第42話 森番パンサー

「だっる」


 不機嫌そうな表情でガゼットが吐き捨てる。

 レンナに任せた合同チームを今更ひっくり返したりこそしないが、それはそれとして問題があった。


 ガゼットは基本的に待たない。

『あとで集合! 準備を終えてから、討伐に行こうね』と言った約束でなかなか来ないことに苛々いらいらとしていた。


「別れてから40分――そもそも、私達がここに来てから10分も立ってないでしょ」


 一応1時間以内に集合であるため、なんの問題もないのだが……


「1時間以上経った場合は先に出発って約束すべきだったな」

「さすがにそれまでに来るんじゃない?」

「そうすれば、2時間後に出発する方法もあったのに……」

「おいおい」


 無茶苦茶なことは言っているが、今はまだ素直に待っている時点でマシかもしれない。


「待たせたね」

「お、おぉ……?」


 やってきたチーム・スターレインの服装に、レンナは驚きの声を出す。

 ひらひらとしたマントをつけたリリアスに、長いローブを羽織り自身の半分ほどの長さをした杖を持つミレイスター。

 そして、ごつい兜を被ったランドの構成。


「なんか昔ので絵本見たパーティみたいね」

「わかる!?」


 食い気味で、嬉しそうにするリリアスだが、似ている自覚はあるのか他2人も別々の反応をする。

 ミレイスターはどこか恥ずかしそうだが、ランドは割と嫌そうであった。


「えっと、じゃあ行きましょうか」

「というか、あんたはなんで勝手に行ってるのよ!」


 すでに歩き始めていたガゼットに、ミレイスターが怒る。

 もっとも、ガゼットはチラリと振り返るだけで、気にせずに歩き始めた。



「ねぇ――」

「はい?」

「やめてよね」

「……はい」


 配信を始めようとしたレンナに対して、ミレイスターが嫌そうにする。

 そうして、渋々とホルダーや棍支自撮り棒を片付けようとするレンナだが、


「配信しないのか?」


 ガゼットが余計なことを聞いて、空気が凍ってしまう。


「私、配信嫌なんだけど」


 人によっては印象が悪く、その中でもミレイスターはかなりの配信嫌いであった。


「それがどうした?」


 もっとも、そんなことにガゼットが気を使うはずもなく、レンナに圧をかけていく。


「ごめんなさい。配信する約束でチーム組んでるから……」


 チーム・スターレインに気を使うのも大事だが、これからのことを考えれば、レンナが優先すべきはガゼットであった。


「なにそれ? あんたってそんなに見栄っ張りなの?」


 配信する原因――ガゼットを問い詰めるミレイスターだが、同じ合同チームだろうと、ガゼットは容赦なく知らないふり決め込む。


「ねぇ! 無視すんな!」


 一回の無視で諦めることなく、ガゼットの前に回って抗議をすると、うざそうに目を向けながらも、無視せずに口を開く。


「見栄っ張りじゃねーよ」

「じゃあナルシスト」

「なんだそれ?」

「どうして配信なんかするのよ!」


 なぜそこまで嫌うのか? といった話でもあるが、ガゼットは彼女の身の上に興味はない。


「配信すると金になるからだ」

「あんた――もしかして金に困ってるの?」

「金はいくらあっても困らない」

「そうだけどさ。それをどうにかしたいなら、配信じゃなくて、真面目に鍛えなさいよ!」

「鍛えるって?」

「無謀な依頼をこなすんじゃなくて、コツコツと簡単な依頼からこなしていくのよ?」

「……無謀?」

「お金がなくて一発で稼げる依頼をこなしたい気持ちもわかるけどね。でもね、まずはコツコツとランクを上げて、それから難しい依頼をこなすのがお金持ちになるコツよ!」

「……?」


 欠片もピンとこない様子を見せるガゼットに、ミレイスターは逆に驚かされてしまうと、距離をとってピシッと指をつきつける。


「見てなさい。これがゴールドランクの力量って奴よ!」


 そういって、ミレイスターはリリアスらの元に向かった。


「なんだ雑談はもう終わりか?」


 揶揄う様子で聞くランドにミレイスターが笑う。


「2人だけじゃ心配だからね!」


 西の森に入るちょうど手前、冒険者を狙った4つ足の獣――パンサーの群れが立ち塞がる。


「戦うつもりか?」


 戦闘準備に入るチーム・スターレインに対して、ガゼットは不安気にボソッとつぶやく。


「なにそれ――私はお飾りの女の子ってつもりはないわよ」


 どことなくレンナを煽るような言い方ではあったが、言われた側のレンナは気にせずに配信の準備を始める。

 そして、パンサーたちが襲ってくるのであった。


「はぁあああ!」


 襲い掛かる大量のパンサーをランドは斧を盾にしながら牙を防ぎ、そのまま奥へとはじき返す。

 そして、その一歩後ろで勇者候補のリリアスが着実に一体ずつ、剣でパンサーを切り裂いていく。


「ファナ・レイン!」


 杖から魔法陣を生み出し、大量の火の球を放つミレイスターによって、ランドには処理しきれないパンサーの行動を制御する。

 3人ともが自身の役割を理解した連携によって、襲い来るパンサーの群れは徐々に減っていく。

 もはや、襲う群れの制御が要らなくなったところで、ランドは斧でパンサーを叩きつけ、ミレイスターは火球で直接燃やす。


「ふっふーん。どうよ!」


 華麗に撃退したミレイスターがガゼットに対してどや顔を浮かべる。


 ――これが、勇者候補!

 ――スターレイン独占配信ってマジ?

 ――王道にして最強!


 何の興味もなさそうによそ見をしているガゼットとは違い、レンナによる配信は大いに注目を集めていた。


 勇者候補のリリアスが率いるチーム・スターレインは人気が高い。

 これまではせいぜい盗撮か偶然による配信が限界であったが、直接配信による今、コメントはガゼットとは比にならないほど盛り上がる。


「じゃあ、行こうか!」

「ちょっ、なにかないの?」


 パンサーの群れを倒してくれた3人に対して、ガゼットがなにかあるはずもなく、スタスタと西の森に入っていく。


「えっと、ありがとうございます」


 まともなレンナはさすがに礼儀を果たすと、先行きが合同チーム・スターアサルトは西の森へと入っていくのであった。

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