第28話 素手バトル
二人の邪魔をしないように、バスターソードだけに魔法が向けられる中、少女は馬車の残骸の上から、ガゼットに向けて飛ぶ。
「はぁぁあああ!」
攻めてくる少女に対し、ガゼットは右腕を振りかぶって迎え撃つ。
空中で身動きが取れない少女――なんてことはなく、魔法によって自身の体に力をかけると空中で体を捻り、ガゼットの拳を避けた。
そして、今度は隙だらけのガゼットに向けてナイフを振るう。
がしっ
突き刺そうとしたナイフの刀身は左手に素手のまま掴まれてしまい、その状態でガゼットは少女に向けて再度、右手を振りかぶった。
「くっ!?」
襲いくる拳に合わせて、少女はもう一本のナイフを構えて、ガゼット自身の力で腕を切り裂こうと画策する。
殴りかかる右手に対してカウンターを狙う少女だが、ナイフは右手の指の間に挟まれると、そのままナイフごと一緒に殴りつけてくるのであった。
「ひゃぁぁあああ!」
真正面から受ければ大怪我をすると悟った少女は、両手のナイフを手放して、殴られるよりも早く後ろに吹き飛ぶ。
衝撃を殺しきれずにゴロゴロと地面の上を転がりながらも、起きると同時に即座に臨戦態勢を整え、腰に隠し持っていたナイフを引き抜いて――そして、すぐに振るう。
キィーン
少女を殴り飛ばした後、ガゼットは奪ったナイフを投げ放っており、さらにもう一本投擲を行った。
キィッン
二度目のナイフもなんとか弾いた少女だが、その場しのぎで整えた体勢はあっさりと崩されてしまう。
そんな少女に対して、ガゼットはさらなる追撃をかけるのではなく、バスターソードに向けて歩き出すと柄に手を伸ばした。
――ビュゥーん
「させない!」
盾代わりにしていたバスターソードを引き抜いたガゼットに向けて、魔法とナイフの両方が飛んでくると、引き抜いたバスターソードは同時攻撃によって宙を舞う。
「やああああ」
武器を手放したガゼットの隙を狙って少女は全速力で駆け寄ると、次は相手の顔を向けてナイフを突き放つ。
ガゼットはほんの少しばかり上体を逸らしてナイフを躱し――そのナイフから雫が滴っていることに気づくと、更に背中を逸らして躱してのける。
身体能力に任せた躱し方によって、ガゼットは無防備となり、少女はナイフを突き刺すのをやめて、振り下ろすように持ち替えて腹を狙う。
「よっ、と」
少女のナイフが振り下ろされるよりも早く、ガゼットは体を逸らしたまま足をあげて、先ほど飛んでったバスターソードに向けて足を伸ばす。
落ちてきたバスターソードの柄に足首を引っ掛け、そのままくるりと足を軸にバスターソードを一回転させると、少女に向かって飛ばしてのけた。
「えっ?」
驚愕に漏れる少女の声。しかしながら、驚きは一瞬で終わってしまう。
「ぐはっ」
想定外の一撃に逃避が間に合わず、バスターソードの重い一撃は防御もままならない。
少女の小さな体は軽々と吹っ飛ばされてしまうのであった。
「……あいつ今何した?」
――やべー
――すげー
――ものすげー
バスターソードが宙を舞い、落ちてくる剣に向けて足を伸ばす――この時点で馬鹿であることは明白。まさに自分の足を切り落とさんとする愚行である。
だが、その後の行動はなんというべきか、曲芸と呼ぶに相応しいのだろうか?
分かりやすく言うなら筆回しとでも言おうか……親指を軸に筆を回す要領で、ガゼットは自身の右足を軸にして柄の部分を回して、剣先を少女にあてて見せたのであった。
「足で筆回しとかアホなのあいつ?」
――馬鹿に足で筆回しはできんって
――回したのは剣だから!
――超絶アホじゃねーか!
いくらガゼットとはいえ、技量的にも神経的にも人間の域を超えているが、そんな曲芸を見せて少女を吹き飛ばした男に、大量の魔法が降り注ぎ始める。
雨のように降りそそぐ魔法の中でガゼットは優雅に歩いていく。
――当たらない理由ってガゼットだから?
――当たったところでなんかあるの?
――ガゼット君をなんだと思ってるんだ! ……なんなんだろうな?
実際、魔法が当たればどうなるか、レンナとしても若干気になるが、意識的か無意識的かはいざ知らず、当たらない理由は偶然ではない。
歩く速度が不均一で、当たりそうな魔法を緩急だけで躱しながら歩くと、ガゼットは吹き飛ばした少女の元に着いた。
無駄だと悟ったのか、それとも少女を巻き込みたくないのか、襲いくる魔法は収まり、次は少女一人ではなく二人の男女がガゼットの方に向けて歩いていく。
「ふむぅ」
ガゼットは悩んだ様子で空を仰ぎ見ると少女の胸倉を掴み、近づいてくる二人と向き合うのであった。
「うへぇ、やな予感」
mheeen
レンナの言葉に同意するように、ペガサスは嘶いて見せると、バタバタと翼を広げて距離を取り始める。
――どうしたどうした!?
――レンナちゃん大丈夫
――なんか……不穏?
ホルダーの画面越しではあまり感じ取れないようだが、それでも異常を感じている人はいるようで、レンナにも底冷えするような恐怖が襲っていた。
少女を掴み上げたガゼットは次の目標を見定め、ひりつくような殺気が漏れ、応対する二人組も、それなりに力量はあるのか、堂々とした様子で近づいてくる。
「大丈夫よね?」
足でバスターソードを操ったり、相手の力量が想像以上にあったり――なにより、ガゼットに戦うように勧めた罪悪感から、レンナは思わず心配してしまう。
――大丈夫だろ?
――むしろ、相手の心配をした方がいいので?
――リンチか虐殺か、果たしてどっちだろうな。
レンナの心配に反してコメントに流れるのはお気楽な内容。
だんだんと二人組が近づいてくる中、ガゼットも応じるように近づいていくと――相手に向けて少女を放り投げるのであった。
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