第50話 合流スターレイン

 真の足手纏いは誰か?


 ――配信しかしないレンナ

 ――邪魔をしたミレイスター

 ――秩序を乱すガゼット


 コメント欄では犯人探しに躍起になっていた。


 一番の主流はガゼット派。

 しかしながら、ガゼットの強さを知る一部の視聴者はガゼットの邪魔をしたミレイスターこそ悪いと主張し、それに対して事前のコミュニケーション不足こそが悪いと返される。

 ちなみに、レンナは先ほどの流れと似ていて、モノのついでに下げられてしまう。


「楽しそうねぇ」


 冒険者の戦犯探しなんぞ鉄板ネタ。

 ガゼットは人気があるらしく、主張を押し通したい層がゴリゴリ金を突っ込んでいたのだが、スターレインの人気も凄まじい。

 もはや、金銭での殴り合いを呈しており、思い出されたように推されるレンナへの罵倒コメントにはもはや感謝するレベルであった。


「しかし暗いわねぇ」


 それだけコメント欄が大炎上の様相ようそうを呈していても暗い環境が明るくはならない。


「ちゃんと見える?」


 振り向いて聞くレンナにガゼットは不思議そうに首を傾げる。


「見えないのか?」

「……どう思う?」


 疑問で返された疑問に疑問を返すとレンナは前を向く。

 ダンジョンを構成する魔力を含んだ物質は圧力がかかることによって光る。

 レンナは細かい仕組みまでは知らないが、ダンジョンの中はそれなりに明るいことが多い。

 今回は巣であるため、月明かりなどが薄く透けて差し込んではいるが、かなり暗かった――あくまでレンナ基準だが。

 ちなみに視聴者は問題なく見えている。

 あくまでホルダーとは周りの空間を取得する神具であり、それらの情報が神のもとに送られて、神官によって映像に起こして配信される都合上、暗いかどうかはあまり関係ない。

 そのため、暗闇を見る際には配信越しに見るといった手法があったりするが、今回はそのような想定をしていないため、暗い場所を進むしかなかった。


「ひゃぁあ!」


 いきなりガゼットに抱きしめられたレンナは驚きの声をあげる。


「何をするのよ!」

「下」


 端的に返されるセリフに従って下を見ると、地面が斜めになっていた。


 ここまで一本道であったが、これより中は巣らしく円形状になっており、真ん中に向かって坂になっており、奥先では大きなワイバーンが眠っている。


「寝てるね」

「起きてるよ」

「ワイバーンの話よ」

「ワイバーンの話だが?」

「「えっ?」」


 2人の驚く声が重なり、レンナはガゼットの後ろを覗くとそこには別れたはずのスターレインのメンバーが……


「どうしたの?」

「どうしたのって、まぁ……色々よ!」


 ぷんっとそっぽを向くミレイスターにガゼットが振り向いて口を開く。


「来たってことはお前らが先に戦うってことでいいんだよな?」

「別に、お前さんが先でもいいぞ?」

「そうなのか? その場合は――もうちょっと距離を取るべきだったんじゃないか?」

「おいおい」

「ちょっと、待ちなさいよ」


 即座にバスターソードを構え始めたガゼットに、軽口を叩いたランドが顔を顰めて、レンナも慌てて止めに入る。


「相変わらず無茶苦茶ね」


 ミレイスターとしても、別に感動的な出会いを期待していたわけではなく、だからこそピンチに陥るまで待機などもしていない。

 正確には、リリアスがガゼットに気づかれていることに気づいたため、その案が却下されたのだが、それはまぁ置いといて。


「君は黒焔飛竜ダーク・ドラゴニックについてなにか知っているのか?」

「知らんよ」

「そうか……」


 ガゼットは本当に何も知らないのだが、リリアスは少しばかり悩む。

 同業他者に秘密を知られたくないからと、知らない振りをするケースは往々にしてある。

 そのため、ガゼットが嘘をついているのか、本当に知らないのかよくわからない――本当に知らないが。


「あれはただのワイバーンではないみたいだよ。噂だけど、黒炎を吐くとは言われているね。本当に、本当に決して舐めない方がいい。実際、すでに死者が出ている依頼なんだ」

「はぁ……」


 リリアスの真摯なアドバイスに、ガゼットはつまらなそうな返答を返す。

 これ以上、会話させても余計な喧嘩しか増えないと思ったレンナは無理やりにでも割って入った。


「なんで、そんなことを教えてくれるんですか?」

「僕たちにだって、何があるかわからないからさ」


 チーム・スターレインは今回の依頼を舐めてはいない。

 心配の割合も大きいが、単純に危険な人物が目の届かない位置にいるのも、不安要素であるためガゼットたちを誘ったのであった。


 そして、自分たちが万が一の時は死んだ場合は、ガゼットがその意思を継ぐことになる。

 情報というバトンを託しているわけだが、悲しいかなそれらの経験を活かしたことも必要としたこともないせいで、その思いは何も伝わらない。


「とりあえず、ゴールドランクの戦いってものを見て学びなさい!」

「学ぶ?」


 こいつら程度から学べるものがあるのか? と真剣に不思議そうな顔をするガゼットだが、幸か不幸か暗いこの場所では誰にも表情が伝わるほどには見えなかった。


「とりあえず、いこっか」


 レンナが坂に足を踏み出し、近づこうとした瞬間、巨大ワイバーンが目を開く。

 そして、手の中に持っていた岩をレンナめがけて投げつけた。


 いきなり飛んできた巨大な岩――レンナの身長より少しばかり小さいとはいえ、当たれば体が砕けるには十分な質量と速度を持った岩の間にガゼットが入る。

 そして、片手で受け止めると、そのまま相手へと跳ね返した。


 Guoooooo


 咆哮と共に空を飛び、返された岩を躱していくと、巨大ワイバーンがやってきた侵入者と向き合う。


「ほ、本当に起きてた」

「そりゃそうだろ」


 レンナの驚きに、ランドがつっこむ。

 寝てるはずがないのだ――自分の巣の前で、あれほどドデカい殺気を撒き散らす馬鹿がいれば、まともな生物はまず起きる。


「じゃ、頑張れ!」


 岩を跳ね返したガゼットだが、あれは攻撃ではなく防衛。

 共闘の意思は欠片としてないので、巨大ワイバーンの相手をスターレインに投げると、そのまま距離を取って観戦を決め込む。


「一周回って、むかつ――くはね」

「半周ぐらいで止めるべきだったな」


 ガゼットの無礼な対応に口を尖らせるミレイスターに、ランドが軽口を叩く。


「さぁ! やるよ!」

「おぉ!」「えぇ!」


 チーム・スターレインVS巨大ワイバーンの戦いが始まった。

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