

「戦えるか?」


 ゆっくりと体を起こしながら、ランドが聞く。


「余裕よ!」


 魔法を使うための杖を支えにしながらも、威勢よくレンナが返す。


「それは良かった」


 元気そうな二人にリリアスは安堵する。

 もちろん、リリアスから見て、2人にひどく疲労がのしかかっていることはわかっているが、それでも、虚勢すら張れなくなった時が1番のピンチなのだ。


「あれが、黒焔飛竜ダーク・ドラゴニックの真の姿ってことだろうね」

「黒炎ってのもマジなんかな? みたことないから、なんか楽しみだわ」

「気をつけなさいよ。もしかしたら、治せないかもしれないんだから」

「そうだね。気合いを引き締めていくよ――はぁぁあ!」


 金色に剣を光らせると、そのまま振りかぶり、斬撃を飛ばす。


 Guoooo


 リリアスの放つ斬撃はダメージとり、黒焔飛竜ダーク・ドラゴニックは苦しそうにうめく。

 だが、戦いはまだ始まったばかり。


 Gwaaaa


 黒いモヤのような瘴気しょうき黒焔飛竜ダーク・ドラゴニックの体を覆い、先ほどできた傷が癒えていく。


 Gyaaaaaoooo


 体を大きく広げ真っ黒な体を開くとバサバサと羽を動かす。

 黒い瘴気が羽の周りに集まると、風のやいばとなって、大量に飛ぶ。


「面倒ね――ジルド・ヘイム」


 スターレインを覆うように壁が現れ、大量の斬撃から仲間を守る。

 ちなみに端で傍観しているレンナにも、余波が飛んできているのだが、バスターチャージによってすべて無力化されていた。


 Guooooo


 風の刃による攻撃をやめると、口を開いて炎を吐く準備をしながら、すべるようにしてスターレインへと近づく。


 Buooooooo


 吐き出される黒炎――それも近距離からではミレイスターには防げない。

 だからこそ――


「やるわよ」

「「了解」」


 ミレイスターの元に2人が集まると、地面が浮かび上がる。

 正確には地面との隙間に作り出した魔法の板で空を飛ぶ。


「ぐうううううう」


 まるで自分とリリアスとランドの3人を持ち上げたかのような負担がのしかかるが、そのまま前方斜め上まで押し上げて飛んだ。

 そして、いきなり空を飛んだスターレインに目掛けて、黒炎を履いていた上を向いて吹き付けようとするのだが、


「「はぁぁぁああああ」」


 顔を上げた黒焔飛竜ダーク・ドラゴニックに目掛けて、リリアスとランドは飛び移る。

 ランドが斧を振りかぶって、開けた口を叩き閉め、リリアスも足で蹴って、黒炎を防ぐと、目に向かって剣を突き刺す。


 Gyaooooo


 痛みに悶えながら、ゴロゴロと転がっていく黒焔飛竜ダーク・ドラゴニック    だが、黒い瘴気が吹き出し、平然とした様子で立ち上がった。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「あいつ、まさか無敵なの?」


 どんな攻撃のダメージも体内から噴き出す瘴気によってすぐに治癒される黒焔飛竜ダーク・ドラゴニックを見てレンナが驚く。。


 ――超回復ワイバーン……ワイバーン???

 ――こんなのスターレイン以外に倒せないだろ

 ――いや、スターレインですら無理では?


 あまりに強すぎる敵にコメント欄も大いに湧くのであった。


「あいつどうやったら、倒れるの?」

「殺すか、ボコボコにし続ければ倒れるでしょ」

「ボコボコにし続けるってねぇ……」


 気軽に無茶苦茶を言うガゼットにレンナは呆れる。


「いや、いっきに殺せば、もしかして倒せるの?」


 新たな方法を見つけた可能性にレンナは目を輝かせて聞くが、ガゼットの反応は冷たい。


「もし復活しても、また殺せばいいだけじゃない?」

「……そう」


 死ぬまでボコボコに殺し続けろといった役に立たない話であったことに再度呆れるのであった。


 Guooooo


 ボッ、ボッ、ボッ――黒焔飛竜ダーク・ドラゴニックが大量の火の球を吐き出す。

 デタラメに吐かれる黒色の火球は外野のレンナに向けても飛んでくるが、バスターソードに当たると消えていく。


「なんつーか、やばい人間の持ち物は勝手にやばくなるの?」


 とても信じられない力を持つバスターソードにレンナは驚くが、所詮彼らは外野である。

 飛んでくる黒炎はスターレインには非常に大変であった。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ミレイ!」


 ランドが叫ぶと、一緒にぶつかり、ゴロゴロと転がって黒炎を躱す。

 しかしながら、躱した先にも黒炎が飛んできた。


「はぁああああ」


 飛んでくる黒炎をリリアスがぶったぎって、二人を守る。


「ありがとう――大丈夫か!?」


 リリアスやランドが守ったミレイスターだが、すでに体力の限界を迎えていた。


 黒炎が当たれば大問題であっただろうが、ゴロゴロと衝撃を加えられるだけでも、ゴリゴリと疲労がのしかかってきてしまう。


「だい……じょうぶ……よ」


 淡い息を吐きながらも、ミレイスターは立ち上がろうとする……が、


「無理すんな」


 ランドは一瞬、ガゼットに目を向けるが、距離と人徳――2つの観点から、頭から振り払っていく。


「リリアス……」

「わかった。二人は休んでて!」


 そういうと、剣を胸の前に合わせると、力を込めていき、剣を金色に光らせていく。


「はぁああああ」


 天鱗の聖金衣ブーステッド・スペリオール――金色に輝くリリアス=ハーレイが黒焔飛竜ダーク・ドラゴニックの元へと突っ込む。


 リリアス=ハーレイ――彼はスロースターターである。


 単純に本人の性質とかも大きな要因であるが、他にも彼の持つリソースが他のところに割り振られているのも原因であった。


 良き人格者であり、リーダーに向いている人間だが、本人的にリーダーが得意なわけではなかったりする。

 他人を惹きつける才能はあるのだが、他人を引っ張る才能は――器用かつ努力家であり、良き仲間と巡り会えるため、ないと言えば嘘になるがしょうにはあっていない。

 そんな彼が一番強いのは仲間が倒れた時。


「守る!」


 引っ張っていく人間が多ければ多いほど弱くなるリーダーだが、守るべき人が多ければ多いほど強くなる。

 それこそがリリアス=ハーレイであった。

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