第47話 私は悪くない

「なによ、なによ! 意味わかんない! 私はただ助けてあげようとしただけじゃん!」


 不意打ちの攻撃ながらも、事前に魔法を備えておき、やるべき対処をしただけ――文句を言われる筋合いがない。


「助ける? 俺は何があっても余計な手出しはするなとちゃんといったよな? 最初に会ったときから、足手纏いはいらないとも言ったはずだ!」

「誰が足手纏いよ!」


 リリアス、ランド、そしてミレイスター。

 チーム・スターレインのメンバーは全員がゴールドランクになるほどの実力者であり、足手纏いになったりはしない。

 それこそ――それこそ……だ。


「じゃあその子はいいの? なんの役にも立たないじゃん!」


 配信嫌いでもあるミレイスターとして、ただひたすらに罵倒されている状況に我慢の限界が来て叫ぶ。

 彼女とて、レンナのことは嫌いなわけではないのだが、それでも頑張ったはずの自分が文句を言われ、配信者がのうのうと配信を続けている現状に納得はいかなかった。


「役に立たない? 足手纏いになるお前よりマシだろ!」

「あいつのほうが足手纏いじゃん!」


 もはや、若干言い過ぎの側面はあるが、誰もこの言い争いに介入ができない。

 どちらに何を言えばいいのかもわからず、本来なら介入理由と機能するモンスターに襲われるリスクも、ガゼットの殺気が凄まじすぎて、この隙だらけの中に入ってくるモンスターがいない状態――一種の聖域が形成されてしまっていた。


「馬鹿かお前、どうやって足手纏いになれるんだ?」


 呆れとともに腕の位置が下がり、再度ミレイスターの足は大地の上に立つ。

 ただし、解答を内容を間違ってしまうと、ただですまないことはガゼットの眼光からわかってしまった。


 それ以上に――ガゼットの主張は意味がわからなかったが。


「何を言ってるの? 足手纏いになる以前に役に立たないじゃない!」

「お前はなんかの役に立つのか?」

「魔法が使えるわ!」

「それで出来るのは俺の邪魔だろ? 足手纏い以外になってないじゃねーか!」

「なんですって! そんな事言うなら、レンナは何ができるのよ。なんにもできないじゃない!」


 すぐ隣にはレンナがいるのだが、そんなことを気にする余裕のないミレイスターが怒鳴り散らす。


「あぁ、そうさ。レンナはお前と違って、足手纏いになることすらできない――言ったよな? 最初に足手纏いにはなるなよ! 手出しはするなよって、邪魔者はどちらだ!」

(あれ? これもしかして両者から真剣に馬鹿にされてる?)


 喧嘩したふりして、自分のことを誹謗中傷したいだけではないのかと疑うレンナだが、ガゼットにそんな意図はない。

 隣で少女が傷ついているわけだが、ちゃんと気遣える人間であったなら、そもそも揉め事自体起こしていないだろう。


「こんな場所で遊んでる人のほうが問題でしょ! あなただって賭け事に怒ってたじゃない!」

「賭け事に……怒る?」


 ワイバーンを倒しに行く過程で全てが頭から抜け落ちでもしたのか、ガゼットはポカーンとした様子で首を傾げる。


「俺が?」


 ガゼットはこれまでの記憶の中を振り返る――だが、全く思い出せない。


「都合のいい脳みそしちゃって!」


 唐突にボケるガゼットに不満を吐き捨てるミレイスターだが、レンナにはわかってしまう。


(何か食い違いを起こしてる?)


 あり得そうなところで言えば『俺が勝つ方に1万5千イェンしか賭けられないとは何事か!』とか?

 なかなか意味不明な理由だが、そもそもガゼットが道中の賭け事を嫌う方に違和感を覚える。


「ごめんなさい。私が一人で倒せる方に1万5千イェン"しか"賭けなかった話よ」


 謝罪をしながら補足を付け足すと、ガゼットはようやく気づいたのか、小さく「あぁ」と呟く。


「ほらぁ!」


 一応これでも胸ぐらを掴まれた状態のままなのだが、我が意を得たとばかりにミレイスターが調子に乗る。


「今回はうまくいかなかったみたいだから、謝れと言うなら謝るわ。でも賭け事をしている人より怒鳴られるのはおかしいでしょ!」


 国にもよるが基本的に賭け事は違法などではない。

 もちろん違法な賭け事自体は存在するが、レンナのやったお遊び程度の賭けで問題になることはない。

 それでも、仲間が頑張っている最中に賭け事に興じる神経――常識といった側面に問題があり、潔癖寄りのミレイスターには受け入れがたいものがあった。


「賭けの何が悪いんだ?」


 賭けの内容に対しては冷たい視線を向けていたガゼットが聞く。

 そもそも、問題の争点はタイミングの話――いわば常識ついてであり、最初から話が噛み合っているはずがなかった。


「だったら、逆に何が不満だったのよ! どう考えてもおかしいでしょ!」


 人のために頑張った自分が怒られて、賭け事をしていたレンナが許される。

 その理不尽に声を上げるが、ガゼットは困惑した表情を浮かべた。


「そりゃ、どう考えても全財産が1万5千イェンなのはおかしいと思うぞ?」

「うん、待って、なんの話? 違うけど?」


 いきなり謎の飛躍をかましたガゼットにレンナが思わずつっこむ。


「えっ? だって、絶対に勝てる賭けは全財産賭けフルベットが基本だろ?」

「いや……まぁ」


 まるで常識だよね? みたいな顔で語られる内容――ツッコミどころだらけではあるが、まぁその通りかと聞かれればその通り。


(もしかして不満の理由って、1万5千イェンしか賭けなかったことじゃなくて、1万5千イェンしか賭けられなかったふところ事情に呆れたってこと?)


 そんな馬鹿な!? と思う反面、ガゼットはそんな馬鹿ではある。

 なんせ配信のお金をレンナ経由でもらっているため、すでに彼女の全財産が1万5千イェンになっているという事実に、思わず呆れてしまったのであった。


 いや、そんな事実はないのだが。


「意味わかんない!」


 当然にして本気の叫びが響き――精神が限界に達したのかミレイスターがグズグズと泣き始め、そんな様子に、慌ててランド達が介入するとあやし始めたのであった。

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