第30話 VS老紳士
「質問?」
「えぇ、あなたは彼女のなんですか?」
老紳士が馬車の中にいる少女を守ろうとする動機を聞く。
「そうだな……」
ガゼットはつまらなそうに土を蹴ると、手元に石を
「弱者は邪魔だと思ってた」
「ほう?」
「だが、あまりに弱いと邪魔にすらならないんだな」
「はぁ? ……それで?」
想像以上に意味のわからない自語りに老紳士は困惑をするが、とりあえず続きを
「つまるところ、弱すぎるやつとなら一緒に行動しても問題ないし、その上で金になるんだから配信とはおもしれぇ! ってことだ。これほど理想的なことはないだろ!」
「……はいしん? あぁ配信。あれかぁ」
老紳士は空を見上げて目を細める。
上空でペガサスが旋回していることには気づいていたが、二人乗りの可能性までは考慮していなかった。
正確には、上から援助もなにもなかったので、する必要がなかっただけだが……いったい何の話をしているのかが分からない。
「そうじゃなくて、どうして助けにやってきたんです?」
話が食い違っていることに気づいた老紳士が再度聞くと、ガゼットはニヤリと笑う。
「ふっ、知らんのか?」
「くっ、まさか!?」
「そうだ――人助けは金が稼げる、らしい!」
めちゃくちゃドヤ顔でふわっふわとした主張を言い放つガゼットに、老紳士は驚愕し――意味を理解すると、逆の意味で驚愕した。
「お前はアホか?」
「なっ!? そんなわけないだろ! ちゃんと人助けのために、馬車を壊してやったし、人助けのために、テメェらを倒すんじゃないか!」
「はい???」
馬車を壊すことがどうして人助けに繋がるのか理解できない老紳士は首を傾げる。
「一体どういうことです?」
老紳士としてはちょっとした雑談のつもりだっただが、まるで意味がわからない主張が返ってきたせいで、思わず本気で聞き返す。
「どうって、俺は人助けのためにやってきただけさ!」
「はぁ? 人助けですか……」
単純な話、ガゼットの目的は人助けによって、配信で受けて儲けることにある。
そう、人助けが目的であって、誰を助けるかは実は目的ではない。
馬車を壊して盗賊団を助けるし、盗賊団を倒して襲われている人を助ける――そんな、矛盾めいた行動も、人助けを目的としているため、同時に行えてしまうのだ。
「ふむ、しょうもない正義感なら笑って差し上げるところでしたが。いやはや、あなた様は私如きに理解が及ばないようで――これで終わりとさせていただきましょう」
『これで終わり』と、強く声を張り上げる老紳士に、ガゼットは手元の石を放り投げて笑う。
「あぁ、終わるといい!」
「ぎゃぁぁああ!」
「気づいていてましたか……」
ガゼットが石を放り投げる――正確には『放り投げたかのように見えた』わけだが、投げた石は高速で後ろに飛んでいくと、背後から魔法で狙っていた男の鼻っ面に直撃した。
貫通したかと思うほどの激しい痛みが脳天にぶち込まれ、身悶え苦しむ若き魔道士に、老紳士は残念な様子を見せるが、すぐに笑い始める。
「強さだけは本物のパターンか! つまらない時間稼ぎは申し訳なかった。なにぶんおじさんも若者に
「むしろ、渡される側では?」
「ん? もう、十分に評価は
身に隠していた殺気を吐き出し、ガゼットを威圧する。
「いやなに、次は手向けの花を貰う番だろ?」
暗に――いや、直球で死を告げるガゼットに、老紳士は目を見張らせて驚く。
「なっ!? くはは、面白い冗談だ糞
そして、老紳士はガゼットの挑発に乗せられるように突撃した。
「はぁ!」
少女が持っていたナイフよりは長く、ガゼットのよりは小さい――バスターソードより大きい剣もそうそうないが、取り扱いやすいサバイバルナイフを手に老紳士は距離を詰める。
「ふっ!」
ガゼットは迎え撃つようにバスターソードを振り下ろし、そして見事外した。
ガゼット=アルマーク――実は剣を振るうのはあまり上手くない。
ノリと感性で振り回し、自身の巨大な才能。いわば常識はずれの力で剣を振って強さを成立させているにすぎない。
老紳士はいくつかの戦いを観察して、そこを見抜いていた。
「甘い」
卓越した足
真正面にぶつかれば、絶対に負ける老紳士は距離を詰めるように魅せながら、実際は半歩ずらして、ガゼットに距離の誤認を引き起こさせることに成功していた。
派手に振り下ろされたバスターソードは老紳士の眼前を過ぎ、そのまま地面へと突き刺さる――その隙を狙おうとした老紳士は思わず動揺を漏らす。
「なっ!?」
剣を振り下ろした反動でガゼットの体が浮かび上がっており、隙を狙うつもりの老紳士ではあったが、今見せられているのは、もはや失態の領域。
バスターソードの重さに振り回されて、自身の身体が逆さになってしまっており、弱点を
もっとも、ガゼットは剣士として弱いのであって、無様な隙を晒すことが弱点足り得るかは、また別の問題であるのだが。
あんまりな様子に、中途半端な位置で足を止めてしまった老人の顔に、反動で逆さになったガゼットの足が近づく。
それから、顔と胸元。その二点に両足が貼り付けられると、脚力に身を任せた圧倒的暴力――まるで爆発したような衝撃が老体に襲いかかった。
「ぐわぁぁああ」「ぎゃぁぁぁ」
老紳士の行く末を見守る仲間の元に吹き飛ばされ、そのまま被害が増えていく。
そして、相手を蹴り吹き飛ばしたガゼットは、更にその反動で元の位置に戻ると、バスターソードを握る手に力を込める。
「バスター――」
「そこまでだ!」
「――ロード」
停止の声にガゼットは止まらず、地面に突き刺さったバスターソードが緑色に輝いた。
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