第41話 ゴールドランク
「いくらなんでも危険すぎる!」
真剣な表情でリリアス=ハーレイが訴えかける。
たが、振り向いたガゼットの視線はレンナに向けられており――その目はひどく冷たかった。
「邪魔するつもりか?」
「そうじゃない。僕たちと組もう!」
「俺に足手纏いはいらん」
「はぁ! なんですって!」
言い返すガゼットに対して、ミレイスターが叫ぶが、それはそれとしてレンナ自身も自分に言われているようで、非常に居心地が悪い。
(リリアスと会話しているように見せかけて、すべて私に言ってる?)
聞こえないふりと、知らないふりが器用すぎて、それらに費やした努力を真人間になるために、注げば一体どうなったのかと、現実逃避が襲いかかる。
「えっと、話を聞くだけでもしてみていい?」
「……好きにすれば?」
めちゃくちゃ嫌そうな表情を浮かべるガゼットだが、レンナの提案にすべて投げると、出口の方を向いて無視を決め込む。
「それで、どういう意味ですか?」
「僕たちはゴールドランクだ。だからこそ、君たちがどうしても行きたいというのであれば、一緒にパーティを組まないか?」
「……なんで?」
訳の分からない提案に、レンナが素で疑問を返すと、ランドがやれやれと肩をすくめ、隣のミレイスターも呆れ顔を浮かべていた。
唯一真剣な表情で誘うのは、リリアスのみ。
これは――
(生まれながらのお節介かな?)
優しさというのか、強き者の責務とでもいうのか。
周りも呆れながらも、その行動を止めようとしないあたり、よくあることなのだろう。
「いくらなんでも、無茶すぎる。なんと言うか、君は――とても危うい」
「危う……いかぁ……」
まるでがガゼットへの告白みたいだとレンナは思いながら、一応、言われた本人に聞いてみる。
「どうする?」
「足手纏いはいらない」
「ふっ、安心しなさい! 私たちはゴールドランク! あんたの足手纏いにはならない――というか、あんたが足手纏いになるんじゃないの?」
どこか煽るような様子でミレイスターが言うがガゼットはレンナを介してでしか話さないらしく無視を決め込む。
「まぁそうね……足手纏いじゃないみたいよ?」
「全員で配信するってことか?」
「それはどう
もはや配信者>冒険者の図式がガゼットの中で成り立ってるのは一周回って面白い。
常識的な会話をするにあたっては混乱の元だが。
「じゃあ、あいつらは配信で稼ぐのに得か損か、どっち?」
「これは配信者として、真面目にいうけど――得だと思っているわ」
彼らが何者かは知らない。
自称勇者候補にしろ、勇者の末裔にしろ探せば少なからず転がっていたりする。
ただそれでも、配信での映えとして、彼らからは人を惹きつけるカリスマといった雰囲気は漂わせていた。
強いかどうかで言えば――多分他の人よりは強そうだろうが、ガゼットの足手纏いにならないほど強いかどうかまでは流石にわからない。
「じゃあ、いいんじゃない? 俺は反対しない」
「わかった」
賛成すると言えないのは素直じゃないから……ではなく、素直に妥協できる限界がここなのだろう。
「では、組ませていただくわ。よろしくね」
「よろしくね、レンナ!」
「よろしく」「よろしくな」
すでに知ってる自己紹介は手軽な挨拶で済ませる。
「それでは両チーム名の名前をここに書いてくださりましたら、依頼を受理します」
当事者でも理解に苦しむ意味不明なやり取りを待ち続けたギルド職員が、新たな書類を出す。
「そういやさ? チーム名って何にする?」
「レンナとかでいいんじゃない?」
「嫌よ」
何が悲しくて、自分の名前をチーム名にするというのやら。
「じゃあ、そうね――」
いっそガゼットから取るか、その象徴的な剣――バスターソードから取るか。
「そういや、どこかの言語でバスターってアサルトっていうみたいよ? チーム・アサルト――どう?」
「いいと思うよ」
特にこだわりのないガゼットはレンナの提案にあっさりと同意する。
「というか、あんたたちのチームって2人だけ?」
「はい!」
「嘘でしょ……」
ミレイスターは非常識なチーム構成に驚く。
危険なダンジョン攻略は1人ではありえない。
2人であったとしても、その片割れが配信者だと、役に立たないとまでは言わずとも、足を引っ張られる方が多いだろう。
「よくこんなのと――いや、だからか」
いく先が不安になり、手を差し伸べたのが間違いと思うミレイスターだが、そんな愚かで危うい相手だからこそ、手を差し伸べたと言える。
「僕たちはチーム・スターレイン。今回の合同チーム名はスターアサルトかな?」
屈託のない表情で楽しそうに提案するリリアスに、レンナはガゼットへと視線を移す。
しれっと相手のチーム名が先になっているが、そんなくだらないことにガゼットは興味がないようだ。
「新しい仲間ってワクワクするね」
本心からの笑顔を浮かべるリリアスに、レンナも社交性抜群の笑顔を浮かべる。
「えぇ、とてもドキドキするわ」
どれほど深刻な問題が起きるか、気が気でなくてだが……
すでに問題が起きることは確定事項であるため、できるだけ穏やかに解決することをレンナは祈りながら、二人は固く握手を結ぶのであった。
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