第29話 VS大男
ガゼットが少女を力任せに投擲すると、近づいてくる男女は思わず足を止める。
ブゥゥン
爆風で近づいてきた少女と違い、彼らとの距離はまだまだ――馬で走れば5秒程度だろうが、人間が飛ぶには長すぎる距離を投げ飛ばされた少女を男は受けとめる態勢に入り、もうひとりの女も投げられた少女に視線が奪われてしまう。
「っ、用意!」
視線が外れた隙にガゼットは走り出し、行動に気づいた女は周りに呼びかけると、かけ声を合わせて魔法を放つ。
「「「レヴィラ!」」」
多方向からの攻撃――だが、ガゼットは脚力に任せて高く飛び上がって躱すと、投げた少女に追いつくばかりか……
「ぐえええぇぇぇぇぇ」
少女の腹に両足蹴りを叩き込む。
一点に重ねられた二本の足は少女の体に突き刺さり、肉体は矢のように飛んでいく。
「ぐわあああああ」
飛んできた少女を受け止める準備をしていた男だが、これほどまでの加速は考慮しておらず、直線距離で飛んできた少女と一緒に吹き飛ばされてしまう。
「レイィィ――」
あまりにも予想外の攻撃と事態に驚く女――だが、よそ見をするにはまだ早い。
後ろを向いている間に距離を詰めたガゼットはバスターソードを女の体を叩きつけると、そのまま振り抜いて盗賊団の元にぶっ飛ばす。
「きゃあああああ」
「ん?!? 暴発……か?」
流石のガゼットも突然の爆発には少々驚くも、相手が爆発に関する魔法を使えるのは知っているため、すぐに気を取り戻す。
もっとも、自陣で爆発された盗賊団にとっては完全に想定外であり、思わず
「手を出すな!」
扇状に広がる盗賊団の真ん中へと走ってきた相手に、大男が他の手出しを禁じた。
ガゼットの狙いは敵の頭であり、その意図を
「レヴォルカ」
炎の
「リプリス・ルグラ」
大男は次の魔法を使い、土を盛り上げてガゼットの行く手を
「ぐぅ……」
正面から迎えうった大男は思わずうめき声を漏らす。
防御壁はガゼットが振るうバスターソードによってごっそりと削られ、大男の体には強く疲労がのしかかっていた。
しかしながら、そんな疲労に負けるわけにもいかず、耐えきると反撃に転じる。
「はぁぁあああ!」
この土壁の本質は防御の盾ではなく、相手を捕らえるための
土壁をガゼットの周りに広げると、ガッツリと閉じ込める――それで、閉じ込めれたはずであった。
「なっ!?」
削られた壁を貫いて伸びてきた手が大男の腕を掴む。
一瞬動揺をみせてしまうも、さらなる力を込めてガゼットの身動きを封じていくのだが、腕を掴んだ右手は外れるどころか、さらに力が加わり――
「なっ、まさか!?」
伸ばした片手の握力だけで、大男の腕の強烈な痛みが走る。
「――っ!」
喉奥まで漏れ出る絶叫はメンツにかけて押し殺すが、閉じ込めるだけの力はもはやの残されていない。
――ボロッ、ボロッボロ
ガゼットを閉じ込めたはずの土壁からは砂が崩れ落ち、大男は吸い込まれるように土壁に引き込まれると、ガゼットの手は腕から離れ、代わりに胸ぐらへと移行する。
「なに、が?」
周りからしても驚きの光景。
先ほどの少女とは訳が違う体格をした大男だが、片手で易々と持ち上げられると、土の檻を破壊しながら、またしてもガゼットがぶん投げた。
ぐぎゃあああ
ちょうど近くにいた貧弱な体型をした魔道士の元に大男がぶつかると、受け止められるはずもなく、互いに派手に転がっていく。
「合わせて――」「「「はいっ!」」」
新たな脅威が近づいたことに、気づいた盗賊団は掛け声を合わせて、魔法の準備を始める――だが、もう遅い。
「バスターオン!」
ガゼットがつぶやくとバスターソードが赤く光り、左手で振り上げられた剣は大地を切り裂きながら斬撃を飛ばす。
ドゴゴゴゴゴオオ
剣先から飛んでいく斬撃――ゴブリンキング程度の実力があれば、対処可能な攻撃は、ただの盗賊団というには優秀すぎる彼らにも同じことができる。
ただし、問題は大量に吹き飛ばされた砂利。
きゃあああああああ
なんとか魔法のタイミングを合わせて飛んでくる斬撃は消したのだが、それだけで準備していた魔法が尽きてしまう。
大量の砂に魔法の暴発。
右側――ガゼットから見れば左側に展開した盗賊団はほぼ壊滅状態に
息を潜め高速で――そして殺気にまみれの青年がガゼットを襲う。
「団長の仇!」
無防備な背中を突き刺そうとする相手に、ガゼットは振り向くことなく、ナイフの切っ先をバスターソードの柄で受ける。
「なに!?」
想定外の止められ方に青年は思わずナイフを落とし、武器を失った相手に対して、ガゼットは相変わらず背を向けたまま、次は鳩尾に柄を叩き込んで吹っ飛ばす。
「魔法よりも、魔法ですねぇ。君」
吹っ飛ばされた青年は、周りを巻き込んで被害を与えるはずだったが、新たに現れた男が青年を優しく受け止めた。
「どういう意味だ?」
声をかけられたガゼットが振り返り相手の男に目を見やる。
老人――老紳士と言った方が適切だろうか?
顔に刻まれた
「いえいえ、なかなか強大な力をお持ちのようで。もしよければ、引いてもらえませんか」
「そういうお前らは引く気がないのにか?」
ガゼットは不思議そうに聞き返すと、先程の青年が落としたナイフを拾い上げ、そのまま馬車に向けて投げた。
「ぐわっ」「ぎゃあああ」
投げられた――どちらかと言えば、矢のように放たれたナイフは、馬車に向かって歩く二人組――迷彩を着ていたにもかかわらず1人を切り裂き、もう1人にはそのまま突き刺さる。
「これはこれは……いやぁなかなかのお手前で」
老紳士はうやうやしく頭を下げながらも、警戒を外さない。
「では、一つだけ質問をしてもよろしいでしょうか?」
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