第46話 ワイバーン討伐

 空を飛ぶ3体のワイバーンにガゼットが目を向ける。


 彼の持つ武器はクソデカ剣ことバスターソード


 他の方法としては投擲とうてき鞭撻べんたつなどがあるが、流石に手綱たづなは持っておらず、石を投げるにしても、落とすのと打ち上げるのではわけが違う。

 本気で投擲したところで、ワイバーンを倒すほどの威力を石で出すには、まず投げる段階で石が潰れる。

 ガゼットの全力を受け止められる石が都合よくは存在したりはしないのだ。

 そんな石は……


 ぶうぅぅぅん


 風を切り裂きながら、バスターソードが一直線に空を飛び、そのまま1体のワイバーンを串刺しにする。

 反撃に気づいたワイバーンは急降下しながら、今回の敵――剣を投げ飛ばし、無防備になったガゼットに狙いをつけて吠え叫ぶ。


 Gyaaaaaooon


 やってくる2体のワイバーンと向き合いながらも、手持ち無沙汰なガゼットは静かに待ち続ける。

 そんな無防備なガゼットを狙う影は、実はもう一つあった。


 ガサッ


 草木を揺らし、飛び出てくる影――石を取りに降りていたワイバーンが横からガゼットに襲いかかる。


「なっ!?」「ミレイ!」

「了解! フェルト・ブレード」


 全く気配を感じなかったワイバーンの登場に驚くレンナをよそに、ランドは素早く指示を出し、ミレイスターが魔法を使う。

 鋭く凝縮した風がワイバーンに放たれ、ガゼットに辿り着くより早く切り裂き、遠くに吹っ飛ばす。


「……はっ?」


 襲いかかるワイバーンに向けて、右手を伸ばしたガゼットの手は宙を切った。


 Gyaaaaasass


 先ほどのワイバーンに気を取られているガゼットに2体のワイバーンが突撃し、そのうちの1体が4人に向けて飛んでくる。


「あいつ大丈夫か?」「心配はあとだ」


 斧を構えるランドに対し、剣を構えたリリアスが指示を下す。

 重力を味方につけて高速で突撃するワイバーンは一瞬で距離を詰めると2人に襲いかかる。だが、彼らが武器を振る直前に、空から怪物が降ってきた。


「「えっ?」」


 Guueeeee


 顔面を掴まれ、地面に叩きつけられたワイバーンが間抜けな声を出すと、怪物はそのまま振りかぶって、リリアスの元に叩きつけてくる。


「んっ!? はぁあああああ!」


 瞬時に意図を理解し、襲いくるワイバーンをリリアスが切り飛ばすことで、ワイバーンの討伐は完了し、空から岩が降る煩わしさからは解放された。


「無事だったか?」


 ワイバーンを掴んだ怪物――ガゼット=アルマークにリリアスが声をかける。


「お前。なんのつもりだ?」


 殺気を解き放つ怪物――ガゼットの怒りによって周りの小動物はこの地から一気にけていく。


「いったよな? 手を出すなと!」


 ギラギラと怒りに満ちた金色の双眸がミレイスター=ハーウェイを睨みつけていた。


「お前……大丈夫か?」


『頭が』とつけないのは優しさであろう。

 ワイバーンに吹き飛ばされたことで、土をつけた体のガゼットをランドが心配そうに聞く。


「大丈夫じゃねーよ――大丈夫に見えるか?」


 ギロリと睨みつける殺気に、思わずランドは怯まされ、落ち着くよりも早く胸ぐらを締め上げられてしまう。


「なん、の……つもりだ」


 今回においてランドに非は何もない。

 そう、一番の戦犯は……


「待って、待って! 落ち着いて」

「ちょっと! あんたいきなり何してんのよ」


 いきなりの暴挙にリリアスとミレイスターが慌てて近づくと、ガゼットはリリアスに向けてランドを投げ飛ばし、次はミレイスターの胸ぐらを掴み上げた。


「最初にいったよなぁ? 『足手纏いになるなよ』って!」


 憎しみが滾る怒りの瞳。

 ここにいる全員、ガゼットの怒りを感じ取っているが、ここにいる誰にもガゼットの怒る理由がわからない。


「いった、い! 私が何をしたっていうのよ!」

「邪魔をしただろ!」


 どれだけガゼットが吠え叫ぼうとも、言いたいことが伝わらず、ランドは斧を掲げて、攻撃の準備を始める。


「ちょっと待って!」


 ランドが襲うよりも早く、レンナは体を割り込ませると、ガゼットの腕を優しく触り、空中に浮いたミレイスターの体をおろさせていく。


「ねぇ、先ほど何があったのか、教えてくれない? 見てても全然わからなくて」


 怒り任せて掴んだ手こそ離さないが、なんとか彼女自身が自分の足で立てる位置までは下げられた。


「最初、ワイバーンを1匹倒したよな?」

「それはわかるわ」

「そのあと、2体が降りてきたわけだ」

「うんうん」

「そして横から、ワイバーンがやってきた」

「そうね」


 ここまでは全員がわかること。問題はこの後。


「だから、横からきたワイバーンで2体を叩いて、一気に3体倒して終わるはずだったのに――テメェが邪魔した」


 感覚の鋭いレンナでも、近くに隠れていたワイバーンには気づかなかった。


 それは他の3人も同様で、唯一ガゼットだけが気がついていたのである。

 だが、ワイバーンの存在はもちろんのこと、ガゼットが気づいていることにも気がつかなかった3人は不意に現れたワイバーンに手を出してしまった。


「なによ!? 一気に3体もどうやって倒すつもり? あの時は剣を投げて無防備だったの覚えてないの!」


 くだらん妄想に反論するミレイスターだが、ガゼットはおろした体を再度、持ち上げると、ワイバーンが突き刺さったバスターソードを指さす。


「無防備? 物は投げたら落ちてくる――そんな常識も知らんのか!」


 当然の常識のように非常識な人間が常識的見解に基づく非常識な現状について語る。


「意味わかんない! ふざけてるの?」

「剣を投げて1体倒した。降ってきた剣で3体倒す予定だったんだよ!」


 なかなかに意味の分からない不思議な主張。

 だが、レンナはずっとガゼットを見ていたのでわかってしまう。

 横から来るワイバーンをミレイスターが吹き飛ばし、新たな武器の調達に失敗したガゼットはそのまま強襲を受けていた。


 そのうちの1体はすぐにこちらに飛んできたわけだが、もう1体の方はガゼットに蹴られて、ちょうど落ちてきたバスターソードに貫かれたのである。

 その反動で空を飛んだガゼットが4人を襲うワイバーンの元に落ちてきて――ワイバーンを武器にしてリリアスへ八つ当たりをしていたのであった。


 本当にできるかは不明だが、一つ言えることは、本来の予定では3体同時に串刺しにするつもりだったようだ。

 当たり前だが、そんな状況を誰一人として想像できやしないのだが……

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