第49話 リリアスの決断

「もううんざりだ。俺は先に行かせてもらうからな!」


 延々と引き止めるスターレインにしびれを切らし、ガゼットが吐き捨てる。


「どうでもいいんじゃない? そいつを1人で突っ込ませてしまえば!」

「全くもってその通りだ」

「あんたに同意したわけじゃない!」


 ミレイスターの提案にガゼットが同調をするが、さすがにそれには怒鳴り返す。


「まぁまぁ落ち着け。だが、後悔しても知らんぞ?」

「足手纏いに邪魔されるよりマシだ」


 心配の言葉をバッサリと切り捨てるガゼットの救いようのなさにランドは天を仰ぐ。


「じゃあ、行かせてもらう」


 そうして、巣の中に入るガゼットは数歩といかぬうちに振り返る。


「来ないのか?」


 スターレインのメンバーは動かない――そもそも、彼らに対して言ったわけではない。


「ガゼット……」


 自身を貫く金色の眼差しに、レンナはどうすべきか迷う。

 正直な話、野宿に賛成なのはガゼット以外の全員が思っていることであり、レンナとしても同意する。

 だがしかし、彼女が一番優先すべきはガゼットの意思だったりもするのだ。


「命令だ。レンナ、来い」

「――!?」


 ガゼットと交わした契約――守ってもらいたいのなら、絶対服従をちかうこと。

 もちろん『1人で行ってきてください』と言うことはできなくはない。

 だがしかし、それをしたら最後。このままここで休めるのと引き換えに、今後は助けてもらえなくなってしまう。


「わかったわ」

「あんた、正気!? それにあんたもどんな命令してるのよ!」


 正気を疑う馬鹿しかいない状況に怒鳴り散らすミレイスターだが、ガゼットの元に向かい始めるレンナをなんとか引き止めようと手を伸ばす。


「馬鹿なことは――」「流石にそれは――」

「「なに!?」」


 いきなり吹いた一陣の風。

 レンナを引き止めるためにランドとミレイスターが伸ばした手をガゼットが掴む。


「じゃあ行くか」


 自らの意思で踏み出したレンナを止めようとする行為――2人の加害行為からガゼットが守る。


「これまでお世話になりました。ありがとうございました」

「じゃあな、あまり人に迷惑をかけるなよ」


 礼儀の正しいレンナと、お前が言うなと全員が呆れ果てる捨て台詞を吐くガゼットが巣の中へと向かう。


「あんた、ほんとそれでいいの?」


 聞く耳を持たないガゼットではなく、レンナに対してミレイスターが聞く。

 頭のおかしい主張に従えば、悲惨な結果が待ち受けることは誰の目にも明らかだ。

 ただし、どんなにおかしい主張であっても、それを本当にできる実力があると知っていれば話は変わる。


「いざって時は、かかえて貰えばいいみたいですしね」


 イカれたやつと一緒にパーティを組むだけあって、イカれたことをほざくと2人は、そのままワイバーンの巣の中へと消えていった。



「で、どうする?」


 チーム・スターレインのリーダーにランドが聞く。

 ランドもミレイスターも要望は自由に言うが、決定権も責任も全てはリリアス=ハーレイにある。


「そうだな……」


 大きく深呼吸をしてリリアスは息を整えてから考えを張り巡らせていく。

 勇者候補として、少なからず自分がチヤホヤされて生きてきた自覚がある。

 だが、それでも、できる限り慢心はせずに生きてきた。


 その中には敵意や嫌悪感を露わにする者もいたが、それでも、あれほどの殺意をぶつけられたのは初めてのことであった。


(なんで……)


 今なお、悔やまれるのはどうすればガゼットを引き止められたのかわからないこと。

 彼の行動を傲慢にさせるだけの才能はひしひしと感じる。

 それでも、才能だけでやっていけるほど冒険者稼業は甘くない――それどころか、死に急ぐだけであった。


 先輩面せんぱいづらが鬱陶しいというのはわかるが、どうすれば、スタンダードの初心者に伝わるかがわからない。


(もしかしたら、自分も周りから見れば似たようなものだったのかな?)


 もし口に出していたら、あれほど酷い人間がリリアスと同じどころか、人生で会ったことがないレベルだと諭されるだろうが、それでも悔やまずにはいられなかった。


「やはり、放っておくには危険すぎる」


 濃厚な死の匂い――言動の端々から、死にそうな雰囲気が漂う男。

 どんな高い実力もおごってしまえば、それは死と隣り合わせとなってしまう。


「まぁ、そういう気はしたが、お節介もほどほどにしておかないと、いつか後悔するぞ?」

「そうだね。でも、見捨てて後悔するより、手を差し伸べて後悔したい」


 お人好しすぎる綺麗事にランドとミレイスターは顔を見合わせながらもうダメだとばかり首をふる。

 リリアスのお人好しはもう救えない。そんな人間だからこそ2人はついてきているのであった。


「それに、今から寝床を探すのはちょっと大変かなぁ~なんて」

「どういうこと?」


 不思議そうな顔をするミレイスターにリリアスが苦笑いを浮かべる。


「いや、ぶっちゃけ、みんなに狙われてる? みたいな」

「どういう意味d……そういうことか」


 ランドが質問の途中で答えに気づく。

 ダンジョンにしろ森にしろ、依頼中の喧嘩は許されない。

 その理由の一つに目立つので敵に狙われてしまうという問題が挙げられる。

 当たり前だが、喧嘩によって声を響かせれば、獲物として狙われるリスクが跳ね上がってしまうのだ。

 これまではガゼットがいたため、自ら殺されに来る馬鹿がいなかったわけだが、巣の中に入った以上、多くの敵がスターレインを狙っていた。


「まぁ、じゃあ仕方ないわね!」


 リリアスの決断に対する行動は一つ。ただ、そのための言い訳に2人がうなずく。


「じゃあ、いくよ!」

「あぁ!」「おぅ!」


 スターレインのメンバーもアサルトに続いて、中へと入るのであった。

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