第51話 チーム・スターレインVS巨大ワイバーン

 大きく開いた口に魔法陣が展開され始める。


「へぇ、魔法勝負ってなら受けて立つわよ!」


 魔法陣の展開が完成し、赤く光ると、ミレイスターの魔法も完成した。


「レイズブラスト!」


 魔法陣から飛び出る攻撃魔法にワイバーンが炎を吐いて抵抗する。

 真っ赤な炎を吐き続け、あわやミレイスターの魔法が押し返されるかと思うと、爆発が起きた。


「んぎゃっ!?」


 爆発によって吹き荒れる風はレンナの顔に当たり、巣の天井を一部吹き飛ばす。

 さらには吹き荒れたゴミが飛んでくるが、一定以上大きいとガゼットが払ってくれる。


 ――つえええ

 ――さすがミレイスター派手だぜ

 ――痺れるううう


 いまだに役立たずのガゼットを中傷するコメントもあるのはあるが、本気のスターレインの戦いが見られる興奮。

 そして、何よりそんなところにガゼットとかいう未熟な雑魚が紛れ込む方が問題なため、コメントは段々とスターレインの動向に興味が移っていた。


 Guaaaaa


 吠えるワイバーンがスターレインの元に突撃する。


「いくぞ!」

「おぉ!」


 ランドとリリアスが突っ込み、ワイバーンの突撃をランドは斧で受けると、スピードを殺す。

 そして、リリアスが剣を振るが、ワイバーンの鱗に弾かれてしまう。


「くっ……」

「ふんっ、だったら!」


 リリアスの攻撃が弾かれたのを見て、ランドが斧を振りかぶる。


「うおおおおおお」


 剣を通さない硬い鱗も、ランドの振る斧の前では壊れて剥がれ落ちてしまう。


 Guaaaaa


 痛みに吠えるワイバーンだが、素早く空を飛んで逃げつつ反撃を狙う。


「させない――はぁ!」


 リリアスが追っかけながら剣に力を込めると、金色に光り出す。

 そして、振った剣の軌跡は実体化してワイバーンの元に飛んでいく。


 Gyaaaa


 立て直している最中の追撃に苦しそうにうめくワイバーンだが、それでもなんとか立て直すと、魔法の準備をしているミレイスターに向けて、突っ込み始めた。


「させるか!」


 ミレイスターの前に立つランドが突撃してきたワイバーンの顔面を斧で守る。


 ギギギギギ


 地面を引っ掻く音と共に巨大ワイバーンは岩を掴むと、投げようとするが、それはリリアスが許さない。


「はぁぁあ!」


 斧によって剥がされた無防備な腕に斬りかかり、岩を掴む腕を切り飛ばす。


 Guaaaaa


 痛みに苦しむ隙にリリアスとランドが並び、一緒に顔面を蹴り飛ばして、巨大ワイバーンに攻撃を加える。

 耐える余裕のない巨大ワイバーンはそのままごろごろと転がって距離が開く。


「ありがとう。お二人さん――もう一度、レイズブラストぉ!」


 ミレイスターは大きな魔法陣を展開すると、濃密に練り込まれた魔力の塊を飛ばして、巨大ワイバーンの無防備な体にぶち当てる。


 Guo……Guo……Guo


「終わっ……た?」


 結構あっけなく――ガゼットの出番もなく、息も絶え絶えで瀕死ひんし寸前に見える巨大ワイバーンにレンナがポツリと漏らす。

 しかしながら、周りを見渡すと誰も油断をしていない。

 いや、ガゼットを見たところで表情が変わっていないのでよくわからないのだが、スターレインのメンバーは全員、警戒したままであった。


 巨大ワイバーン――巣が壊れて月明かりにより、浮かび上がる体表は他のワイバーンと同じ緑色。


 だが――


 Guo……Guo……Guooooooooooo


 叫び始めると同時に色が変わっていく。

 じわじわ、黒い炎のような紋様もんようが体を包み、黒い色へと変化していった。


 ――これが黒焔飛竜ダーク・ドラゴニック

 ――スターレインたち大丈夫かな?

 ――大丈夫だろ。ゴールドランクだぜ?


「ガゼットはどっちが勝つと思う」


 これから始まるであろう次の戦いにレンナがガゼットに聞く。


「知らん。俺なら両方に勝てる」

「両方に勝ってどうすんのよ……でも、スターレインって想像以上に強かったね」

「強かったか? 弱そうだろ」

「弱そう?」


 ランド=ビリジアン――本来は盾を持つべき守護の役割を持つ男。

 盾の代わりに斧で攻撃を防ぎながら、攻撃に転ずることができ、硬い鱗も砕き割る力を持っている。

 ミレイスター=ハーウェイ――大胆な破壊力で押し通す魔道士の女。

 戦闘中に魔法を使用する際には時間がかかるが、そこは仲間に守ってもらうことで、全力を発揮することができる。

 リリアス=ハーレイ――チーム・スターレインのリーダであり、剣技による近距離と中距離を兼ね備えた遊撃性を持つ男。

 硬い鱗は苦手とするが、破壊ではなく切り裂くことで敵に致命傷を与えることができる。

 そんな個々の役割を生かした協力的なチームが弱そうに見える理由がわからない。


「ガゼットと比べれば弱いかもしれないけど、普通よりは強くない?」


 正当なはずの疑問だが、そんなレンナにガゼットは首を振って答える。


「本当に強ければ、ワラワラと群れたりしないだろ。その時点で弱い」

「えっ? ……えっ!?」


 ガゼットの強い弱いの基準は力量ではない。

 どれだけ群れているか――正確には、一緒にいる人間が戦いに参加する人数に比例して弱いと判定する。

 いかんせん、戦って負けた経験がないため、雑魚かどうかが、自分と戦った場合に勝てるかどうかでは判断ができないのだ。


「そもそも強そうに見えるか?」


 今の状況を見ながら、ガゼットが聞く。

 リリアスが光る剣を振り回して斬撃を飛ばしているが、黒い鱗に阻まれて、攻撃が通らない。

 また、黒焔飛竜ダーク・ドラゴニックは遠くにいるため、ランドの自慢の力は無力であった。


 そして、度重なる魔法によりミレイスターも疲労がのしかかっているように見える。


 ――うるせー口だけだったらなんだっているんだよ!

 ――偉そうなだけの雑魚が調子に乗るな!

 ――スターレインに謝れ!


 ガゼットの居丈高いたけだかな態度に批判は殺到するも、レンナにも庇えない。

 そもそも、庇うつもりも必要もとくにないが、それにしても、どんな人生を送ればこんな人間に育つのか非常に気になってしまう。


「まぁでも、案外出番はないかもしれないわね~」


 ガゼットの口が悪すぎてあまり目立たないが、同じ現場にいながら完全に他人事でいる配信者のメンタリティ――ミレイスターが最も嫌う精神を発揮しながらレンナがつぶやく。


 そして――第二ラウンドが始まった。

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